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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season2【夏】暑苦しい。灼熱は甘い誘惑。
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第16話  ……ったく……。 いったいなんだったんだ7DAYS……



 モニター越しに映り出された各部署の署員達(わんわんお)は片付けに没頭し、それは今までの惨劇(・・)をまるで無かったことにしているようであった。

 監視業務に携わる面々でさえ尻尾を項垂れ呆れ返っている。

 ふかふかの毛並みは汗に滲んでゆく。

 犬のお巡りさんとは、それほど大変な業務なのであろう。


 ふたりの ── 否。

 ふたつの塊は厳重に拘束され、今や唯のゴミクズにしか見えなかった。


「……ぶぐぐぐぐ……ぅ」


 口から泡を盛大に噴き出しながら怪物(オーガ)ならではの超再生能力を以てしても治癒ならびに即座に完治されることなど先ず無かったのであろう。

 凶悪殺人犯、ならびに暗殺者を生業としていた娑夢(サム)ですらそれは例外ではなく、()してや彼には勇治郎(ユージロー)のような再生能力は持ち合わせていなかった。

 結果、全身の骨という骨を粉々に砕かれた上で最早(もはや)息をしているのかも定かではない。


 それでも万一(マンイチ)の事を想定して巨象(マンモス)すら一発で仕留めてしまう程の睡眠薬を注入した上で、完全に無効果された怪物達を横に並べる。

 処理する側としてはこれ以上はない面倒ではあったが快く頷くしかなかったのであろう。

 分かりやすく言えば、上司の命令とは絶対なのであったのだ。


 つまりは警察官とは斯くもブラック企業であるということ。

 下の者がいくら抗議しようとも希望は叶うことは一切皆無なのであった。


 然り気無く満天の夜空を眺めつつ、酒を楽しむほどに美しい月明かりからは「御苦労様です」と聴こえたような気がした。


 湾岸署の屋上は先程の喧騒や賑わいなど最早微塵も残されてはおらず、静寂に満ち(あふ)れていたのである。

 各々が清掃員(・・・)と化し、腐った表情で散らばった破壊の痕跡を闇に葬り去るべく後始末へと勤しんでいる。


「……ったく……。 いったいなんだったんだ7DAYS……」


 意味はわからないが一週間と経ってはいない。

 執筆にはかなりの月日は経ってはいたが。

 

 咄嗟に(こぼ)れた愚痴は誰であれ、皆は一様に溜め息を漏らしつつも業務に没頭するしかない。

 言い放ったトオル本人でさえ呆れ果てて、深く溜め息をついていたぐらいだった。


 ビアガーデン宛ら、かつての酒の勢いは何処へやら。

 つまるところ、待っていたのは後片付けであり、奴等(・・)の尻拭いと言っても過言ではないだろう。

 それはしょんぼりと垂れ下がる尻尾だけが物悲しく語っていた。


 だが、そんな光景を余所に……此処『湾岸署』に()いてもっとも重要で心臓部(・・・)ともいえる中心部。

 医務室では先程までの修羅場(バトル)とは違うにしても、匹敵する程に逼迫(ひっぱく)していた。


 のっぴきならない状況とはまさしくこの事を言うのではないだろうか……。


 いまだにか細いチューブ1本だけで繋がれた可憐な美少女は真っ青に顔を染め目を開くことなど一度も無い。

 ふわふわな髪質は汗も殆ど滲んでいないというのに淫らに散らばっていった。

 ウルフカットとやらの魅力が最大限に活かされていたに違いないだろう。


 固いベッドに横たわる和凜(わりん)は見た目人魚(マーメイド)ではなく、限り無く人間(・・)それ(・・)に近い。

 しかし、彼女と一心同体の如く繋がっていたトオルは逞し過ぎるまでの太い両腕で、額を医務室の天井に擦り付けられるほど高くに持ち上げられ、緊迫した雰囲気だけが辺りに漂っていたのだ。


「き……貴様ぁぁぁ!! 我が愛娘(まなむすめ)にいったい何をしでかしてくれたのだぁぁぁっ!?」


 怒声は天を貫くようであり、目線も定まらず理性を無くしてかけていたが矛先は間違ってはいないのであろう。

 血流の行き場を塞がれてしまったトオルはかろうじて指一本で生命線を食い繋いではいたが呻き声は我慢出来ない。


「むぐぐぐ……ぐるじ……い……」


 しかし、集いし面々は彼を全く気にしたような様子も無く動じない。

 そして、ベッドに横たわる可憐な少女へと心配の眼差しを向ける。


「あぁ……和凜(わりん)……。どうか、どうか神様!! 助けてください!!」


 その口振りからするにどうやら和凜(わりん)の母親らしかった。

 何処と無く似た髪質と身長や、幼い顔付きからなんとなく察しとれる。

 彼女は力無く膝をつき、まるで神に祈るような姿勢(ポーズ)で両膝を地に着け天を仰ぐように両手を組み瞳を閉じていた。


 頬を伝い溢れ落ちた涙がより場面(シーン)をより暗くしてゆく。


「落ち着きくださいませ! 御当主様!!」


 いまだ暴れ狂う巨漢を取り抑えようとするのは ── サングラスと漆黒のスーツがに妙にしっくりしていた。

 黒服の取り巻き達はその御当主様(・・・)を敬うもまるで制御しきれないようでいて額に汗を滲ませている。


 何処かしら小判鮫(コバンザメ)のような振る舞いではあったのだが。

 上手く取り繕えば問題はないといったようで、彼等は自分に被害は及ばぬように、ある程度の空間を維持しつつ余裕を(もてあそ)ばせているようにも思える。

 そんな状況を余所にして……。


「……嘘だろ……。 おい……妹よ!! 返事をしてくれ……っ!!」


 大量の針を高級そうな服装越しに突き刺し列ねては、それは警戒時の河豚(フグ)の亜種を想わせていた。

 ハリセンボン(・・・・・・)を彷彿させるシスコン(まが)いの和凛(わりん)()までもが参戦して場を更に掻き乱しているという始末。


 事態は正に混沌としており、誰にも理解出来ないまでの喧騒がまるで浮気現場の如く壮絶に鳴り響き繰り広げられていたのである。


 いったい、何がどうしてこの様な事態を招いてしまったのだろうか。


 時は少し遡る ──……。


ご無沙汰しております。

少しはマシになったかな?

ちょいちょいネタをぶち込んでおります。

(;゜∇゜)


次回は8月12日です。

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