第14話 ここで言うのもなんなんだけど……捕まっちゃうから、ね!?
遅れがちですみませんっ!
(´。・д人)゛
─── 桜の花びらが。
ひらひらと舞い踊る。
春のときめきを呼び起こす。 ───
かつて、目にしたことの無いまでに。
視界を埋め尽くす桜の花びら。
果たして、この光景を目の当たりにして、心を奪われない者などあろうか。
わたしは大きな桜の木の下で、たったひとりの男と見つめあう。
胸の奥が熱い。 高まる鼓動。
激情は、絶え間無く押し寄せる漣のように、激しく心を揺さぶり続ける。
今までに味わったことの無い歓喜に酔いしれ、まるで蝶が蛹から成虫になるように、わたしは殻から抜け出した。
そして、わたしは新たに進化を成し遂げたのだ。
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かつて、私はあらゆる場に於いて、邪魔物でしかなかった。
同種族のドラゴンでさえ産まれた途端、生涯のパートナーを見出だし、安寧の生活を手にしているというのに。
皆は言う。
やれ、アンタは不器用だ。
やれ、アンタは古臭いだ、と。
栓無い事だ。
私は誰にも、否、社会にも適応できない性質なのだから。
こう、自分に言い聞かせるしかなかった。
有り体に言えば『ぼっち』。
だが、私は敢えて其れに甘んじる。
決して誰にも触れ合うことなく、人里離れた山奥は、かつて鉱山として栄えていた、だが今では寂れた洞窟を我が物顔で占拠して。
ひっそりと、吐息すら吐き出すのも躊躇うぐらいに引き籠ってしまった。
ドラゴンなどは、そういう存在なのだと決めつけて。
私を産んでくれた母や、共に産まれ育ってきた兄弟など、どうでもよい。
このまま、深く、深く。
大地や大気と一体化して、成れの果てを目指そう。
瞳は閉じたまま。
丸くなり、永遠の眠りに就く。
それでよかった。
しかし、あるとき。
一人の男がやってきて、やがてその者はこう告げた。
「……んなトコでクサクサしてねぇでよ? 俺ンとこ、来ないか?」
当初、彼がいったい何をいっているのか分からずに首をかしげては。
面倒なことだと、私は無視を極め込んだ。
その様子を鑑みたのか、一度は諦めたものの。
なのに、彼は執拗に私を其処から連れ出そうとしたのだ。
漆黒の外套を纏った彼は、何度も何度も私を説得しようとする。
「なぁ……いい加減、出てこいよ……」
武力を行使して、彼を遠ざける手段は直ぐ様思い付いたのだが、それすらも面倒で。
限り無く薄く伸ばした溜め息で、私は彼の言葉を全く気に止めもせず、右から左へと聞き流していた。
だが、彼は決して私を諦めやしないのだ。
何十回と訪れては、こんこんとくだらない話や説教を続ける彼に。
私は遂に折れてしまい、『シャドー』と名乗る彼に付き従うことにした。
あくまでも。
道具として。
そう、彼は私を兵器として手中に納めたかったに過ぎない。
でも、それで良かった。
私は敢えて自我を奥底へと仕舞いこみ、彼の命令に従うのだ。
簡単なことだ。
彼の言うことを聞いて、自分の力を世に知らしめるだけなのだから。
そして私は非道な行為に明け暮れる毎日を過ごした。
その殆どが非合法極まりない、残虐な、決して此の世界で赦されざる犯罪に荷担して。
私の手は、全身は、泥と血にまみれ、真っ黒に染まっていたのだ。
もう、何も、自分では何が正しくて何が間違っているのかも分からない。
心は、深淵の暗闇へと沈み、自我は行き先を見失っていた。
そんな時、出会うもの皆が恐れ戦く私に、決して怯えずに。
彼は優しく微笑み掛け、私に手を差し伸べてくれた。
警察署を襲撃するなどという暴挙に出た私たちは、いや、私は既に犯罪者そのものなのに。
暖かい温度が私の冷えきった額を伝い、心の闇を解してゆく……
いままで、一度も味わったことの無い、感じたことの無い温もりが。
ただ、ひたすらに注ぎ込まれたのだ。
─── 嬉しい ───
勘違いかもしれない。
─── 恋しい ───
勘違いかもしれない。
─── 愛しい ───
私の心の闇は、さんざめく桜の花びらで埋め尽くされ、たった一人の男性が。
運命の人が其処に立ち、手を差し伸べていたのだ。
涙が心を充たし、私は漸く自分を取り戻す。
そう。
私は彼、トオル様に救われ、初めて恋に落ちたのだ。
「じゃあ……『ベニー』って呼んで良い?」
その瞬間、辺りは桜の花びらが舞い踊り、高鳴る鼓動はより一層激しく私に襲いかかる。
そして、今まで一度も夢にみなかった奇跡が私の身に降り注ぐ ───
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「……ベニー……」
トオルは、かつて、ドラゴンであった彼女の変貌を目の当たりにして驚愕の表情を曝す。
其処に居たのは以前の凶暴且つ、威風堂々とした爬虫類の面影など一切残さず。
だが、僅かばかりにつんと尖った双角だけが彼女が嘗てドラゴンであったと物語る。
スラッとした体躯で、決して目立つ膨らみは無くも、透き通るように美しく長い黒髪が風に靡く。
蒼空の蒼さを宿した澄み通る瞳。
黄金比率を見事なまでに完成させた美貌。
此の世界に来て、初めての人間らしい『絶世の美女』をその目に焼き付けて。
トオルは思わず感嘆の溜め息を漏らして立ち尽くす。
そして、誰かが言わねばいけないことを代表して言うのだ。
「─── 綺麗だよ。ベニー……」
決していやらしい手付きではなく、優しく愛しく微笑みながら、トオルは彼女の黒髪を撫で鋤く。
続ける度に両頬どころか、耳まで真っ赤になり、晩秋の夕暮れのように染まってゆく。
やがて、堪えきれなくなったのか。
彼女はトオルの胸元に顔を預けてしまう。
「……ありがとうございます……」
自然と両手は抱き締め合う。
ふたりは自分達の世界へと誘われてゆく。
「んっと……。でも、このままだといけないね……」
グラスに並々と注がれたワインのように瞳を嬉し涙で潤わせて、其の身を委ねるベニーが上目線でトオルの表情を窺う。
それもその筈。
彼女は一糸纏わぬ姿、つまりは全裸なのであった。
構うものか、と神々しいまでに光輝く淡い肌艶がトオルの男としての本性を刺激する。
ズボン越しからでも見てとれる程、下半身は正直に、雄々しく隆起しかけていた。
遼ちゃんならぬ、トオルちゃんもっこり。
「えっと……このままじゃあ駄目でしょうか……」
相変わらず身体と身体を密着させたまま、ベニーは上目遣いで最早、行為に至るのを前提にしているようにトオルに物申す。
そんな彼女を抱き締めたまま、だが、流石にそれは職業柄遠慮させて頂くトオル。
「ここで言うのもなんなんだけど……捕まっちゃうから、ね!?」
ベニーが犯罪者ということを自分は見ていなかったということにして、トオルは警察署内で彼女に告げた。
「 ─── ってか。うおい!! いつまで茶番続けてんだ、ゴルァ!!」
モブと化していた黒装束の男が喧しく叫びあげ、ショットガンの銃口をトオル達ふたりに向ける。
しかし、もう片方の手には真空パックされた普段警察で支給される女性用の制服があった。
「サッサと着替えやがれ!! ったく。視てる此方がヤベェわ……」
どうやら彼女、ベニーの絶え間無く溢れる魅力は種族をも超えるらしかった。
モジモジと股間を抑え付けながら、彼は離れ際に再度振り向きもう一度指令を告げようとしたのだが。
「それが終わったらソイツをよく見張ってボス連れてこ……」
KISS。
KISS。KISS。
形振り構わず、アタックなのだ。
今が好機だ、後へ退くなよとばかりに、ベニーはトオルの唇を奪っていたのだった。
ふい~~~……
中々に巧く文章が纏まらず、苦戦しまくり(爆)
今後もちょいと更新ペース落ちますが、何卒、御容赦くださいませませ!
(´。・д人)゛
次回は(あくまで)12月8日辺りの予定です。
(;><)




