第16話 ……お前はやり過ぎた。よって天誅を下す!!
茶番のようなバトル回です。
(・_・?)
ᕦ(ò_óˇ)ᕤ むきッ
漢はこれ見よがしの逆三角形を皆に魅せつける。
全身此れすなわち筋肉の塊なり。
ᕦ(ò_óˇ)ᕤ むきむきッ
本来であれば、額に聳えるハズの象徴が更に其の存在をより際立たせるのだが。
10メートル近い体躯だけでも、十分に恐怖は感じ取れた。
湾岸署内の大抵の部屋は、有りとあらゆる犯罪者の対策のため、高さや頑丈さを考慮され作られていたのだが。
其の者は頭頂部を天井に擦り付けながら窮屈そうに、僅かばかりの布切れを身に纏い屈めていた。
「……む? ソコにいるのはシャドーではないか?」
まるで奈落の底から囀ずる悪魔のように低い声が発せられ、幼児退行しているダークエルフに突き付けられる。
すると其の低音に、はたと我に帰ったシャドーは見渡すこともなく一際目立つ大鬼へと目を配り、まるで百年の恋が叶ったかの如く大粒の涙を流した。
「あ……。兄貴ぃぃぃッ!!」
事実は小説より奇なり。
種族を超越した関係が明らかと成る。
だが、それはあくまでも極道としての関係である。
シャドーは手錠を填められたまま、俊敏に大鬼へと駆けつけ逞しすぎる太股へと顔を摺り寄せた。
「おう、おう。息災でなにより。して、皆は元気でやっとるのか?」
甲斐甲斐しくシャドーの頭を撫で、彼は問う。
「オヤジ亡き後、今は若旦那が立派に引き継いでおります!」
シャドーは事務所が小さくなってしまったことは決して言わずにおく。
真実を闇に葬るのが彼等の仕事なのだろうか。
「おう! 坊主か! 早く会いたいものだのう……」
そんなシャドーの心の内など露知らず。
大鬼は腕を組みながら、感慨深そうに頷いていた。
「して。先ほどの爆発はおぬしがやったのか?」
「はいッ! 件の生物爆弾を利用しまして……」
シャドーは背筋をピンと伸ばし、優等生らしく元気よく挨拶する。
しかし、帰ってきたのは鉄拳制裁という名の暴力だった。
「やりすぎじゃあああいッ!!」
突如、首から上がなくなるぐらいの勢いで、シャドーの顔面に剛拳が叩き付けられる。
刹那、あわれ彼は湾岸署から激しく放り出され、キラリと輝き星となった。
「ありがとうございまぁぁぁぁぁ…………」
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大鬼は、そんな地球外ホームランをされてしまったシャドーを。
まるでGOLFで打たれた球の軌道を確かめるかのように眺める。
「ふん、まったく。組のモンはいったいワシのことを何だと思っとるのか……」
地下での爆発の規模から鑑みても、十分に化け物である。
ポリポリと瘡蓋を掻きながら、呟く大鬼。
よく見れば、至るところに酷い傷痕があった。
だが、その殆どは徐々に傷口が塞がり、血が固まってゆく。
どうやら、高レベルな再生能力を持っているらしかった。
署員一同は皆、目の当たりにした恐ろしい寸劇を見ては、その場で静かに横たわり死んだフリをした。
相手が熊であれ通用しないというのに。
波に乗り遅れたのか。
ぽつんと一人、取り残されたトオルが大鬼の目につく。
後ろ手に愛しき人を庇うあたりは流石であったが。
「おう。若造ッ!! 前にワシが言ったことを覚えておるか?」
視線だけで何者をも失神させるほどの鋭い眼差しが彼に向けられる。
口許から吐き出される湯気が顔に纏わり付き、少し嫌な表情を浮かべるも、勇気を振り絞りトオルは一歩前へと歩み出た。
「……お前はやり過ぎた。よって天誅を下す!!」
人差し指を叩き付け、正義は我にありとばかりに燃え上がる瞳で立ち向かう。
『決まった……』と己に浸るトオルを余所に、死んだフリをしていた署員達は所々でクスクスと受けていたようだが。
彼に守られていたベニーは双眸にハートマークを揺蕩えば、最早我慢できずに躰を密着させ全身を以て想いを伝えていた。
背中越しに伝わるその熱い情熱と淫らな感触が更にトオルを奮い立たせる。
「さぁ……。こいよ!!」
一番身体によく馴染んだ技。
柔道の構えでトオルは大鬼に向かい合う。
「ほう……。なかなかの男気。しかと承けた! ゆくぞ!!」
唸る剛腕。
先ほど星となったシャドーを思い出すも、トオルは一切身を引かず。
やがて、するりと拳はすり抜け大鬼は何時しか天井を眺めていた。
「…………。な……なんだ今の技は!?」
決して床に盛大に叩き付けられた訳ではなかったので痛みもなく。
即座に飛び起きた大鬼は驚愕の表情を浮かべトオルを見詰めた。
「ふ……。これこそが我が奥義!! その名も」
「ぬえいッ!!」
最後まで言い切る前に、再び放たれる剛腕。
しかし、またもやするりと受け流され、再度床へと巨漢は寝転がる。
「………………」
大鬼のみならず、死んだフリを徹底していた署員達でさえ、その見事に冴え渡る技に納得せざるを得ず。
だが、どうにも腑に落ちないようでもあった。
ならば、とばかりの大鬼。
転がった体勢のまま、巨木を彷彿させるほど逞しい脚がトオルを横から凪ぎ払おうと襲い掛かる。
宛らカポエイラのような動きで両手を地につけ、廻し蹴りが放たれたのだ。
本来ならば立ち技の使い手なのだが、此処は彼には狭すぎた。
臨機応変こそが、戦いの極意であると知らしめようとする。
「そいいいッ!!」
掛け声も新たに吐き出すも。
有り得ない光景を目の当たりにして大鬼は思わず恐れ戦き戦慄の表情を浮かべてしまう。
トオルは己の双眸を深く閉じていたのだ。
「な、なにぃぃぃッ!?」
くるりと手を廻し、互いが触れるや否やの隙間に大気は緩やかに撓る。
トオルは今や既に、合気道の達人へと登り詰めていたのであった。
「……柔道。関係無いじゃん……」
署員達の誰かがそう呟いたのは当然のことかと思われる。
まったく関係無いという訳では無いんですけど、ね(笑)
次回は、12月17日辺りの予定でっす。
( ノ;_ _)ノ