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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season1【春】やりきれない。殉職刑事が異世界進出。
6/63

第5話 ……手間のかかる事を……ッ!!

短めです。

ちょい汚ない描写あり。

「に、しても……おかしいな……」


 野郎3人は互いに頭を捻り考え更ける。

 窓の外をチラリと見てみると、未だ犯人が使用した車が停められたままなので、此処に居る事は確かな筈だ。


 話を聞くに、既に先輩達は五階までの全ての部屋を探索し終えていたらしい。

 彼等ふたりは応接室らしい室内でボロボロに草臥れたソファーに深く腰を掛け、逡巡し、可能性を探ってみる。


「もしかしたら……」


 トオルは先程出会った化物の事を身振り手振りを交えて、ふたりに説明した。


「あぁ、あれは害はない。そこまでデカイ奴は珍しいが……署内でも飼っているからな」


 ゾッとする話。

 トオルは思わずドン引きする。

 分かりやすくいえば『掃除のおばさん』らしい。

 後でもう一度使用したトイレを見に行ったところ、まるで新品同様にピカピカになった便器を見て正直安堵した。


「ってか、トオル。トイレぐらい我慢しろよな~、ったく。捜査中だぞ?」


「……すみません……」


 正座をさせられ、しゅんと落ち込むと同時に、決して家以外で排泄行為などしてなるものかと強く心に刻み込んだ。


 だが、ふと思い付きトオルは単純な解答を提出してみた。


「というか……一階から五階まで何もなかったんなら、地下とかあるんじゃあ?」


「「……あ!」」


 全く思い付きもしなかったのか。

 先輩達は互いに顔を見合わせて馬鹿っ面を晒す。


「やるじゃん! トオル!」


 彼の背中をばふばふと勢いよく叩き、自分達の不甲斐なさを上手く誤魔化したかのように立ち振る舞うユージとタカ。


「よし、なら3人で行くか」


 掛けたサングラスをわざわざ掛け直し、タカは銃弾を確認している。

 まだ、この廃ビルに来てから一発も使っていない。

 満タンに成っているのを見届けシリンダーに填め、懐に仕舞い込んだ。


「それに、しても……地図の一枚ぐらい置いてないモンかねぇ……」


 ユージは煙草を燻らせながら、疑問を呟いた。

 普通、五階まで有るような施設・建造物なら壁に掲示されていたりするものなのだが。

 その全てに於いて取り外されており、何処にもそれらしいモノが見受けられなかったのだ。


「この部屋って隅々まで調べましたっけ?」


「ん? あぁ、机の中からカーテンの繊維まで調べたぜ?」 


 鋭い犬歯をぎらつかせ、自信満々な表情でユージは答える。

 どこまでが真実かよく分からないが、とにかく凄い自信だったので、敢えて突っ込まず放置する事にしたトオル。

 もしかしたら、何か有るかもしれないと思い、正座の体勢から一転、床に這いつくばり目を凝らす。


「……ん? 何だ……これ?」


 射し込む陽光により、ソファーの下でキラリと光る物があり、その様子を見て軽く驚く。

 そのもの自体は『鍵』っぽいのだが、何故か縦に斜めにとくるくる回転し続けていたのだ。

 手を伸ばし、ぐっと掴む。

 突然、頭の中に先輩達ではない何者かの声が鳴り響いた。


  ---『masterKey・type1』を入手しました。アイテムBOXに入れますか? yes/no---


「うわッ!? 何何何ッ!?」


 トオルは激しく動揺し、腰をひどく床にぶつけてしまい、周囲を見渡した。


「どうした! トオルッ!?」


 きょとんとした表情で、だが意外にも心配そうにトオルを慈しむタカ。

 肩に乗せられた彼のふかふかの手の感触に癒され、少しだけ冷静さを取り戻す。


「い……いえ……何でもないっす……」


「ナニよナニナニ~? ……やっぱ危ないクスリやってんじゃあねぇだろーな……」


 ユージは彼から少し距離を取り、ぐるると訝しむ。


「やってないっすよ……んなモン……」


 とはいえ、自分でもそう思う。

 この世界に連れてこられてからというもの、明らかにおかしいのは自分の方なのだから。

 周りの皆は、ごく自然に接してくれるというのに。

 馴染まなければ、此処はそういう世界なのだからと。

 トオルは何時にも況して、深呼吸をして己れに言い聞かせる。

 きっと、これがこの異世界のルールなのだろうと割り切り、一呼吸置いてから、先程の鍵をもう一度手に掴む。


  ---『masterKey・type1』を入手しました。アイテムBOXに入れますか? yes/no---


 心の中で、「yes」と呟く。

 すると上着のポケットからチャリンと音が鳴った。

 そして中身を、鍵を確認する。


「……手間のかかる事を……ッ!!」


 無情なる魂の叫びは苛立ちを吐き出させた。

 とにもかくにも、ゲームっぽい要素が足されているのだと己れを納得させる。

 臆病者だと自負するトオルだったが、そのくせにホラー映画を観に行ったり、その手のゲームをプレイした事があった。

 感覚的にアレに近いのだろうかと、試しに、強く念じてみる。


「……アイテムBOX……オープン……」


 ヂャッカッ。


 妙な機械音と共に視界にウィンドウが表示される。

 幾つかの升目があり、うち1つには先程入手した鍵があった。

 三角のカーソルらしきモノが上部にチカチカと点滅していたので、指先でそうっとタッチしてみる。


  [ ◇『masterkey・type1』◇ 『zone・廃墟』の全ての扉or鍵穴を解除する事が出来る。使用回数は無限。取り出し可能。 ]


 くるくると回転する鍵はキラキラと光輝き、詳細を示した。

 ズームアップなども出来るようで施された装飾の細部に及び観察が可能だった。


 それにしては、自分が愛用している銃などはアイテムBOXとやらに適用されていなかったのが少し気になったのだが、さておき。

 暫く演出画面を見続けていた彼の身体に唐突に異変が訪れる。


「ぅあぁ……目が……目がぁぁぁ……んぅぷ……」


 激しく眩暈を覚え吐き気を催し、トオルは無意識に近い感覚でウィンドウを閉じた。

 それは『3D酔い』というヤツだった。しかも、かなり酷い症状である。

 彼はふらつきながら、床に手を付きつつも、嘔吐だけはしてなるものかと必死に堪える。


「おいおい……大丈夫か?」


 ユージはそんな彼の背中を優しく擦り、更に助長してしまう。

 やがて、込み上げるのを我慢しきれなくなり、堪らず吐瀉物は虹色に輝き床に盛大に撒き散らかされた。

 飲んだ珈琲の臭いがブレンドされ、周囲を悪臭が包み込んでゆく。


「おぼろろろろろろ」


「うぅわッ!? えーんがちょ!! くっせぇ!!」


「えーんがちょ!! くっせぇ!!」


 謎の呪文を唱え、鼻を手で塞ぎ、その場から大きく飛びずさる壁際の先輩方。

 先程までのトオルへの心配など最早皆無であり、遥か地平線の彼方へと投げ棄てた模様。


 涙や鼻水を垂れ流しながらトオルは彼等を見て、あぁ、やはり先輩達はこの世界でも相変わらずなのだな、と嘆き諦めるのであった。



今月はこれでラスト。

次回は11月1日ぐらいの予定でっす。

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