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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season 4【冬】けじめなさい、あなた。
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第2話 何にも見なかったことにして良いッスか?


「よっしゃあ!! どーよ!?」

「あー、はいはい。すっご」

「やんじゃん、マジで~」

「したらさぁ……コレも欲しいンだけど」

「ふふんーー余裕のよっちゃんってのサ♪」


 モテ期が到来した。

 いままで一匹狼だったーー、見た目どおりに。

 たとえ騙されていたってかまわなかった。


 右手は添えるだけ。

 シュートを極めるたびに得点が加算され、次々と熱い視線を集めてゆく。

 『you、Win!!』と機械的だが、祝福の鐘が鳴り続けていった。


「まだまだ、イっちゃうよ~ん♡」

 

 さまざまなジャンルの遊戯が融合している。

 カラオケやビリヤード、競馬など。

 太鼓を叩くゲームがギターやダンスゲームと融合していたのがじつに凄い。


 そのほとんどは金銭ではなくメダルで管理されている。

 スポーツコーナーも充実していてーー、その一角でバスケットボール。

 連続して二十回ゴールはもはや記録的だろう。


 同じ種族ではなくても問題などない。

 狼族の高校生男子が三人の羊族の女子高生に取り囲まれていたのだったーーふさふさともこもこ、ぼいんぼいん。

 そりゃあ本気を出さざるを得なかった。

 

「あはっ♡ もっともっと♪」

「ギューTUBEにもあげちゃえ、バズっちゃえ♪」

「アタシもイッとこっと」

「言っとくけどーー、伝説に名を残しちゃうぜ?」


 五十代でさえ記憶に古い。

 そんなレトロゲームですら取り揃えているのはかなり珍しいことだろう。

 ジ○イポリスという施設は、ここ異世界でも名を馳せていたのだ。

 老若男女が集うーー進化を遂げたここは"AKIBAHARA"と呼ばれていた。

 

「次も極めるぜ!」

「「「わー、パチパチパチパチ」」」


 冬休みを利用して朝早くから青春を謳歌していた若者たちは、次の瞬間。

 施設に備わっていないアトラクションに思わず「うわっ」と姿勢を崩してしまう。


「えっ? なになに!?」

「じ……地震!?」

「ちょっと、どこ触ってんのよ!!」

「大丈夫かい? それにしたって……」


 ぎょろり。

 その眼差しは、ただ恐怖を突きつけてきた。

 ゆっくりとフェードアウトしてゆくと、カパッと開く。

 オレってこう見えて肉食系なんだぜ?

 なんていう自慢は、一瞬で消え去るぐらい。


 順番に蒼白く光輝く鱗とーーー

 一瞬にして遊技場は掻き消されてしまった。

 次は何処だ、誰だ、何者だ、など意に介さない。

 ただの凶悪な大怪獣が暴れまわっていたのであった。

 一歩踏み出すだけで悉く薙ぎ倒されてゆく。

 まるで地獄のようなそんな惨状を目の当たりにしつつ、危険を回避して辿り着いた。


「ありがとうねっ!!」

「ちょっとお客さん!?」

「つけといて!!」


 手練れのタクシー。

 うろちょろするのに秀でていたネズミ族の運転手に投げ放つ。

 いまはただ、出勤のタイムカードにはやく打ちたかった。


 プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル。

 事件は現場で起きているーー、会議室などでは決してない。

 職場は、屈強な歴戦の刑事でさえ受話器を片手に謝っていた。


「おい、二番だ!!」


 おはようございますの挨拶すら許さない。

 当番がいない、開いた机の受話器を取るや否や。

 かつてコールセンターで働いた経験値が物を言う。


「はい、こちら湾岸署は刑事課でございます。 どうなされましたか?」

「いま、目の前に怪獣が……うわぁぁぁぁ!!」


 ぷちっ。

 悲鳴と共に直ぐ様、遮断された。

 つーつー、と。

 あぁ、これは御愁傷様。

 間に合わなかったのだなぁと。


「課長!!」


 明らかにこれは不始末だが優先順位というモノがある。

 お偉いさんに任せるべきだと、トオルは思った。

 これは決して責任転嫁などではない。

 さてーー、その本人といえば。


「ひとみちゃん、お茶」

「はい、どうぞ」

「ずずぅ~……、うん。今日も美味しい。二階級特進!」

「ありがとうございますぅ♡」


 今では見慣れてしまっていたが、どうしたって柴犬がパグ犬と戯れているようにしか見えなかった。

 

「お、茶柱がたってるよ~♪」

「良いことありますよ、きっと♡」

「いや、そんなに和んでいる場合じゃあないですから!!」

「どうした? そんなにまくし立てて」

「いや、逆に……どうしてそんなにのんびりしているんですか!?」


 周りはものすごく忙しくーー、こうして話している最中にも地響きが鳴り響いていた。

 その度に受話器を掴む署員は猫の手も借りたかったことだろう。

 ただ猫族の大半は迷子たちばかりで、まったく役に立たないことが目に見えていた。


「と、に、か、く!!」


 いろいろ言いたいことが特盛りだった。

 だがそれ以前にーー、ここにあのふたりが居なかったこと。

 トオルはそれが不思議でならなかった。


「あのー……先輩たちってどうしています?」

「ん? あいつらなら……ほら、あそこ」


 実質ボスだが、サングラスは似合わない。

 カーテンのシャッター越しに薄く見える。

 道理で怪獣が暴れまわっていたワケだ。


「ヒャッハー、ローレンローレン、ろーはいっ!!」

「おいユージ、お前ばっかズルいぞ! こっちにも寄越せや!?」


 手綱を握っていたふたりの刑事がそこにいた。


「ん~~~、何にも見なかったことにして良いッスか?」


 じつは至って冷静だった。

 むしろ、彼らふたりの行いにたいしてトオルにしか立ち向かえられないと知っていたから。

 さりげなく取り出した書類にポンと判子を押した。


「うっそ~~~ん」

「お前ならできる!!」

「そうですよトオルさん!!」


 まだ抱えている違和感を拭えずにいたのに。

 ひとまず、一から片付けてゆくしかなかったのであった。

 

「くっそ…………今に見てろよ……!!」


 せっかく綺麗サッパリにした机の上がまた特盛りの書類で埋まる。

 それだけは避けたかったからーー、まるで主人公のように飛び出していった。


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