第2話 ネタはあがってんだぞ!
今回短めです。
(´。・д人)゛
「HEY☆ 刑事さん。カツ丼は出ないのかい?」
天井すれすれにまで聳え立つハズであった凶悪な一本角はぽっきりとへし折られていた。
正確には角ではなく出っ歯なのだが。
こっぴどく制裁を受けたにも拘わらず、男は平然とした態度で物申す。
「手前……まだ足りねえのか?」
低い声でぐるると唸り、シェパードの刑事が男の胸ぐらを掴もうとした。
「ユージ! 待て!」
サングラスの似合うドーベルマン刑事がそれを制する。
犬が犬に待てを喰らうとは、これ如何に。
「トオル。お前からも何か言うことあるんじゃあないのか?」
疲れきったせいか、はたまた先程の電撃竜巻をその身に受けた傷がまだ癒えていないせいなのか。
壁に寄り添い身を委ねていたトオルはボンヤリしながら、どうやら全く別のことを考えていたようだった。
ぽわぽわと頭上に浮かぶ雲のなか。
メロンパンのようなふたつの膨らみと、かつての恋人と瓜二つの女性が微笑みかける。
「でへへへ……」
脳裏に焼き付けられた光景を思い出し、都合よくねじ曲げられた妄想に更けるトオル。
にやける彼に盛大な突っ込みが入れられたのは当然だろう。
── 室内に軽快な音が響き渡る ──
「しっかりしろ! 仕事中だぞ!?」
豪快にスリッパで叩かれた頭を撫で擦り、トオルははたと意識を現実へと取り戻す。
靴でなかった分、感謝すべきだ。
目前で、まるで南国のbeachで常夏を謳歌する如く薄手のTシャツを見事に着こなし、半裸状態の犯罪者。
『イッカク』の娑夢。
取調室だというのに全く悪びれていない様子の彼を見て、トオルは瞬発的に殴り付けてしまった。
普段なら、たとえどのような犯罪者であっても冷静に対処していた彼らしくない態度。
殺されかけたのが余程頭に来ていたようであった。
だがそれは、あくまでも先輩刑事のせいであり、巻き込まれてしまったからでもある。
腹いせのつもりで殴り付けたのだが、なぜか苦痛の表情を浮かべるトオル。
固い岩に当たったような衝撃と鈍い音がして、思わず拳を引っ込める。
「~~~っつ!!」
何も気にしていないような素振りでポリポリと頬を掻く様は、蚊に刺された程度のモノであった。
娑夢はけろりとしてトオルに、気にするなよとばかりに肩を優しく叩くのだ。
犯罪者に同情されるとは、なんとも情けない刑事っぷり。
ふたりの先輩がその有り様を見てはがっくりと項垂れ、深くため息をついていた。
「……くっそ……。ネタはあがってんだぞ!」
名誉挽回しようと意気込むも、どこか頼りなさが滲み出てしまうのは最早彼の芸風だろうか。
トオルは懐から何枚かの写真を取り出し、勢いよく机の上に叩き付ける。
各々の写真には見るも無惨な光景が映し出されていた。
数々の遺体には胸にぽっかりと穴が空いている。
この一連の殺害事件の容疑者として浮かび上がったのが『イッカク』の娑夢なのであった。
ちなみに、もうひとりの付き人。
人魚の真凛は別室にて、女性刑事によって取り調べられている。
── コンコンコン ──
三度のknock音が室内に鳴り響きドアが厳かに開かれ、もふもふの毛並みをちらりと覗かせる。
「トオルさん。ちょっとこちらにも来て欲しいのですが……」
「あ、瞳ちゃん。お茶しない♪」
「もうっ、ユージさんったら……。じゃあなくて! トオルさんに用事があるんですっ」
僅かであるが頬を染める柴犬の女性刑事。
察するに、どうやらユージに恋心を抱いているようであった。
「ふー……。分かりました。じゃあ、先輩。あとはよろしくお願いします。くれぐれも」
最後まで言いかけるをバタンと扉を閉めトオルを追い出すふたり。
取調室をあとにしたトオルは両手を合わせ「ご愁傷さま」と小さく天に祈りを捧げたのであった。
次回は1月17日辺りの予定です。




