第12話 ごめんなちゃい。
「良い夢みてるね~、ハハッ☆」
それが彼に授けられた異能力だった。
男性用の礼服の一つーー、タキシードがじつによく似合っている。
軽く指揮棒を振るうだけで、皆を楽しい夢に誘う。
ただ、笑うことで誤魔化してきた。
「にゃあ、にゃめてんのか!?」
「滅相もございません!! ハハッ☆」
「なぁトム。 もう、こいつシメちまおうぜ?」
地獄の日々だった。
弱者はあくまでも弱者でしかない。
回数制限のあるトランポリンや、魔力を秘める扉を駆使する。
憧れていた、そんな警察官になどなれなかった。
○ッピーにもなれやしない。
しょせん、ただのネズミにしか過ぎない。
ただもうこれで最後だとーー、そう覚悟していた。
餌になろう。
なるしかない。
美味しく味わってくださいと。
「それで良いのか?」
「…………え?」
突如、遥か高く、頭上から聞こえてきた。
それは宇宙からの囁きと共に、世界を支配する異能力がやがて与えられる。
進化ーー、というより覚醒する。
「あはははははは☆」
コミカルに躍り続けている、星を降らせる。
異能力を与えたことを後悔させてやる。
真の支配者は自分だと。
「Let's dance♪ ハハッ☆」
踵を鳴らす、タップダンスのように。
一人舞台みたいにーー、軽やかに。
やがて暗躍することになった。
何度も名前を更新してーー、今では三ツ木という偽名を流用している。
仲間内でミッギーと定着されつつあったのだった。
(U´・ェ・) (^ω^U) (U´・ェ・)
「……ま」 「…………さま」
「トオルさま!?」
「はいっ! 俺ですけどっ!!」
じつに長い夢を見ていた気がする。
だがそれは瞬間的な夢だったーー、悪夢というよりは予知的な。
もしかしたら、それは他人の生き様に関与する異能力ではなかったのではないだろうか。
「え~っと、いまどこなんだろ?」
それは人質の和凛を救いだした、秘密結社の密室の片隅だった。
「「「えいえいおー!!」」」
極悪非道な、反撃の狼煙をあげている。
「先ずはーー、味方を増やそうぜ?」
「そうだね、ハハッ☆」
「とくにーー、捕まってる鬼のヤツとか。 あとサムとかいう暗殺者とかも居たよね?」
「犯罪者による世界を!」 「一方的な戦争を!!」
「それーー、いいね☆」
やり直せたことにーー、ただ感謝せざるを得なかった。
彼らの提案をより良いモノにしようとする。
「だったら、こうしませんか?」
見てきたままの夢から、ぜんぶなかったことにすればと。
胡麻をするのは得意だった。
トオルは今だけ、悪役として参加する。
「なるほどーー、さすがトオルさま♪」
それは嬉しかったが、心は痛かった。
「ゴメンね…………」
やり直そうとしている。
途中からーー。
一番始めに出逢った恋。
屈託なく、はにかむ。
ドラゴンのベニーの笑顔が何気なく、眉毛を潜めていた。
「あら、そんなので良いんだぁ……」
「ごめんなちゃい!」
トオルは心のなかで、ひっそり手のひらを合わせた。
今回だけですからーー、と。
そんななか、またひとふり。
軽やかなステップで指揮棒から魔法が飛び出す。
それは今章に於ける、登場人物の生い立ちだった。
「やっと来たわね、ワタシのターンが」
「ぐわっぐわっ、俺モナー」
チャイナドレスの似合う大熊猫と、出番があまりにも少なくて記憶にも残らないアヒル。
プーンとダナルディの生い立ちが、まるで絵本を読んでいるようにやさしくーー、雪崩れ込んでいった。




