第1話 ぶっは……ッ!!
ちょっと詰め込みすぎました。
(^_^;)
前話からの続きです。
見事な実りが激しく主張している。
だっだーん。
ぼよよん、ぼよよん。
── その破壊力は計り知れない。
絶世の美女。
人魚に向かい合いながら、トオルは流れ落ちる鼻血が止まらないでいた。
清らかな水面を真紅が満たしてゆく。
「ちょっと? 聞いてんの!? 早くそれを寄越せってんの!!」
ぷんぷんと頬を膨らませながら怒る彼女。
何故かその都度、色鮮やかな魚群が右から左へと流れ、より一層その美貌を際立たせるのだ。
大当りの信頼度は高いかもしれない。
「あとさ! アタシの名前は真凛だっての! 誰だよベニーとか……ワケわかんねぇわ!?」
喧嘩腰なのは明らかであった。
腰に手を当てて、ずいっと睨み付けてくる。
しかし、その素振りが更にトオルを発奮させてしまう。
「ぶっは……ッ!!」
たった一色であるハズなのに、噴き出された鼻血がキラキラと真夏の日差しと交わりあい、やがて美しい虹の架け橋が描かれた。
よく考えてみてほしい。
ぶ、ラジャー。
胸当てが無かったので、その代わりに添えられていた両手が今、腰に宛がわられているのである。
つまりは完全無防備。
ノーガード戦法。
可愛らしい苺ちゃんが露になり非常に食欲 ── もとい。
性欲をもて余す ── 。
死屍累々。
辺りの野郎どもは種族を問わず。
盛大に鼻血を噴き出して、出血多量の一途を辿る。
最早、ガッチン漁法で仕留められた大量の川魚のようにして、皆はぷかぷかと浮かんでいた。
真凛はその光景を見て、はたと気付き。
慌てた様子でトオルの頭部にひっそりと佇む胸当てを奪い取り身に付ける。
湯気が出るほど真っ赤になるも、双丘は瞬時に覆い隠されてしまった。
……これは決してテコ入れではない。
人魚の真凛は味わった屈辱を晴らすべくキッとトオルを睨み付け、相棒らしき男を呼びつける。
「娑夢!! そんなトコで油を売ってないで……早くコッチに来なさい!!」
そんな煮えたぎる彼女の怒りの矛先は水面上に浮かぶ1本の角へと注がれていた。
娑夢と呼ばれた彼は勢いよく水飛沫を上げ、全身を顕にした。
それは角ではなかった。
下顎から突き抜けた1本の出っ歯が天を穿つが如く雄々しく聳え立つ。
── 『イッカク』。
偶蹄目(鯨偶蹄目とする説もあり)イッカク科イッカク属に分類される鯨類。
本種のみでイッカク属を構成する。
一部の伝承では、乙女しか乗せない白馬ユニコーンのごとき崇拝されし生物
── 。
それ以外を見るだけならば、一流のボディービルダーを彷彿させる鍛え上げられた肉体や、精悍な顔付きは限り無く人間のイケメンに近い。
「呼んだかい? 我が麗しの真凛ちゃん♡」
ᕦ(ò_óˇ)ᕤ むきッ
奇妙な体勢を取り、黒々と日に焼けた己の肉体美を披露する茶髪『イッカク』の娑夢。
彼は俗に言われるダブルバイセップスというポージングにて、キラリと歯を輝かせる。
「コイツよ! もうとにかく……コテンパンにしちゃいなさい!!」
今日日耳にしない死語を以て、人魚はイッカクに指令を下す。
「だ、そうだ。HEY、GUY☆ 悪く思うな、よ!!」
ぎらりと瞳を輝かせ、やがて娑夢は音も立てず一瞬にして潜水。
そして次に身体を顕した時には、トオルはまるでバーベルのようにして彼に持ち上げられてしまっていた。
凶悪な尖角をトオルの背中に貫く体勢で死の宣告を突き付ける。
「 Are You Ready? ハリケーン……デビルソー」
「「 どりゃあああッ!!」」
「ぶるわッ!?」
それはまるで水面上を高速で飛び交う鬼蜻蜓のように。
娑夢の、当たれば一撃必殺の極悪な技が、ふたりの刑事の華麗な跳び蹴りによって阻止されたのだ。
頭部を前後から見舞われた衝撃により、思わず巨躯はたたらを踏む。
よろけながら意識は歪み、だがそれでも持ち上げられていたトオルを決して離そうとしないのは流石と言えよう。
しかし、さっさと手離して降参してしまえば次弾を喰らう必要はなかっただろう。
摩訶不思議なり。
あたかもそこが大地であったかのようにして、水面に浮かぶタカとユージ。
── 彼の水馬、飴坊として有名な昆虫が思い浮かぶ。
『アメンボ』は足先の毛だけを水面につけて、毛が水を撥く表面張力を利用して水面に浮かぶらしい。
その表面張力は、雌が雄を背に乗せられる程度に強いとさえ謂われている。
まさしくふたりはアメンボの如く、ごく自然に水面上に立っていたのだ。
ふさふさの毛並みは伊達ではない。
「へぇ。アレを喰らっても立ってんのか……。なら、コイツはどうだ? タカ!!」
「応ッ!!」
互いに昂る闘気が激しく唸り声を上げる。
── ウオオオオオンッ!! ──
狼の咆哮にも似たふたりの慟哭はやがて水面に渦を巻き、嵐を巻き起こしたのだ。
プールの水を軒並み吸い上げて、電気を帯びた竜巻が形成される。
その中には無論、大多数の意識を失った一般客も含まれていたのはご愁傷さまであるが。
斯くして幾つもの『バベルの塔』を彷彿させる竜巻が娑夢を取り囲んでいた。
「な……何なのよ、コレ……」
異世界の住人である人魚。
真凛でさえ、有り得ない光景を目の当たりにして茫然と立ち尽くしてしまっていた。
開いた口が塞がらないとはよく言ったものだ。
彼女のみならず、竜巻の影響下になかった者達も皆、あんぐりと口を開けては真夏の嵐を眺めていた。
「馬鹿が……そもそも、おまえが俺達の目標だったってのに」
今となっては囚われの身となり意識も朦朧としているトオルであるが、当初の目的は凶悪殺人犯として名を馳せる娑夢の逮捕であったのだ。
長い日数をかけて、ようやく掴んだ情報を元に今日、この大プールに現れると睨んだ3人の刑事達。
哀れな生け贄となってしまったトオルを余所に、大技が今放たれようとしていた。
両手を高く挙げていたタカとユージは目標を見据え、やがてどちらかともなく制御していたそれを解き放つ。
夥しい電気を帯びた水流は唯一点。
娑夢へと目掛け、轟音とともに襲い掛かったのだ。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!」
この悲鳴は娑夢だけではなく、大多数の絶叫である。
まりんちゃん。
サム。
気にしないようにっ!
次回は1月13日の予定です。




