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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season1【春】やりきれない。殉職刑事が異世界進出。
8/63

第7話 だが! 断るッ!!

相変わらずマッタリですが

ご容赦のほど、宜しくお願い致します……

( ノ;_ _)ノ

 冷たかった床は暖かみを帯び、そのまま惰眠を貪るのも悪くないなと微睡む。

 トオルは両手を頬に添え猫のように丸まり、睡魔に身を委ね春の麗らかな陽射しに幸せを感じていた。


 ぽかぽかと暖かな陽気が疲れきった身体中を包み、暢気な夢へと誘う。


 宛ら(さながら)、夢魔の如く。

 露出も派手に、色っぽい女性に囲まれている。

 柔らかなソファーに腰を深く掛け大盤振る舞いに興じる。

 高級なワインを大理石のテーブルに存分に並べ、両脇に抱き抱えたキャバ嬢があれよあれよとグラスに注いでいる。

 二の腕に伝わるふくよかな胸の感触に酔いしれて、堪らず込み上げてくる悦びに浸り、偉そうに注文を追加した。


 そもそも、トオルは二枚目から三枚目の中間具合のイケメンであった。

 サラサラの黒髪を短めに整え、童顔をアピールしては、凛々しい眉とキリッと睨みを利かす目尻がたまに緩む。

 愛嬌のある顔立ちで、且つ気配りも忘れない。

 そんな彼を嫌う異性や同性は数少なく、モテる方であった。

 胡麻擂りが上手い、とも言うが。


「じゃんじゃん持ってこ~いッ!!」


 次から次へと注文されては机の上を占拠してゆく高級酒と酒の肴。

 バーテンダーからワインの造られた年代や調法、喉越しや味わい方などを説明されるも最早そんな事はどうでもよく。

 酒の勢いと雰囲気、濃い化粧で誤魔化された美女達にちやほやされる事にうつつを抜かす。


 トオルは、今。

 半分瞼を開かれながらに、桃源郷へと誘われていた。


「……うへ……うへへへ……ん……んん? ……はっ!?」


 漸くハッキリと目覚めるも身体の節々に痛みを覚える。

 それは極当たり前の事である。

 固い床の上で意識を失い、ほぼ寝返りを打てずにそのまま眠ってしまったのだから。


「……痛たたたた……」


 丸まっていたとはいえ、カチカチに固まった上半身を起こし、辺りの様子を窺う。

 ここが何処で、どういう経緯を経て、眠りこけていたのか。

 一先ず、寝ぼけ眼で頬を伝う涎を拭き、現状況を鑑みた。


「……あ~、よく寝た……てか、ヤっちまったぁッ!?」


 勢いよく飛び上がり、先ずは窓の外を観察する。

 未だに、犯人の車は停車中。

 とりあえず、ほっと胸を撫で下ろす。

 陽の傾きから察するに、昏倒してから小1時間ほどか。

 既に事件が解決しているなら、いくら非情な先輩達でも流石に起こしてくれる筈。

 そう信じたいトオルは目の前の開かれた空間と下に降りる階段をため息混じりに見据えた。


「行かざるを得ない、か……」


 あくまでも『お目付け役』として派遣されてきたので、先へと進んだ先輩達に追い付こうと階段を降りようとするもトオルは嫌な予感しかしなかった。

 こんなにも時間が掛かるとは思えない。

 あのふたりの身に何か起こったのではないかと最悪のパターンを想像して思わず身震いしてしまう。


「願わくば……生きていますように……」


 神に祈りを捧げつつ、トオルはゆっくりと慎重に階段を降り闇の中へと潜っていった。



   ▲---------▼



 地下一階。


 地上の朗らかな春の陽気とは一転して六月中旬は雨季を思わせる湿気が支配していた。

 静寂なる闇の中、微かに聴こえてくる水滴の音がただでさえ臆病者のトオルを更に警戒させる。

 ふと何かに気付き見やると、そこには亡骸が骨となりカタカタと不気味に嗤う。


「うひ……ッ」


 たかが小動物のなれの果てであったが、彼を動揺させるに成功したので満足だろう。

 トオルは額から滲む汗を拭い、ひたすらに最奥を目指し歩を進める。

 もう、正直先輩達を放って直ぐにでも逃げ出したい。

 しかし、ここまで来て諦めるのは愚の骨頂か。

 何せ、トオルは『派出所勤務』という野望を達成したいが為にここに居るのだから。

 こなくそ、と勇気を奮い立たせ相棒のコルトパイソンに頼り、上唇を舐めては胡麻を擂り。

 最早、自分すら信じきれなくなったのだろうか。


 やがて辿り着く終着点。


 目の前には錆び付くも甚だしい一際目につく大きな扉があった。

 鍵などは掛けられておらず僅かに開いていたので、覚悟を決める。


 一呼吸置いて。


 ゆっくりと慎重に、体重を預けて扉を開ける。

 その先にはあまりにも不甲斐ない先輩達の姿があった。 


 横たわる二匹の犬。

 もとい、先輩達は地に突っ伏し、ぷわ~っと暢気に鼻提灯を膨らませる。


「んん? 何だテメエ。コイツらの仲間か?」


 煙草を愉しく呑む彼は訝しくトオルに告げた。

 目の前にいた男はバーボンを片手に床に寝転がるタカとユージをまるで虎革の床マットがわりに使い、トオルを見据える。

 目深に被ったフードのせいか顔ははっきりと確認できないが服に付着した血痕から察するに件の犯人に間違いなかった。

 トオルは銃を構え、意を決して酒に酔う犯人に通告する。


「ふたりを解放しろッ!!」


「あ? ざけた事抜かすな。こッからが本番だろうがよ……ん? まてや。テメエ……」


 ソファーに深く腰を沈めたまま、顎に手をやり怪訝な表情でトオルを伺う。


「……あ! テメエ……あん時の……!?」


 猪木ではない。


 犯人らしき男は目深に被ったフードを大胆に脱ぎ顔を晒した。

 斜めに走る傷跡が痛々しくもひと昔前の極道を彷彿させていた。

 見た瞬間、トオルは嬉しさと憎らしさが混じったような、ややこしい表情で彼を睨み付ける。


「お……お前……あん時の……!?」


 猪木ではない。


 かつて、この異世界に飛ばされてしまった元凶の。

 現世でトオルを撃ち殺した犯人がそこに居たのだ。

 だが、顔付きは確かに件のモンタージュではあったものの、ソファーから立ち上がった彼を見てトオルは思わずそのハンデに神を恨む。


 片腕はマシンガンと化し、屈強な胸筋は体躯に、鋼鉄の如く鎧を纏っていた。

 ただソファーから立ち上がっただけでガシャンとなる奇怪な機械音。

 よく見てみると、両足の付け根から蒸気を吹き出しては、至る箇所から奇妙な駆動音が各々の螺が連動しているのを確認させた。


「この世界は良いぜぇ? 連れてこられただけで此れだ! ワイルドだろ~!?」


 サイバーパンク化した彼はトオルにその様々な武器を魅せ付け誇らしげに笑う。


 圧倒的な転移特典の差別に歯軋りするも、そういえば自分も脳内がゲームシステムに犯されていた事を省みては、なんて地味なんだろうと、がっくりと項垂れてしまった。


「なぁ、これも何かの縁だ。仲良くやろうや、兄弟!」


 悪魔の囁きがトオルの心を唆す。

 だが、正義の証が無駄に輝くのだ。

 それは警察官である証明書。

 桜の大門(エンブレム)は決して悪に媚びへつらわない。

 夢叶わずとも、いつかは必ず皆が幸せになるように。

 犯罪の無い世界を実現するという使命に駆られて。


 銃口は、自然と犯人に向けられた。


「だが! 断るッ!!」


次回は11月7日予定でっす。

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