第4話 なるようになれ、だな。
「え~っと……」
手元にある資料を厳しい表情で睨み付けている。
いやーー、そんな風に見えていたのは老眼のせいだった。
分厚い銀縁メガネで、時には虫眼鏡も必要になるだろう。
緻密な文章はじつに理解し難かった。
秘書は優秀だ。
それは分かるーーー分かるのだが。
「これ、何て読むの?」
「僥倖です」
明日までにすべて頭に入れなくてはならない。
トチることなど決して許されなかった。
「これはどう読むの?」
「磊磊落落です」
「……使うときあるの?」
難読漢字クイズでも取り扱われないだろう。
いくら歳を経ても限界が無いことを改めて思いしらされるのだった。
斯くしてーー、異世界ネオトキオの頂点に君臨した。
ぷよぷよの塊ーースライム。
これは彼によるどうしようもない呟きだったのかもしれない。
余談だが……四つ以上揃うと消えてしまうらしい。
転生したらスライムで総理大臣だった件。
予習・復習を何度も繰り返してから当日ーー。
「ねぇ総理、このままで良いんですか!?」
「あると思います」
とある詩吟風に言った。
緊急事態だというのにだ。
ーーなんでも有りな異世界ではあったから。
「そんなことで務まるとはーーまるで思えませんが!?」
「「「そうだ! そうだ!!」」」
「え~……さまざまな検知からみるに正しいのではないだろうかと、そう思い、決断したのであります」
あらかじめ準備されていた文面をつらつらと読んでゆく。
カリスマ性など皆無に近い。 なぁなぁ感は否めない。
「静粛に!」
異論は認めない。
議会を進行するために召喚された裁判官。
非常に優秀な進行役の小鎚が響き渡る。
「なんならーー全員、地獄に落としてやろうか」
異世界に於けるえん魔さま的な強力な味方。
魂を振り分ける実力者だった。
分厚い黒ひげと和服と、鋭い眼光。
そのままなら被害が拡大していく一方だろう。
それは大怪獣が現れてからすぐに緊急招集された大広間での会議ーーというよりただの罪の擦り付けあいのようにも思える。
政治家というのは異世界に於いても。
自分の主張が罷り通れば良いというだけらしかった。
「だからーー」
「今こそ自衛隊をーー」
「いやーーこれはもう戦争じゃないかね」
「ZZZ……」
「おいっ、寝てる場合じゃあないだろ!」
「ったくーー。会議に出てるからって無駄遣いじゃあないかね」
大小さまざま、ネオトキオの各種族の代表が集っていた。
最後に愚痴っていたのは昆虫族の筆頭主だった。
三本の角が虹色に煌めいている。
「コーカサス氏、だまらっしゃい」
死ーーーン。
誰もが静まり返った。
それは裏社会とも通じあい、巷では総理大臣よりも偉いとされている取締役の声だったのだ。
ネオトキオの全権はほぼ彼女にあるといっても過言ではなかった。
「今はまだーー見守るべきではないでしょうか? 総理」
限りなくストイックに。
余りある美貌を漆黒のスーツに包み、じつに艶かしい。
叩き上げだが、極細な銀縁眼鏡。
絶世の美女、海蛇族代表のアマンダによる提言だった。
「うむーー、そうであろうな」
アマンダが言うなら正しい。
誰も異論は唱えやしないだろう。
実質ーー、海の支配者が関与している。
つまりはーー。
「今件は、彼らに任せることにする」
決定権をがどうしたら良いのか。
当事者は内心いまだにあわてふためいているというのに。
\(^o^)/
「ぅえぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~い!!??」
被害を最小限に抑えるように努めていた当事者トオルはそんな誰かの命令に従うしかなかった。
愛するひとを守るためにーーと。
そして全てが悪夢であればよかったと。
つまり異世界でも、しょせん歯車にしか過ぎなかったのだった。
「もはや……この刑事に任せるしかないだろう」
「いや、おかしくない? 事件は現場で起こってるんだよ!!」
レインボーブリッジは封鎖されていたし、スカイツリーやTOKIOタワーは色めかない。
ズズゥン……下町の浅草は踏み潰されてしまっている。
跡形もなく。
「ちょ……先輩!?」
「ガタガタ抜かすな、トオル!!」
その手綱は彼らに委ねられていたのであった。
いままでとは規模が違うことに、トオルは頭を抱えるしかない。
「なるようになれーーだな」
あと10話ほどで終わります(たぶん)
どうか、お付き合いくださいませ。




