第18話 バイバイ……。 みんな……
「むぎゅっ……。ぐぎょぎょぎょ」
── この世のものとは思えない呻き声が木霊してゆく ──
宙吊りになったままのトオルはまるで百舌鳥の速贄のようになっていた。
時僅かにして屍となり、やがて忘れ去られたかのようにして放置されるのだろうか。
だがまだ初冬にも差し掛かっておらず、微かに開けられた窓の外からは湿り気と暑さが忍び込み、全身に纏う夥しいほどの汗が真夏だと告げていたのだ。
「ぐ……ぐるじい……」
ようやく発っせた一言が全てを物語っている。
今現在、主人公はラスボス紛いの凶悪な手にかかり瀕死の状況であったのには違いない。
ただ……それは愛情の成せる業だったことなのだが、トオルにはそうは思えなかった。
少し前の出来事。
少女の胸元に深々と突き刺さった刃は確実に命を葬り去るまでの凶行だった。
膝元でぐったりとして踞り床を深紅に染めてゆく。
トオルはそんな彼女、和凛の唯一救いとなるべく血液を提供し続けていたというのに、いったいどうしてこのような仕打ちを受けねばならないのか。
それがたとえ ── 彼女の父親であったとしても。
感謝こそされて当然。
寧ろ恨まれるなどとは論外。
しかし甘んじて受けようではないか。
自分ぽっちの命で丸く収まるならば。
うっすらと消えゆく意識のなか、何処か誇らしげにトオルは笑みを浮かべてみた。
ああ、警察官とはこうあるべきなのだろう。
人のために尽くす。
たとえ我が身を天に捧げても ── 。
それこそが本分であるかのように一筋の涙を笑顔で塗り潰すのである。
「ありがとう……ね……。 和凛ちゃ……ん……」
遺言のようなか細い声が狭苦しい室内に儚げに宙に舞う。
最早、これまでだろうか。
── お母さん、ありがとう。
お父さん、ありがとう。
みんな、ありがとう。
今まで生きてこれた事が宝物だよ。
でも先輩達はもうちょい自分に優しくしてくれたって良いじゃない?
あと、課長の椅子に座れなかったのも残念だったなぁ ── 。
走馬灯が次々と押し寄せては、ただ自分の生きざまは正しかったのだと主張する辺りがトオルらしかった。
決して“署長の椅子“と言わなかったのも、身に染み付いてしまった貧乏性からだと鑑みれる。
「バイバイ……。 みんな……」
何処からか。
“まだ続くんじゃよ?“と聴こえたような気がした。
ただし、締め上げられた力は増す一方で止めを指す寸前 ── 突如。
まるで朝日を迎えたような神々しいまでの眩い光が室内だけに留まらず、湾岸署内全てを覆い尽くしていったのだった。
あまりにも一瞬の出来事ではある。
ただ、たった1個の閃光弾でさえ凶悪殺人犯を黙らせることは十分に可能だ。
「な……なんじゃあ……っ!?」
和凛の父親、バイオレットは思わず獲物を手離して両瞼を覆い隠す。
現場にいた面々が強烈な光に狼狽える最中、ゆっくりとその者は身を起こし血の染み付いたベッドから立ち上がる。
そこにはフワフワのウルフカットをした美少女の姿はなく、異性問わず誰もが羨望の眼差しを向けるような絶世の美女が立ち尽くしていたのであった。
つい先程ようやく解放されたトオルはその光景を目の当たりにして茫然とするがまさか……それは裏切り行為にも等しい。
「……ったく……。 しちめんどくさいったらありゃしない!」
ぼん、きゅっ、ぼん。
三拍子が整った美女。
そこにはかつての健気な少女の姿はなく、ボディコン宛らにして艶かしさを露にした真凛が畏怖堂々と立ち聳えていたのであった。
「で、さあ……あんた達。 この娘をどうしたいんだい?」
ベッドの上で立ちあがり、彼女は現場に居合わせた全員を見下ろし、冷ややかな眼差しを突き付ける。
それはまるで一方的に裁きを下す大岡越前のようであったのだった ── 。
ノリ、大切(片言
(´゜з゜)~♪
どうか、笑って頂ければ幸いです。
次回は未定っ!
≡3 シュッ




