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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season1【春】やりきれない。殉職刑事が異世界進出。
2/63

第1話 どうかしてるぜ!

もっとブッ込もうかと思いましたが、分ける事にしました。

(^_^;)

 喧騒が目を覚まさせた。

 ベッドに横たわりながら窓の外を見るに蒼白く、まだ朝も早い。


 近くに置いてある、ここ十数年は買い換えていない『置き時計』が憎らしくも朝メシを急かす。

 喧しいアラームを優しく人指し指で撫で、止める。


 柔らかな陽の光を頬に受け、寝ぼけ眼で上半身を極僅かに引き起こす。

 大きな欠伸をひとつ。


 ゆっくりと、立ち上がろうとはせずに。敢えて。

 腰を浮かす程、思いきり両足を高く振り上げ、それを振り下ろす反動で勢いよく飛び起きる。


 普段から筋トレを怠らなかったせいか。

 それとも、若さがカバーしてくれているのか。

 目覚めはハッキリと、身体に馴染む。

 追い付いて来ないのは、日常だけか。

 改めて、窓の外を観ては、ため息がこぼれた。



「はぁ~……何だよ、これ……マジでワケわかんねぇ……」



 ふと、目があった。

 然り気無くスルーしたい。

 空を行き交う、大きな翼を羽ばたかせる爬虫類と目があってしまった。

 軽くウインクされたのだが可愛くともなんともない。


 テレビのCMや漫画、アニメなどはあまり興味がなかったのだが、多分。

 飛竜。確かワイバーンだとか云われているヤツだ。

 奴らはすっかり街に適応し、運転手と共に、早朝から勤勉に乗客をかっさらう。


 よく、躾られているようで、決して客を餌として食まない。

 ぎゃあぎゃあ煩いのが難点か。

 目覚ましは、ベッドの脇役、だけでいい。

 やがて、各、目的地へと飛び去っていった。



「……俺……この世界でやっていけんのかなぁ……」



 窓枠のサッシに手を掛け、がくりと項垂れる。

 愛用の寝巻きはそんな彼に同情などせずに、目立つ複数の皺が早く着替えなさいよ、と告げていた。


 前日の事。


 若手の刑事・トオルは、慌てながらも状況を鑑みて、とりあえず勤務先の警察署へと向かったのだ。


 前以て、携帯で連絡を入れようとする精神的余裕など有る筈もなく。

 だが、其処らで目についたタクシーなどには頼りたくない。


 何故ならば……

 胡散臭い、明らかに人間ではない者が運転をしていたからだ。

 いや、一応はチャレンジしてみたのだが、やはり生理的には、現実的には受け入れられずに断念する。


 ネズミ顔の運転手。これは割りと多かった。

 だが、衛生上どうかと思いパス。

 カエルを思わせる、てらてらとした滑り気の運転手はゲコゲコと煩かったのでパス。

 触角を生やし、漆黒のスーツでその身を纏う台所などでの宿敵。

 思わず殺虫剤などを噴き付けたくなる嫌悪感の塊が車を運転していたのを見た時は正直、猛ダッシュでその場から逃げ出した。


「クッソ……やってられっかよ!!」


 握り拳を己の両脚に叩き付ける。

 通行人達は何事かと振り向き交わすも、そんな事はどうでも良かった。

 ひたすらに走り続け、息も絶え絶えに、ようやく『いつもの勤務地』に辿り着く。

 燦然と光輝くシンボル『旭日章』を轟かせる威風堂々とした建物『警察署』が見えた。

 両膝に手を掛け、息を整えようと懸命に試みる。

 落ち着き、身なりを正し、施設内部へと脚を一歩踏み入れた。


 …………


 衝撃的な光景が、混沌がそこにはあった。


 学生服を着た白いワニが複数、椅子に座らされ説教を受けている。

 話を聞いてみると、どうやら学校をサボり街中で遊んでいた所を補導されたらしい。

 または、吸盤の付いた触手を8本ほど生やした、見た感じ『タコ』のような生き物が捕らえられていた。

 その全てに手錠を掛けられているので、おそらく罪人だろうと思われる。

 ベッ!と憎らしげに吐き出された墨によって汚れる床を拭いたりと、違う課に所属する刑事達もわんさかと即座に対応していた。

 そして、何よりも目に付いたのは……

 担当している全ての警官は『犬』の体つきをしていたのだ。

 犬。犬。犬。

 至る所、犬の警察官で埋め尽くされている。


 『犬のお巡りさん』。

 困ってしまって、わんわんお。


 などとは決して鳴きやしない。

 様々な犬種が二足歩行で制服をきちんと着こなし勤務に励んでいた。

 迷子の子猫ちゃんに、あなたのお家は何処ですか?と対応している婦警もいたので、思わず噴き出し掛けたのだが、ぐっと堪える。


 その異様な光景に、しばらく呆気にとられ、やがて、ふと我に返る。


「……は。何だよ何だよ……やっぱり……どうかしてるぜ!」


 あまりにも、現実と掛け離れた日常を目の当たりにして悪態をつくトオル。

 その咄嗟の絶叫に、一瞬だけ室内に静寂が訪れる。

 しかし、そんな瞬間でさえ勿体無いのだろうか。

 屯う刑事達はおろか、補導されている咎人達でさえも正気を取り戻し、やがて抗う事もなく連行されていった。


「あ。……んな事してる場合じゃあねえわ……」


 毎度の事ながら、仕事の終わりには必ずせねばならぬ事務的作業。

 懐に仕舞った銃を保管庫に預けなければならないのだ。


 ホルダーよろしく、相棒『コルトパイソン』の具合もすこぶる宜しい。

 胸を軽くひと撫でして、深呼吸をする。

 大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせながら。

 僅かに急ぐも足早に、署内の目的地へと向かう。


 誰にも声を掛けられなかったのは、流石に気にはなったが、とりあえず放置しておいた。


「ナーナちゃん! 返しに着たよ~お♪」


 振り向く受付嬢。

 やはり、犬。

 マルチーズとチワワが混じったような彼女は、まるでそれが当たり前かのように彼の銃を受けとりカウンターの上に一旦置いてみる。

 そしていつものように、呼吸をするかのように馴染みの書類を提示してきた。


「あぁ、トオルさん。お疲れ様です。では、此方にサインと詳細を……」


 相変わらずクールだな、と思いながら、書面に目を通し記入する。

 過去、何度もアタックしたのにその都度さらりと交わされたのはトオルにとって、署内に於いても日常茶飯事だったのだ。

 使用した弾数や、何故そのような行為に至ったのか、等を記入してゆく。

 だが。

 ふと、違和感を覚えた彼は受付嬢ナナに問い掛ける。


「な……ナナちゃん! 俺、俺だよね!?」


 首を傾げ、この男は一体何を言っているのだろうかと訝しむ彼女。

 机に、窓口につんのめり必死に訴え掛けてくるトオルに対し、身の貞操を感じては少し引く。


「えと……トオルさん……どうかしましたか……?」


 おそるおそる心配してみる素振りを見せる。

 下手に刺激をして藪蛇をつつかないように。


「……そっか~……そこは同じなんだ~……」


 彼女の様子を診て、そこはかとなく哀愁が漂う丸まる背中に同情せざるを得ない。

 ふと、触れられた温もり。


「だ……大丈夫ですか?」


「ん……うん。ちょっと……疲れ気味なんだよ……」


 たはは、と軽くも悲壮な笑みを濁し、愛想笑いで自分を誤魔化してみる。

 そうか。これが、いつもの事なんだなと無理矢理納得させる。

 疑問は幾つかどころか、多々有る。

 それこそ、突っ込み仕切れない程に。

 敢えて、そこはぐっと堪えて、他にも聞きたいことがあったので彼女ナナに問い詰める。


「えと……先輩。帰ってきましたか……ねぇ?」


「ええ。とっくに戻られて……というか、トオルさん! 前にも言いましたよね? ちゃあんと警告してくださいましたか! あの人達ったら今日も……」


 あからさまに不機嫌な態度で愚痴り始めた彼女。

 これはいつものパターンだ。

 延々と聞かされては胃が痛くなる説教。

 仕事上がりに、けんもほろろ。

 酒も入り、酔いが口を滑らかにさせよう宵の口ならば適当に相打ち、隙有らば彼女を『お持ち帰り』出来るであろう。


 だが、今相手にしているのは、どう見ても『犬のお巡りさん』。

 若い女が好きなトオルでも萎えてしまうのは致し方無かった。


「あ、え~と。ありがとう! じゃあ、これで!」


 記載した書類を手渡し、銃を返す。

 そそくさとその場を後にした。


「先輩……居るんですよね……」


 予測はつく。

 彼・トオルは所属している部署へと憤慨しながら歩み階段を上って往った。


 やがて辿り着いた開かれた扉はバン!と勢いよく音をたてた。


 室内に居る刑事達は一瞬その音にチラリと目を配らせるも様々に手元にしている作業へと取り掛かる。

 見知った室内、自分の席。

 一先ずトオルは机の上の物を、状況を把握するに努める。

 昨日の状態と同じかどうか。


 几帳面な性質のトオル。

 立て列べられたファイルや机に貼り付けられたメモなど。

 其々を事細かくチェックする。

 そして、それよりも先ず、椅子に掛けられた愛用のグレーのコートの具合が気になったが特に変わりはないようだった。


 さて。

 次に起こす行動を、額に手を当て検討する。

 すかさず、立ち上がり、課長の元へと歩み寄る事にした。

 報告は義務である。


「課長!!」


「おぅ。どうした。報告書は纏まったのか?」


 窓の外の風景を眺め悦に浸っていた彼はキィと椅子を正面に向けた。

 威厳を表す勲章が輝く。

 制服に身を包むフレンチブルドッグだった。

 ぽちっと可愛い黒い鼻を舌で舐めずり、人間臭い態度で腕を組む。

 偉そうだが、愛嬌の有る『課長犬』がそこに居た。


「う……おうおうおう……」


 あまりの可愛らしさに、咄嗟に撫でたくなったのだが、その手を引っ込めるトオル。

 鋭い牙が彼を威圧したからだ。


「何のつもりだ?」


「いえ……何でもありません……」


 引っ込めた手を後ろに携え、キリッと背筋を伸ばし、改めて敬意を示す。

 この世界に於いても、たとえ犬が上司であっても敬い従わねばならないと深く心に刻む。

 こほん、と軽く咳き込み、伺わねばならぬ最重要事項を頭の中で反芻する。


「えと……先輩達は帰ってきましたでしょうか……?」


「あぁ。とっくに帰ってきとるよ。全くあいつらときたら……」


 課長は、ばふぅと、ため息を漏らしながら広い室内の一部を指差す。

 見えた肉球はふくよかで、トオルはまたもや触りたい欲求に駆られたが、そこはなんとか、ぐっと我慢する事に成功した。


「失礼します!」


 くるりと身を翻し、その部屋へと向かう。

 カツ丼などは決して注文したりはしない。

 いわゆる『取調室』だった。

次回は早くて週末辺りか……

別作品のストックに余裕ができればこちらも徐々にペースアップいたします。


すみません……

10月19日は深夜。

読み直し、ちょいちょい、付け足しました。

誤字は無いと思いますが。

くれぐれも、御容赦くださいませ……


( ノ;_ _)ノ

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