第18話 いってきま~す!!
season1、これにて終わりです。
決着がつきよう場面だろうか。
なのに、皆は一様にして焦る。
「早く……脱げぇぇぇッ!!」
身に付けた貴金属を忙しなく外す署員達。
何故に皆がそのような行為にいたるのか怪訝に思い、トオルは首を傾げた。
だが、それはふたりの刑事の覇気にへと目線は運ばれる。
多分、此方の世界では。
湾岸署では知れ渡っているのだろう。
死んだフリをしていた皆は着込んでいた貴金属をひと塊にして集めていた。
「プラーーース!!」
「マイナーーース!!」
いまだ、続く掛け声に怯えながら……。
高々と掲げた両腕は周囲の大気を震わせ、磁気の嵐を産み出していた。
それに比例して、浮かび上がる金属製品。
螺旋を描きつつ、尚も増す磁力が更に増幅の一途を辿る。
「「 イクぜっ!!」」
やがて、慌てふためく大鬼の前後で同時に掛け声が放たれた。
「「 絶! 天狼!! クロスボンバーーーッ!!!」」
声が重なり刹那、ドラム缶の如き頑強な大鬼の頸許をふたりの利き腕が前後から挟み込む。
辺りに舞っていた貴金属は伴い、目標をこれでもかと謂わんばかりに激しく降り注ぐ。
その威力は凄まじく、稲妻のように放電しては、雷鳴が轟き叫ぶのだ。
呆気に取られるも振り向き様。
トオルは、背中に身体を預けていた美女を力強く抱き締める。
「トオル様……」
まるで最早身体の一部であるかのように、トオルからの熱い抱擁を一身に注がれて、ベニーは恍惚の溜め息を漏らしていた。
「 ────── か……は……っ 」
やがて、静けさと共に吐き出された断末魔か。
ぶすぶすと焦げ爆ぜた大鬼は白目を剥いて、口許から煙を噴き出していた。
「「 だっしゃあああッ!!」」
高々と勝利宣言は鳴り響き、タカとユージは各々、思い思いのガッツポーズを極めるのであった。
「よくやった!! 大野下! 鷹野山! トオルも、な!?」
ずり落ちるズボンをたくし上げながら、しまらない格好でフレンチブルドッグの課長が三人の部下を褒め称える。
「ま。楽勝ですわ。な? タカ♪」
「ああ。ユージ。俺たちふたりが揃えばどんな事件でも解決してみせますよ」
「に、しても……やり過ぎだろう……」
辺りを見渡せば一目瞭然。
最早、日常業務に支障を来す処ではないまでに破壊しつくされた室内。
唯一無事なのは高級な革製の課長の椅子ぐらいではなかろうか。
課長はそれにゆっくりと腰を掛けると深く瞳を閉じて、何か思い悩むようにして溜め息を吐く。
「……トオル。その娘さんはどうする……」
「…………」
遂に突き付けられてしまった現実が、トオルの心を酷く締め付ける。
離したくない。
だが、罪人は等しく裁かれねばならないのだ。
「……トオル様……」
「……ベニー……」
強く強く抱き締めあうふたり。
やがて、まるでその時が来るのを分かっていたかのように、ベニーはそうっと彼から身を離す。
「ありがとうございました。私は……ゆきます」
頬を伝う涙が夕陽を浴びて、彼女の名を顕すように紅色に光輝く。
せめて、刑事としての役割は他の誰にも譲りたくない。
トオルは冷たい鉄の輪っかをか細い罪人の両腕に填めようとした。
─── それは突如、未然に終わりを告げる。
鮮烈な血飛沫が舞散る。
いったい何が起こったのか分からず、大きく見開かれた眼で、トオルは血に染まり倒れゆくベニーを咄嗟に抱き留めた。
「か……は……は……最後の最後まで……気ィ抜いてんじゃあねぇ……ぞ……」
黒焦げになり、意識を失っていたハズの大鬼は不敵な笑みを浮かべる。
投げ付けられた硝子の破片が深々とベニーの胸元に突き刺さっていた。
「……ち……狙ったのは……若造だったんだが……なあ…………」
─── ズズゥン ───。
再度襲い掛かってきた激痛に堪えきれず、大鬼は盛大に地に突っ伏して意識を失った。
タカとユージはそんな彼を見ては爪を噛み、互いに自分の失態を悔やむ。
「ベニー……。 ベニーッ!! ダメだ!! 逝くんじゃあないッ!!」
「ト……オル……さま……」
産まれたばかりの赤子のように、トオルは激しく咽び泣き喚く。
強く抱き締められた嬉しさからか、暖かい涙が血潮と共に溢れ、床を慈しみが染めてゆく。
ベニーは一切苦しそうな表情を見せずに、唯ひたすらに目の前で泣きじゃくるトオルの頬にその掌を優しく添えた。
そして、こう呟くのだ。
「忘れないで。くださいね……」
「何を言って……!?」
唐突に重なる唇が二の句を告げさせない。
頬に添えられた掌に掌を重ね、トオルは信じられない光景を目の当たりにした。
鮮烈な血潮は端々から桜の花びらへと変貌し、柔らかな春の風に舞い踊る。
彼女の身体は徐々に桜の花びらと成り、その全てが儚く散ろうとしていた。
「……………っ!!」
トオルは唖然として戸惑う。
手にした温もり全てが、舞い散る桜のように霧散してゆく。
奇跡は無常にして、神などこの世にはいないと物語る。
愛しきひとの躰はボロボロと崩れ去り、抱き締めた端々から花びらが宙に舞う。
やがて空いた唇を切なさが埋め尽くし、トオルは人目も憚らず。
言葉にもならないぐらいに初めて心の奥底から慟哭した。
春の麗らかな夕映えに舞い踊る桜吹雪の一片を握り締めながら ──────
────── 朝。
よく晴れ渡るも、蝉の鳴き声が煩わしい。
相変わらず、窓の外では異様な日常が目に写り、トオルは寝惚け眼で浅く溜め息を吐く。
どうやら、季節ごとに仕様が変わるらしい。
空中TAXIはその身に纏った大きな冷風機を面倒臭そうにしていたが。
軽めの朝食を済ませスーツを着込み、壁際に掛けられた小さめの額縁には拙いながらも描かれた女性像。
トオルは彼女にそうっとくちづけを交わし、何時ものようにお出掛けの挨拶をする。
「いってきま~す!!」
気のせいか。
微笑んだような表情で彼女も応える。
いってらっしゃいませ ─── と。
なんとか、一章を終わらせました。
(^_^;)
次は夏編です。
年内の更新はこれにて締めっ。
次回は来年は1月3日あたりにしようかと。
いつも読んでいただき、誠にありがとうございます。
。・(つд`。)・。




