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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season 3【秋】忌々しい。 美味しいモノが待っている。
45/63

第3話 た……食べないでねっ!?

控えめなつもりです……。

|д゜)ジー


「どこ視てんのよ~~~~~う!!」


 それは、とあるCMのような悲鳴だった。

 美容外科はいくらあっても嬉しいモノである。

 いえす、高◎クリニック。

 らぶ、共▲美容外科。


 ポカポカと、柔らかい湯気を撒き散らかしながら、一糸纏わぬ女が叫んだのだ。

 いわゆる全裸。

 ひとめ見渡した限りでも、辺りは素っ裸の女性たちで埋め尽くされている。

 

 ただ、彼にとっては決して刺激されることはない。

 なぜならば、そこは異世界の住人たちで埋め尽くされていた銭湯(・・)だからなのであった。


「キャアアアアアッ!?」


 女風呂である。


 まるで絹を割いたような悲鳴が鳴り響き、やがて次第に膨れ上がってゆく。

 実際に絹を割いても、そんな声になるとは到底思えないのだが。


「……ここは誰? 俺はどこ?」


 かなり間の抜けた第一声を放つトオル。

 彼はつい先ほどまで、野郎ばかりで鬱陶しさを感じてしまうほど、真剣な現場(・・)に居たハズだった。


 だが天国とは言いがたいものの……つい、嬉しくなってしまう。

 自分だけが服を着ていたのはマナー違反だと分かってはいつつも。


 とはいえ、目の前にいたのがリザードマンの女性であったのが残念でしかならなかった。

 確かに、美bodyとも言い切れるほど、体型は見事なまでにボン・キュ・ボンの三拍子で洗練されてはいたとはいえ、全身余すことなくビッシリと覆われた鱗にはまったく食指が動かない。


 少なくとも、トオルにはリザードマンの裸体にまったく色気は感じられなかったのだろう。

 いち人間(・・・・)として。


 ほかにも、ゴブリンやコボルト。

 はたまた、オークやスライムの女性なども居た。

 岩の塊に見えたのは、果たして何の生き物だったのだろうか。

 爆発しかねない勢いで、その全身を真っ赤に染めていた。


 ともあれ ── あまりにも想像がつかないし、誰トクでもないのは定かである。

 こうなると、もはや溜め息をつくしかなかった。

 どうせなら、人間に酷似している住人はいないものかとトオルは眼を配らせてみる。


 すると ── 居た。


 湯船に浸かるその姿は、とある温泉番組の紹介を預かるナビゲーターの熟女を彷彿させている。

 ただ、トオルが気付かなかったのはその下半身が()の尻尾であったということ。


 それは現実世界において、『スキュラ』と云われる伝説の怪物に他ならない。


 そして悪いことに、彼女は異性(トオル)に裸体を視られることにまったく抵抗がなかったのだった。

 寧ろ、勢いよく紅潮していく頬とギラついた眼差しは彼の心の奥底まで一気に侵食してゆく。


「ねぇ……。 コッチ(・・・)においでよ……♡」


 他の誰にも聴きとれないような囁きがトオルの心の中へとじんわりと忍び寄る。


 (゜ロ゜ノ)ノ?


 これにはたまらずビクッと身を捩る。

 決してうやむやになんて出来ないほど、下半身は正直に反応してしまっていたのだ。

 どうやら、息子(マイ・サン)は立派に聳え立っている。


「ハァハァ……♡」


 トオルが性欲に委せてスキュラのもとへとフラフラと近づきかけた、まさにその時だった。


「チッ……。 ハズレ(・・・)アルヨ」


 欲望に誘われかけたトオルの首もとを即座にむんずと掴み、彼を現地に運んできた元凶が忌々しげに愚痴る。

 その姿は、小さな中華帽のような物を頭にちょこんと乗せた大熊猫(ジャイアントパンダ)なのであった。

 ぶかぶかのチャイナ服が妙に似合っている。


「次、イク(・・)アルヨ」


 多勢に無勢か。

 夥しい数の桶がふたりに投げつけられようとしていたまさにその時、そこには何ごともなかったかのようにして姿がまるっと掻き消された。


 少なくとも、魔法(・・)が存在している世界なのである。

 超能力(・・・)みたいなモノもあっても可笑しくはない。


 トオルは、こちらの世界に転移する前に何処かで聞いたような、耳にしたようなことがあった。


 1秒と経たずに、目まぐるしく移り変わる風景。

 思えばトオルは今、無料(タダ)の異世界高級旅行を満喫していたのかもしれない。


 それはいわゆる ── 瞬間移動(テレポート)能力なのであった。



「うわらばっ!」


 そのひとことにすべてを置いてきた。

 そう言っても過言ではない。


 ただ、先ほどまでの嬉しいような哀しいような光景とは違い、たどり着いた場所は眼を逸らしてしまうほど、かなりドギツ(・・・)かった。


「あぁ~ら、ご新規さんかしら♡」


 筋骨粒々のママさんが言った。

 もしかしたら、パパさんかもしれない。

 高級そうな和服を見事に着こなしている点だけは評価する。


 マウンテンゴリラのクラブのママ。

 そのイケメンっぷりは常軌を逸している。

 シャバーニ、と呼ばれていたのは源氏名なのであろうか。


 ただ、決してトオルの行き着けの飲み屋などではなかった。


「マタ、ハズレ(・・・)アルネ。 次イクアルヨ」


 座標がしっかりと特定されていないのだろうか。

 こうなると、手当たり次第に瞬間移動(テレポート)しまくるしかない。


 斯くして次は ── 。


「たわばっ!?」


 転送されてきた場所がよほど悪かったのか、尾てい骨に強烈なダメージを受けてしまった。

 思わず涙がチョチョ切れそうになるも、どうかこれ以上は無事でありますようにと願うしかない。

 そう、トオルは心底祈っていたのではあったが、まったくといって神様に聞き入れられることなどなかったのであった。


「ごえっ!?」


 叩き付けられたひんやりとした感触。

 それは不愉快に冷たい床の感触の連続だった。

 頬に伝う冷たさよりも先に吐き気を催してしまう。


 いったいぜんたい……。

 何が自身に起きたのか、トオルは今、混沌の最中にいる。

 そして、身体はなによりも正直であった。


「う……おえ。 おぼろろろろろっ」


 三半規管とは、よっぽど慣れた者にしか働かないのだ。


 トオルは勢いよく虹色を描きつつ、腹の中身を全て吐き出してしまう。

 異臭が実に床にしっくりと馴染み、辺りは、えもいわれぬ雰囲気が漂っていった。


「おいおいおい……何なんだよ、コイツぁ……ははっ♪」


 あまりにもキツい香りに鼻を摘まみつつ、怪訝な表情で窺うのは ── こじんまりとした格好の、小動物のようだった。

 ただ、そのみなり(・・・)に比例していない豪奢な座椅子が彼の地位を言い表している。


「ボス……コイツが例の()でさぁ」


「ははっ♪ まぁ……上手くやったというべき、か?」


 見た目、主従関係は逆転していてもおかしくはない。

 何故ならばボス(・・)と呼ばれた者には、まったく威厳すら感じられなかったのだ。


 ふわふわの毛並み、そして愛らしい姿。

 ピンと伸びた尻尾と丸々とした耳。

 とある有名なレジャーランドのマスコットキャラクターのような愛嬌のある()がワイングラスを片手に佇んでいたのだ。


 漆黒のスーツと、膝の上に乗せられていた大人しい黒猫を甲斐甲斐しく撫でている。

 どうやら立場は完全に逆転しているらしい。


「で……首尾は? ふふっ♪」


「上々でございまする」


 部下らしき者が恭しく膝まつき、トオルを連れてきたもう一人へと視線を移す。


「完璧アルヨ」


 偉そうにふんぞり返る大熊猫(ジャイアントパンダ)


「おい、プーン! 御膳の前だ! 控えろ!!」


 まるで友達に接するような口ぶりに腹が立ったのだろうか。


 プーンと呼ばれた彼は微かに舌打ちをするも、権力には逆らえない。

 こと、実力と権力には絶対に越えられない壁があるのであったのだろうか。


「はっ! ダナルディ様。ならびに偉大なる領主 ── ミッギィ様……」


 かしずくプーン。

 ちなみにダナルディとは、偉そうに指示を下すアヒルであり、ミッギィとはボス(・・)の名前に他ならない。


 ダナルディと呼ばれたでさえ、愛狂おしいアヒルの姿であったというのに ── 愛嬌だけでボスの座に辿り着いたのではないだろうか。

 そう、感じざるを得ない。


「ははっ♪」


 甲高い笑い声が暗闇を狂気に染める。

 

「良いよ~、ダナルディ。 プーンだって悪気があったワケじゃあないし……ネ?」


「無いアルヨ」


 有るのか無いのか。

 無いのか有るのか。

 どちらにせよ、はっきりしない。


 聞きようによってはふざけているようではあったが、彼は到って真剣なのである。

 常日頃から手離せない大好物 ── ハチミツ味の煙草を我慢していたのが、それをよく物語っていた。


「ダナルディ。 あんまりプーンを苛めちゃあいけないよ? ハハッ☆」


 その言葉の意味は、今、トオルが此処に拉致・誘拐されてきたということに他ならないのだろう。


「確かに……。 プーンの瞬間移動(テレポート)能力は超一流ですからなぁ……」


 途中経過を知らない者は、あたかも分かっていたかのように知ったかぶりを労していた。

 ダナルディはさらに告げる。


「で……どう処理しますか? コイツを……」


 いったいどこから取り出したのか、スラリと延びた大剣の刃がトオルの首筋へと宛がわれた。

 十分すぎるほど研ぎ澄まされていたのか、軽く宛てただけで血が滲む。


「た……食べないでねっ!?」


 少なくとも、トオルからしてみれば窮地(ピンチ)以外の何物でもない。

 そもそも、何がどうしてこうなったのか理解すら出来ていないというのに。

 三人の極悪な犯罪者らしき者達による取り調べを受ける刑事。

 

 ただ、次の瞬間。

 トオルはいつしか聴いたような、懐かしい声を耳にする。

 名前は一切思い出せなかったのだが。


「よぉ……。 また会ったなァ……」


 闇の奥から現れたその姿には、もはや人間であった頃の面持ちなど殆ど残されてはいなかったのであった ── 。



それぞれのキャラクターモデルはご想像におまかせします。

まだ、ヤバいネタがあるけどなぁ。

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