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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season1【春】やりきれない。殉職刑事が異世界進出。
4/63

第3話 何も気にする事なんて、ない!

しまった。

こっちのストックに余裕が出来てしまった(爆)

なので、1本ぽいっちょ。

 状況は最悪だった。


 コンビニ強盗はどうやら拳銃を所持していたようであり、複数の被害者が次々と救急車に担ぎ込まれている。

 中には、支給されている制服の警官も居た。

 多分、署内に通報を流した者と推測される。


 痛々しい傷跡が目立つものの死人が一人も出ていなかったのは不幸中の幸いか。

 3人の刑事達はその凄惨な現場をあとにして、被害者や見物客などの証言を元に。

 只今絶賛逃走中の、事件の元凶である犯罪者を追っていた。


 ドーベルマンの犬種の刑事・鷹野山敏樹、通称『タカ』。

 彼はその屈強な身体に見合った大型のバイク『ハーレー』に跨がり、ダイナミックに走らせる。

 シェパードの犬種の刑事・大野下勇次、通称『ユージ』。

 彼は後輩のトオルを助手席に乗せ、自慢のマイカーの『GT-R』を極めて安全に運転しているものの、パトランプなどは提示しない。


 雲ひとつ無い晴れ渡る蒼空の下、瞬時に映え変わる景色をバックにしては流れるサウンドがワイルドに道路を突っ走る。

 普段ならば、そのまま何も考えずに何処までもドライブに興じたい所だが、如何せん今は仕事中なのだ。

 大野下刑事の車内では、煙草の煙が充満し、カップホルダーに突き刺さる珈琲に温もりが残っていたのは又、別モノとしよう。


 2台はまるで恋人のように寄り添いながら、犯人が運転していると思われる漆黒のワゴン車を遠目に眺めては、付かず離れず常に一定の距離を保ち、尾行追跡していたのだった。


 何故、野性味溢れ直情的且つ暴力的なふたりの刑事が大人しく尾行などに甘んじているかと言うと。

 今、下手に彼を刺激してしまっては更に被害甚大になってしまうからと、トオルがふたりを必死に諌めたからである。


 追跡し続け、時間にして、約30分程だろうか。

 やがて車は停まり、フードを目深に被った犯人らしき者が降りてきた。

 周囲を警戒しながら正面の建物へと侵入してゆく。


 やや草臥れた建物が数棟、並んで見える。

 割れた複数の窓ガラス。

 よく分からない文字やロゴマーク、下手糞な、それでいて芸術的な絵などがペンキでベッタリと描かれている壁が目立つ。

 おそらく廃材であろう角材が乱雑に積まれては、空き缶が多数捨てられている。

 そこが深夜、不良達の溜まり場と成っている『廃墟』だと連想させた。


 犯人が中に入って往くのを遠目に確認しながら、随分と離れた位置に各々の乗り物を停め、すかさず物陰に身を隠す3人。

 幾ら距離が離れていようが、警戒するに濾した事はない。

 共犯者が複数いる可能性もあるのだから。


「タカ……どうする?」


 『タカ』と呼ばれた黒いスーツに身を包んだドーベルマンの刑事は愛用の銃『コルトガバメント』を片手に、正面の廃ビルを睨み付けながら、彼に応える。


「ユージ……やるか……」


 『ユージ』と呼ばれたのは淡麗色の高級そうなブランドもののスーツを着たシェパードの刑事。

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる彼はポケットからコインを一枚取り出した。


 指で。

 いや、爪でピンッと弾き、垂直にくるくると五円玉は華麗に宙を舞う。

 ぱふっ、と手の甲に着地したそれは瞬間にもう片方の掌で覆い隠された。


「裏!」「表!」


 互いに目を合わせ、ごくりと唾を飲み、そろりと開示される。


「よっしゃあああッ!!」


「「シィーーーッ!!」」


 見事に的中したので感極まり、小躍りするユージに静かにするようにと人指し指をたてるタカとトオル。

 どうやって彼等が銃を持っているのかなどという疑問を毛頭考え付きもしなかったトオルは最早、立派なこの異世界の住人と言えよう。


 実際には、何かを手にした時にだけ、人間のように五本指に成っているようであった。

 指先にぷにぷにとした肉球があったり、ふっさふさの毛が生えているのは相変わらずなのであったのだが。


「んじゃ。行ってくるよん。あとはヨロシク~♪」


 犬耳をぴこぴこと、軽い態度で振る舞いつつも、サングラスの奥で迸る気迫と鋭い牙を舐めずる舌が凄味を醸し出していた。

 ユージは敢えて愛用の銃『S&W』を懐に仕舞ったまま、軽快な足取りでまるでダンスを踊るように。

 廃ビルの中へと、正面口から乗り込んで往った。


「トオル。お前は裏口に回ってくれ。俺は……上から往く」


 言ってる意味が理解できず、首をかしげたトオルだったが、彼の次なる行動を目の当たりにしては納得せざるを得なかった。


 凄まじい跳躍力で、建ち並ぶ廃ビルの壁から壁へと伝い跳ね上がって往くドーベルマン刑事のタカ。

 トオルは暫く呆気にとられ開いた口が塞がらなかったのだが、気を取り直して自分に出来る最低限の仕事にへと意識を集中させる。


「あり得ねぇ……いや、待て……よし。俺は俺だ。何も気にする事なんて、ない!」


 軽く頬を数回叩き、拳を握りしめ、冷静さを装い、己を鼓舞するトオル。

 彼は先輩刑事であるタカに言われた通りに、忍び足で廃墟の裏側へと足を運んで往った。


「……に、しても……こんな所に廃墟なんて、あったかなぁ……?」


 トオルは顎に手を添えながら、ぶつぶつと呟きながら歩み続ける。

 そう。

 其れは、この異世界に来てからずっと抱えていた疑問だった。


 目にした様々な、異様な生き物は別者として。

 毎日勤務していた警察署もそのままであったし、近所のコンビニやスーパー。

 または、他の公共施設なども、現実世界の物と寸分違わず存在していたからなのだ。

 それは勿論、自分の住んでいた部屋でさえも。


 しかし、このような廃墟は現実世界には無かった。

 直ぐ側にあった広大な敷地。

 ウォーキングに励む老若男女や、球技で戯れては昼食にて団欒する家族などなど。

 桜の花弁が景気よく舞い踊り、季節は春真っ盛り。

 いわゆる『公園』でさえ、元の世界と変わらず、等しく日常にあったのだ。


 怪訝な表情で考え事をしながらも。

 トオルは、それでも注意深く警戒しつつ裏口へと無事に辿り着いた。


「……誰も居ませんよね~……」


 か細い声量で、受け答えを待つ。

 出来れば誰にも出会したくない本音が情けなく響き渡る。

 念の為、銃を片手に、壁に背を預けながら覗き込む。

 まだ陽も高いのに、中は暗闇が支配していた。

 その僅かに開けっ放しの扉をそうっと足で押してみた。

 ギイと錆び付いた音がする。

 射し込む陽光が部屋の中を優しい温度で満たしてゆく。


「よし……とりあえず大丈夫そうだな……」


 独り言を呟きながら、多分誰も居ないだろうと思ったので、屋内へと一歩、片足だけを踏み入れた。

 反応はない。

 素早く、身体全体を脚に引き寄せるように、チラリと見えた物陰へと勢いよく滑り込み身を潜めた。

 柱に背を委ねながら、部屋の状態を、空気を読むトオル。

 静けさだけが闇を支配していた。


 だが、ふと違和感を覚えたトオルは柱に耳を当て従い、精神を集中させる。

 上階から、微かに聴こえる靴の音。

 外見では凡そ五階建ての廃ビルだったので、おそらく二階部分だと推測される。

 チラリと辺りを見渡し、階段などがないかと伺う。


「……あっちから行った方がいいんだろーなぁ……」 


 トオルは肩で浅くため息を吐きながら、見付けてしまった『非常階段』の標識を恨めしそうに睨み付ける。

 相変わらず、緊張の糸を張りつめながら。深呼吸をひとつ。


 思いきって、全速力で『非常階段』の入り口へと駆け付けた。

 何も起こらなかったので、この一階にはトオル以外には誰も居ない事が証明されたので、ひと安心し、ほっと胸を撫で下ろす。


「に、しても……やけに大人しいなぁ……先輩達……」


 前の世界でも、いつもなら既に街の1つぐらいは破壊しているだろう彼等。

 誰がそう呼び始めたのかは定かではないが。

 通称『マジでヤバいパネェ刑事』が乗り込んでから約数分が経過しているというのに、未だ何事も起こっていない。


 少し嫌な予感が過り、冷や汗はこめかみを伝う。

 トオルはどうかその予感が当たりませんようにと、指で十字を切り、祈りを捧げながらも。

 非常階段へと足を運び、やがてゆっくりと昇っていったのであった。

野郎は、描いてて楽だとつくづく思う(笑)

次回は、水曜日は10月25日辺りにしようかと。

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