第13話 ……じゃあ、『ベニー』って読んでも良い?
遅くなりましたっ
(;>_<;)
「 ────── ??」
トオルが事務室へと足を踏み入れたとき、状況は一転し、修羅場と化していた。
ひとまず、背負っていた重傷の法玄を壁際に備え付けられた柔らかいクッションへと下ろし寝かしつける。
振り向きざま、トオルは現状を再確認する。
窓際には大きく破壊された痕跡が明らかであり、映し出された外の景色からは心地好い風が盛大に注ぎ込まれていた。
至るところに瓦礫や書類などがバラ蒔かれ、所々、僅かではあるが炎が立ち込めている。
そして、トオルが何よりも気になったのが ──
課長ならび、署員の皆は後ろ手に鎖できつく縛られ、一塊にして頑丈そうな太い縄で纏められていたのだ。
机の上に偉そうに胡座をかき、彼等を見下ろす謎の黒装束がショットガンらしき銃を片手に煙草を燻らせる。
「で……? ナニこれ……」
why。
表すならば、その英単語。
いったいナニが起こったのか全く検討もつかず呆気にとられ。
Japanese・people。
トオルはただ呆然と立ち尽くした。
そんな彼に対して、課長達をまるで人質にとったかのように、黒装束に身を包んだ奴が銃を片手に唾を吐く。
「おい、小僧。ボスは何処にいる?」
今、目の前で拘束されている課長の事ではないと思われるも。
しかし、あまりの急展開に頭の回転が追い付かず、敢えてトオルは下手に出てはその男に問う。
「え~と……私の上司ならそちらにいらっしゃいますが……」
「あ? 寝言は寝てから言えや!?」
目深に被ったフードから殺気が放たれ、思わず身震いするも。
トオルはそれでも勇気を振り絞り、己の阿呆さ加減を以て、揉み手をしながら胡麻を擂ろうとした。
「いや~。旦那! 申し訳有りません! あっしは一介の若輩者でして! そんなあっしに詳しく、理解出来るようにご説明していただけないでしょうか!?」
そのあまりにも卑屈な態度に戸惑うも、忌々しげに短く舌打ちをした彼は一先ず銃を下ろし丁寧に説明し始める。
「此処の署長を連れてこいってんだよ。一昔前のことだ。野郎、ウチのシマぁぶっ潰しやがって……あとドーベルマンとシェパードの刑事!! アイツらも連れてこい!! ── あぁ、ちなみに地下での爆発はこっそり仕込ませておいた小鬼爆弾だ」
最後。
さらりと凶悪な単語を言い放った彼は嬉しそうに口許を綻ばせる。
要するに、逆恨み。
復讐といった類いに分類される。
そして彼は再度銃口をトオルに向けて斜に構え脅すのだ。
「分かったらさっさと連れてこいや!?」
「はい! 少々お待ちを!!」
猿轡をされていたので、喋ることも赦されず。
捕縛された署員らは犯罪者に対して敬礼する、そんなトオルを見ては頻りに首を横に振り『NO!』と告げる。
確かに皆の気持ちはわかるのだが、自分の身も危うい。
長いものには巻かれろの精神でトオルはその場をあとにして、署長室へと向かおうとした。
「おい。ちょっと待てや。見張り役を付ける。レッドスネーク! C'mon!!」
思わず笛でも吹くのかと期待したが、其処に喚ばれたのは、赤熱を体現したかのように燃え盛る肌艶が一際目立つ大蜥蜴。
決してスネークなどではなく、その雄大且つ、巨大な翼と鋭く尖った双角が其れを『ドラゴン』だと認識させた。
全体的な大きさはファンタジーモノで活躍する其れほどはなくも、周囲に放たれる気迫がその恐ろしさを語る。
縛られた署員らは皆各々に歯をガチガチと打ち鳴らしては震え上がっていた。
だが、彼らとは全く違った印象を受けたのか。
その圧倒的な姿に思わず格好良さを覚え、トオルはおずおずと近寄り頭を擦ろうとした。
「おい、ゴルァ! 何してんだ!」
黒装束の男は咄嗟にトオルに突っ掛かろうとするも、ただ単にドラゴンの頭を撫でるだけであったので、荒く鼻息を漏らしては漸く落ち着く。
「あら、優しいのね♡ そう、もっと撫でてちょうだい……」
意外にも、ドラゴンは女性だった。
彼女はうっとりとした表情を浮かべ、トオルに額を擦り寄せる。
思わぬ反応に満更でもなく、トオルも何度も何度も優しく、額だけでなく頬や口許などを撫でまわす。
多分、今頃は家で飼育しているイグアナが嫉妬しているであろう。
そう。
実は、トオルは爬虫類が大好きなのである。
幼き頃などは、口笛など吹きつつ、空き地などで遊び、蜥蜴を見つけては掴まえて、親に内緒で自室で飼育していたものだった。
況して、男のロマンとはいかないまでも。
ドラゴンなどは架空の存在であり憧れの対象となるのだろうか。
「おい! いい加減にしろ!!」
止めなければ、永遠に茶番を見せつけられるのではないかと思った彼はトオルの後頭部に銃口を押し付け、激しい突っ込みをいれる。
「ちょっとシャドー! 彼に乱暴しないでちょうだい!!」
まるで愛しき卵を守る親鳥のように。
彼女はトオルをその大きな翼で覆い庇い、その迫力に圧され、彼は思わず引き下がる。
「……ち。まぁ良い……そいつが余計な真似しないようにようく見張れっ」
彼はくるりと踵を返し、近くにあった机の上に腰を落ち着けた。
どうやら、彼でもドラゴンは御しきれない様子だった。
「に、しても……この姿では流石に邪魔ですわね。ええと……失礼ではございますが、お名前を聞いても?」
妙にご丁寧に、いや、どちらかと言えば恋を覚えた少女のようにドラゴンは熱い視線をトオルに向ける。
「あ、俺はトオル。町之田トオルです」
「トオル樣……ありがとうございます。私はレッドスネークと書いて紅子と申します」
お互いに、深く頭を垂れて挨拶を交わし、のちに見詰め合うふたり。
やがて、どちらからか途もなくして、笑みが自然と溢れていた。
教会の鐘は鳴っていない。
だが、其れは運命的な出会いであったのだ。
「紅子ちゃんか……じゃあ、『ベニー』って読んでも良い?」
─── ズギュゥゥゥゥゥン! ───
Heart catch dragon。
たったひとつの弾丸が、彼女のハートを撃ち抜いた。
次回は約3日後あたりの予定でっす。
( ノ;_ _)ノ