第2話 派出所勤務でお願いします!!
ちょいと余裕ができたので1本ぽいっちょ。
短いですが。
(^_^;)
「ん? トオルか。なんだ。混ざるのか?」
取調室にて。
鍵も掛けられていなかったのでトオルは挨拶もなく強引にドアノブを回し中に入る事にした。
そして、言葉を失った。
そこには、哀愁漂うドーベルマンの刑事が居た。
無駄にサングラスと黒いスーツが似合う。
尖る鋭利な歯が妙に彼の笑みを増幅させている。
更にその部屋の奥には、窓を覆い隠すシャッターの隙間に指を挟みこみ、口許で煙草を燻らせるシェパードの刑事が紙製品のコーヒーカップを片手にして寛いでいた。
施設内は完全禁煙な筈なのに。
この部屋では、いや、彼等に法律は通用しないのだ。
「あら、トオルちゃん。ご無沙汰だねぇ。寝坊助は駄目よ~♪」
軽い台詞を吐くシェパード刑事。
だが、彼も同じくしてサングラスが何故かしっくりと似合う。
しかし、その部屋に閉じ込められていた、もう一人が煙たそうに手を忙しなく振り乱していた。
冷たい机と軋む椅子。
強制的にその椅子に座らされているのは犯罪者だからなのだろうか。
よく見ると、いや、よく見なくとも分かる。
グレーのスーツを着込んだセントバーナード犬だった。
少し着せられた感がある。
「なぁ……いい加減認めたらどうだ……」
「違う! 俺はやっていない! なぁ信じてくれよ……あ、トオル! お前からも言ってくれ! 俺は無実だと!」
ばうわうと、己の無実を主張する彼は瞳の端々に涙を浮かべ溜めては同情を誘う。
トオルが察するに、どうやら知り合いか同僚らしい。
名前も知らなければ、一体何の罪で捕まり、取り調べられているのかも分からない。
果たして、警察内部の不祥事なのだろうかと訝しむ。
「誤魔化しも大概にしろ!」
突然彼の襟首を掴み椅子から引き剥がし壁に叩きつけるドーベルマン刑事。
その迫力が真の『壁ドン』はこれだと歴々と見せ付けていた。
凶悪な歯が剥き出しにされ、グルルと唸る。
思わずトオルはその迫力に圧され萎縮してしまい、股間がきゅっとなる。
「ネタはあがってるんだぞ……」
まるで、地獄の底から鳴り響く悪魔の声のように、低音は蠢く。
懐から取り出されたのは透明な袋に包まれた1本のペンだった。
かなり年期の入った使いこなされた、だが、高級そうな感じもする。
一先ずそれを机に置き、再び彼を睨み付ける
「そ……それは……」
目線を反らし俯き、冷や汗を垂らすセントバーナード。
表情は伺えないが、かなり追い込まれているようだ。
しきりに舌を出しては涎が垂れている。
「あ~あ~……『落としのナカさん』ともあろう御方がそんなに簡単に落ちないでよ~……」
シェパード刑事は彼に近付き、肩を気軽に叩く。
次いで、懐から何か記載された用紙を数枚、彼の胸に突きつけた。
「「じゃ! あとはヨロシク~♪」」
晴れやかに、取調室を後にしようとするふたり。
残された彼は机に置かれたペンをそそくさと仕舞い込んだ。
それは、少し前に、彼が隙をみて無断で使用し、ペン先を潰してしまった課長のものだった。
「あれ? おかしいなぁ……お~い誰かワシのペンを見なかったかあ?」
咄嗟にそれを引き出しに隠すセントバーナード。
だが、奴等は見ていた。家政婦のように。
そしていつかネタにして揺すってやろうと。
今、彼の手元には大量の領収書が託され、擦り付けられていた。
「何? トオルちゃんも欲しいの?」
輩は絡む。
彼の両肩の上からふたりの肘がフワリとのし掛かる。
たらりと冷や汗を垂らし、二度と御免だとばかりに、ぶんぶんと首を横に振る。
今ばかりは『ナカさん』とやらに深く同情してしまうトオル。
「あ、それはそうと……何か用事でもあったの?」
シェパード刑事のその一言で、はたと用件を思い出し彼等に問い詰めようとする。
「あの、ですね、先輩。俺って俺ですよね?」
先程、保管庫の受付嬢ナナにもしたが、同じ事を繰り返し質問する。
だが、しかし、本当に聞きたいのはそういう事ではない。
「何よ? トオルちゃん……まさか……何かヤバいクスリでもやってないだろ~な……」
麻薬犬のように、すんすんと鼻を鳴らして怪訝な表情でトオルを上目遣い怪しむふたり。
次いで、思いきって、自分が凶悪殺人犯に撃たれ死んでしまい、この不思議な世界に来てしまった件を説明しようとしたのだが。
……あからさまに、嘘臭いにも程がある。
信じてもらえない確率の方が多いだろうと諦めてしまった。
がっくりと肩を落とし、ため息は自然と吐き出される。
「はぁ~……いや、良いです。何でもないです。気にしないでください……」
「んん? ま、何があったかしらないけど元気出しなさいよ!」
ばふっと勢いよく叩かれた背中。
肉球の為に、痛くなかったのが余計にトオルの心を痛め付ける。
そして3人は、涙を流す約1名を無情に残し、取調室をあとにする。
やれやれと、各々が自分達の席に腰を掛けようとした。
その時だった。
突如、室内に警報が流れ、放送が事件を告げる。
『三丁目のコンビニで強盗事件が発生! 至急! 応援を……要請を……キャインッ!?』
最後に聞こえたのは断末魔か悲鳴だろうか。
咄嗟にふたりの刑事は出番だとばかりに駆け足で出て往く。
「あ、こら待て! 大野下! 鷹野山!! 全くあのふたりは……ええい、仕方がない! トオル! お前がサポートしてやれ! くれぐれもあのふたりが暴走しないようにな!!」
後ろで、がうがうと叫ぶ課長犬の指示を余所に、正直、大量に貯められたあのふたりの始末書から逃れられた事の方に嬉しさを感じたトオル。
彼はふたりを追い掛ける前に、くるりと踵を返し、課長に敬礼して言う。
それは、前の世界でも毎度欠かさずに行っていた通例行事だった。
「事件を解決した暁には、派出所勤務でお願いします!!」
トオルはこの異世界でも、また覚悟を決め、趣旨一貫。
念願の夢を貫き通す事にしたのであった。
終わりじゃないですよ?(笑)
寧ろ、ここからが始まり。
次回は月曜日辺りの予定です。
まったりペースでイキまっす♪