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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season 3【秋】忌々しい。 美味しいモノが待っている。
43/63

第1話 はて? 何のことですかな~~~?


 食欲の秋。 スポーツの秋。

 芸術の秋。 読書の秋。


 秋にも色々あるが、周囲から聴こえてきた賑わいから推測されたのはかなり甚だしい掛け声でもあったり、まるで真夏を彷彿させるほどのアツい喧騒なのでもあったのだ。

 せっかく涼しくなり快適なシーズンを迎えようとしていたのに ── 。


 何発もの銃声が声援とともに軽やかに鳴り響く。


「おーえす! おーえす! 」


「おーえす! おーえす! 」


 掛け声の意味はわからない。

 いったい、いつから使われていたり、諸説云々。

 たぶん、気合いをいれる為なのであろう。


 それは幼稚園や小学校からの定番なのか。

 もしくは恒例行事。

 “綱引き“なんてのは実に微笑ましい光景である。

 “騎馬戦“など戦争そのもの。


 よもすれば一触即発に成り兼ねないだろう。

 だが、たかが“球拾い“ですら大勢の観客の拍手により血みどろの戦争に発展しかねないのだ。


 つい、とある競技(レース)を双眼鏡越しに眺めていたトオルが思わず頭を抱えてしまうほどに。


ナイ(・・)よねーーー……」


 一般人を装った潜入捜査に関わらず呆気に取られてしまっていたのだ。

 開いた口が塞がらないとは正しくこの事を言う。

 まるで震度(マグニチュード)5弱を彷彿させるような勢いで、凶悪な地響きを立てるランナー。


「ヒューマ、頑張れーーー!!」


 如何にも足が速そうなネーミングである。

 だがそれは世間一般的な常識とはかけ離れ過ぎていたのであった。

 

 たかが小学生、中学生。

 もしくは高校生の運動会なのであったのかもしれないが。

 しかしそれは甚だ“現実“とは欠け離れ過ぎていて、その衝撃(・・)は事実として受け入れ難い。


 たった一歩踏み出しただけで悉く抜き去ってゆく。

 俊敏さに長けた獣族でさえ舌を巻くほどの勢いで ──


「ぐわはははは! 父ちゃん!! オイラは()るぜ!!」


 豪快な声が辺りいっぺんに鳴り響いた。

 たかが一介の運動会であったのだろうが、あまりにも不条理極まりない状況だったのである。


 巨人(ジャイアント)の子供はしょせん巨人(ジャイアント)でしかないのであろう。


「負けて……たまるか! ヒヒーンッ!!」


 並走する肉食獣にも巨人族にも勝らぬ勢いで草食獣を代表する馬族(ホース)が必死の形相で四肢を奮わせた。

 その勢いや時速60㎞にも及ぶ。

 競馬というジャンルに於いては過去歴代の記録を塗り替えてしまうぐらいだったのかもしれない。


 だが巨人(ジャイアント)の一歩はそれすら軽々しく「ひょい」と上回ったのであった。

 かなり広めに準備された円周であったが……そもそも巨人族の子供・ヒューマにとっては軽く跨げるほどだったのである。


 たった数十歩で稼げる距離。

 その踏み込んだ足跡はまるで大悪魔や大天使を召喚を出来るぐらいに見事な放物線を描いていった。


 やがて手にした1等賞。


「ぐわはははは!! どうだい? こんなモンよ!!」


 ヒラヒラと振りかざす旗はこれ以上は無いまでに傲慢に観客に魅せ付けていたことであろうか。


「…… 運動会って…… こんなだったっけ?」


 一部始終を眺めていたトオルは思わず疑問を吐き出すしかなかった。

 手にしていた双眼鏡を手離しそうになってしまう。


「おい、トオル。 気ィ抜くンじゃあねぇぞ!?」


「 ……いや、先輩(センパイ)……。 これ(・・)って本当にヤバ(・・)事件(ネタ)なんですよねぇ?」


 イヤホンから聴こえた声につい、そう突っ込まざるを得なかった。

 ただ、その先輩とやらはあくまでも楽しそうにしていた。

 フサフサとした尻尾を振りながら ──。


 シェパード犬種の刑事、大野下ユージ。


 彼はここぞとばかりに先輩風を吹かせながらプカプカと喫煙を楽しみつつ、実は酒を嗜んでいたのであったのだ。

 今やトオルは確実に先輩刑事(ユージ)の性格や立ち振舞いを見抜いている。

 だからこそ、突っ込みをいれようとした矢先 ──


「おい、トオル。 ユージの言う通りだ。 絶対に気を抜くんじゃあねぇぞ?」


 まるで心臓を揺さぶるような重低音が投げ付けられてきた。

 偉大なる先輩刑事・大野下ユージの相棒、ドーベルマン犬種の鷹野山刑事である。


 軟派な体質のユージと比べれば、どちらかといえば紳士である。

 だが、(タチ)が悪いのには変わりはない。

 ふたりが揃う度に常に大事件が巻き起こってしまうのだから。

 流石はあぶない刑事(・・・・・・)というべきだろうか。


「はぁ……。 了解しました…… 」


 せっかく夫婦さながらの同居人(・・・)を得たというのに、したっぱの刑事には1秒足りともバカンスは許されないらしかった。


「トオル様……♡」


 初々しく、可憐な姿の美少女につい想いを馳せ下半身がみなぎる。

 と ── そんなトオルであったが冷静さを取り戻し、再び業務に励もうとした時のこと。


「動くな」


 冷たい銃口がこめかみに突き付けられていた。


 いつの間に音も無く近寄ってきたのか。

 おとなしく両手を挙げて降参しようと、ただ、それでも理由を聞こうとした。

 運動会の観客席ともかなり距離を置いていたというのに、気配を絶っていたはずだというのに。


「え~とぉ……。 どちら様?」


 トオルの質問に答えるようにしてその者は目深に被ったフードをゆっくりと開かれる。 


 目を見張ったのは、口許の鋭いギザギザの歯並び。

 到って単純(シンプル)な装いであった。

 寧ろ、愛しささえ感じてしまう。

 

 目許は真ん丸で、如何にも幼い男子女子に受けそうな面持ち。

 妙にリアリティのある毛質。

 丸まった背中が()であると主張してしまっていたかのようだった。


 この時季。

 現実世界(・・・・)では盛りのついた猫は度々事件を巻き起こし、気の向くままに繁殖行為を繰り返しているらしいが。


 ねこ娘(・・・)であれば多少は嬉しかったであろうが……そこに立っていた姿は寧ろ期待すべき存在ではなかったのであった。


 まるで、ひと掻きされるだけで四肢がバラバラにされてしまうほどの鋭い爪。

 ペロリと舐められるだけで頬の皮膚が削がれてしまうほどのざらついた舌。

 さらに、森林(ジャングル)の王者を彷彿させる(まだら)模様。


「ひ……ッ」


「動くな、囀ずるな。 ただ、そのままでいろ」


 トオルは僅かな記憶を辿り、確か……凶悪な野獣とは目線を合わせてならないということを思い出していた。

 そして、こういう状況になった場合には相手に決して気取られないように慎重に、しかもゆっくりとその場を離れなくてはならなかった。


 全身の毛穴という毛穴から噴き出す汗は火照った躰を冷やすどころか、まるで氷塊にするほど。

 自分を落ち着けさせるように飲み込んだ唾の音でさえ、ゴクリとさえ鳴らない。


「「トオル? 何かあったのか??」」


「いえ …… 異常ありません…… 」


 いくら普段おちゃらけていても、何だかんだいって後輩という存在は可愛くも尊いモノなのであったのだろう。

 同調(シンクロ)する問い掛け。


 ただ、そんなユージとタカの心配を余所に昂る鼓動を必死に堪え、トオルは強気に振る舞うしかなかったのだ。


「で…… どうすれば良いんですか?」


 あくまでも雑魚(したっぱ)であるかのように。

 寧ろ自分は()なのであるかの如く。


「良いか……。 そのままアッチ(・・・)に行け。 怪しい真似はするなよ?」


 向けられた人差し指の行く先には、最早誰にも使われなくなった廃墟らしい建物があり、近づくにつれて虫の鳴き声がどんどん大きくなってゆく。

 季節が季節ならあまりにも五月蝿いことだろう。

 だが、どこか懐かしい旋律だったのが唯一の救いなのであったのだろうか。


 リー …… リリー …… コロコロリー……。


 それは蟋蟀(コオロギ)の鳴き声に他ならない。

 どうやら、この異世界に於いても季節の風情は色付いているようであった。


 暫くして……運動会の騒々しさとはまったく無縁な場所へと辿り着く。

 即座に殺意と疑問がぶつけられた。


「お前ら警察はBEASTARS(ビースターズ)について、いったいどこまで知っているんだ?」


「はて? 何のことですかな~~~?」


 時間稼ぎにしかならない。 

 両手を挙げ降参の素振りを見せつつ、早く優秀な先輩刑事達をただひたすらに待ち続けるしかなかったトオルなのであった ── ……



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