第3話 腐ってようが。
その異変に最初に気づいたのは極めて早い朝方。
水平線上に朝陽がまだ見えやしない。
いわゆる丑三つ時を少し過ぎたあたり。
それはここ異世界でもーー、よほどハードな仕事なのだろう。
とにかく誰にも負けないぐらいに早い勤務時間。
ニワトリすらまだ眠ったままだった。
「よっこいしょーいちっと」
古臭い。
だが何かしら言わないと気が済まない。
仕込み作業に捻りハチマキ。
勤勉過ぎるのが取り柄。
妙にハチマキが似合うのは、八本足だったからだろうか。
漁船『たこまる』の主人、ひとりごとに定評のある漁師ーー、明石家夢吉サンマは地産地消の腕に長けている。
そのうえ料理の腕も一流で、こじんまりとした割烹だが三ツ星以上の評判らしかった。
「さて、と……」
これはそんな彼が漁に出掛けた矢先の出来事だった。
ここーー、ネオトキオはさまざまな異種族で構築されている。
とにかく予想がつかない。 非日常の連続。
ただその異世界の住人である夢吉からしてみればいつもどおりだ。
新鮮な食材を求めて帆をはり今日もまた、いざ大漁旗を掲げんとしていた。
まだ見ぬ大海原へとーーーー。
ズゴン。 ばっしゃあああああん!!
意気揚々としていたのに、真っ逆さまに堕とされてしまった。
「でざいあああああ!?」
最新式のレーダーにも反応しなかった。
ただ勢いよく何かにぶつかったのは確か。
どうやら船底には大きな穴があいているらしい。
いきなり窮地に陥る漁船『たこまる』。
「えぇ~っと……どないしようかな?」
まず冷静に対処しなくてはならない。
夢吉は先ずーー、船底に向かった。
「あちゃー、バンドエイドでどないかなるかな?」
そんな応急措置でどうにかなるわけがない。
何枚か貼りはしたがズブズブと沈んでゆく。
当然だろう。
次々と海水が染み込んできた。
これはもう、笑い事では済まされないレベルだった。
致し方なく甲板に戻ると。
「か…………怪物…………」
目にした怪物のその姿に夢吉は、ただその行方を眺めるしかなかったのだった。
最愛の漁船『たこまる』を捨て、命からがら。
泳いで、泳いで、泳いで、ひたすら泳いで。
岸辺に辿り着いてからーーー
「どないなっとんねん」
少しして。
ふたりの刑事が地上でものすごく楽しそうにしていた。
<゜)))彡 <゜)))彡 <゜)))彡
「結局ーー、俺らがどうにかしなくちゃならないんですかね!?」
3人目の刑事。
後輩のトオルは愚痴るしかなかった。
異世界デビューして慣れたつもりではいたが、いろいろ追い付かないのも当然だろう。
「いや。いやいやいやいや~……」
問題は山積みだった。
超巨大な怪獣の頭部で被害を最小限にしようとしている危ない刑事のふたりの姿は見えていたが、それ以上に。
先輩たちにも見えていないらしい。
彼だけに見える、操り糸を足らしている悪魔と天使の姿があった。さらにその上から微笑みかけてくる。
『神は死んだ』と何かで学んだことはあったが、トオルはそんなのウソだろうと思わざるを得なかった。
学校で学んだことーー、その全ては間違いではなかったのではないだろうか。
「よし。一旦整理しよう」
第一話から。
それはしたくない。
巻き戻すのは面倒だ。
Re:ゼロからとかやり直すとかそんなのは絶対にイヤ。
春夏秋と経てーー、真冬に。
いま目の前にしている光景を理解しなくてはならない。
成し遂げなければならないーー、なら。
まず何から処理すべきか。
「ぐぎゃあああああああ!! アオオオオオン!!!!」
悩んでいる場合などではない。
まさしく、のっぴきならない状況だというのに。
「「ヒャッハー!!」」
大怪獣の頭部で好き勝手やっている、ふたりの先輩。
まず彼らを制御すべきだろうーーとりま。
「こんなのしてたら、ぜったい終わりませんよ!?」
「よぉトオル。お前もこっちに来いよ!」
「ハデに逝こうぜぇ!?」
どうしてーー、こうなった。
あの銃弾から、飛び込んだ異世界に。
などと嘆く場合ではない。
我が家では可愛いパートナーが待っているのに。
彼女とひたすらイチャイチャしたい。
それが本音だったーー。
「この歌、好きなんですよねー」
最愛の彼女が懐から取り出したのは旧世界の遺物だった。
再生と録音、巻き戻しを司る。
テープレコーダーからーーー、がちゃっと。
突如、ふたりの歌い手が召還された。
手のひらで収まるほどの小さな小人。
その透き通る歌声には、誰もが祈ることだろう。
ただ、召還の儀式だったとは思いもよらなかった。
ぐおん、ぐおん、ぐおん、ぐおん、ぐおん。
ぐおん、ぐおん、ぐおん、ぐおん、ぐおん。
ぎゅうん、ぎゅうん、ぎゅうん、ぎゅうん。
それは闇を切り裂いてやってきた。
遥か彼方ーー、異次元から。
劣悪な表情の微かに正義感を感じる。
子供を助ける為ならば、たったひとりで立ち向かう。
「うわーお、これって夢の対決だよね~」
かたや破壊の権化、かたや守護者。
グルグルと回転する巨大なーー、アルティメット亀。
「へぇ~……ナンでもありなんスね?」
傍観者としてーー、トオルはただ見守るしかなかった。
蒼白い閃光とーーーー、強烈な旋回。
それはまるで最強を決める闘いのようであった。
異世界で。
「「うひゃあああああああああああッ!!!!」」
勢いよく飛んでいった。
先輩が無事であったら良い。
かっ飛ばせ。ぐわらごわらがきーん。
怪獣にしがみつくだけで精一杯だった。
トオルはただ成り行きを見守るしかなかった。
自衛隊という軍隊に要請するーーそんな当然な考えすら。
「……これもう、警察の仕事じゃあないでしょ……」
一介の刑事の独り言。
誰からみても、傍迷惑な出来事でしかなかった。
「前は宇宙人騒ぎだったけどーー」
最終回なのかなって思った。
ふと、いつか聴いたことのあるフレーズがトオルの脳裏を駆け巡ってゆくーーそしてダメ押しに。
手のひらに収まるほど小さな双子が、さらに混沌を誘き寄せることになるとは。
光輝く鱗粉を撒き散らすーー、超巨大な蛾が羽ばたき現場に訪れてくるとは。
「う~ん……よくわかんないけどなぁ……」
ひとまず分かるのは決戦間近だと、それだけ。
あ、これはあれだな。
いわゆる決めゼリフを待っている。
ならばとーー
「たがが外れてようが腐ってようが、それを守るのが私らの仕事です」
トオルはどちらかといえばガ△ラ寄りだった。
破壊するだけで味方を増やすゴ⬜ラよりは。
まだダラダラします。
ラストまでいろいろ見直しては(爆)




