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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season1【春】やりきれない。殉職刑事が異世界進出。
13/63

第12話 返事してよッ!!

短めです。

軽く読み流してくださいませ……

 それは、トオルが粗方(あらかた)事務作業を終えて(ようや)く一息いれようとした時だった。



 …… ズズゥン ッ!! ……



 地響きと共に大きく揺れる湾岸署。

 縦揺れに近い。

 足許はぐらつき、署員はおろか犯罪者と思われる者達でさえ背を屈み怯える。

 皆の手元のスマホからは前以ての緊急速報が鳴っていない。


 それは地震ではなかった。

 署内をけたたましいサイレンが鳴り響く。



  『 WARNING WARNING 地下室で火災が発生しました。 署員、及び関係者各位。 直ちに避難してください。 』



 いったい何事が起こったのか。

 皆一様に神妙にしている。

 しかし、ふと何かを思い出してトオルは(おもむろ)に、即座に駆け出した。


 「……ほーさん……」


 地下室は牢屋の番犬。

 トオルはこの世界で先輩たちの異常な能力を見ていたので、多分大丈夫であろうと鑑みるものの。

 額に汗を滲ませ、そこに辿り着いた頃には目を疑うような光景に唖然と立ち尽くしてしまった。


「何だよ……これ……」


 堅牢な檻などは最早役に立たず。

 個人の障壁すらぶち抜かれプライバシーは筒抜け状態。

 辺り一面瓦礫で埋め尽くされ、死傷者も夥しく、まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


「……ほーさん……」


 トオルは相変わらず茫然と立ち尽くしながらも、門番の法玄を目視で捜す。

 やがて、瓦礫の隙間からふわふわの、だが血に(まみ)れた手を眼にして急いで駆け付けた。



「く……ッ!! ほーさん! 返事してよッ!!」



 まだ警官としてデビューしたての頃、トオルはよく彼にお世話になっていた。

 人懐っこくも、何処か自分と似たような雰囲気を醸し出し、いつも朗らかに笑う。

 そんな彼に遠く離れた父の面影を感じたりもした。

 酒を酌み交わし、時には暖かい食卓に誘われ。

 また、時には彼の子供たちと遊びつつも、奥さんから優しい接待を受けて。


 例え、それがこの異世界だとしても、変わらないかけがえの無い存在。


 その頃を思いだし、自然と泪が頬を伝う。

 まだ、逝っては駄目だと何度も呟きながら、トオルは瓦礫の山を懸命に取り除こうとした。



「……ト……オル……か……?」


「ほーさんッ!!」



 微かに聴こえた声には一切覇気は無く、最早残された命は数刻を経て尽きるのではないかと思われる。

 トオルは()れでも決して諦めずに、天井から降り注がれる僅かな破片になど一切構わずに、次々と瓦礫を退()かしてゆく。


 しかし、時は既に遅く。

 凄惨さを現実に帯びては、彼の命があと僅かだと感じさせて、トオルは思わず言葉を失い片掌で口をつぐむ。


「……に……げろ……『アレ』が……解き……放たれ……る……」


 目力も朧気に。


 残された精一杯の力を振り絞り、彼は器用にも人差し指で彼方を指し示す。

 その指先に導かれ、トオルは目線をそちらに向ける。



「……ふはあああ……やれやれ……やっと迎えが来たか?」



 一際、堅牢且つ強固な狭い檻から放たれた奴は、頚を景気好くも軽快に鳴らしながら欠伸をして、柔軟運動紛いに背を伸ばす。

 トオルが出会いたくないと心底思っていた怪物が立ち(そび)えていた。


 身の丈、10meter(メートル)はあろうか。

 不必要な迄に鍛え上げられた(バンプアップされた)圧倒的な筋量が無駄に暑苦しさをひけらかす。

 舞い踊る粉塵をものともせず、日常茶飯事的に吐息を吐き出し、上下に(そび)え立つ口許の牙が徐々に鋭さを増す。

 邪悪極まる眼光は決して限定された誰かを見据えるでも無く、無造作に見付けた同胞は犯罪者から衣服を奪うのだ。


 大鬼。


 オーガと呼ばれる小鬼(ゴブリン)の上位種。

 その化け物は其処(そこい)らに寝転がっている死体などから衣服を奪い、取り敢えずのコスチュームに身を包む。

 (やが)て、視界の端に目に付いたトオルへと顎をボリボリと掻きながら、まるで昔から自分の手下であったかのように厚かましく要求をしてきた。


「あ~……煙草吸いてぇんだけど……?」


 空いた人差し指と中指が切なさを(まと)い、くいくいっと要求してきた。


 あからさまに、不満げな態度で気に食わなそうに振る舞い、その場の空気を読めずに茫然と立ち尽くすトオルは思わず苛立ちは感じずも何様だと怪訝に疑う。


 だが、さっさとこの茶番を流して法玄を救うに撤したい彼は、懐から普段愛用する事の無い各種取り揃えられた煙草を差し出す。

 喫煙家では無い彼・トオルが何故、懐に(しの)ばせていたかというと。

 ()れは、各上司や先輩達のご機嫌伺いに(ほか)ならないであろう。



「……ぷはーーー……シャバの空気は美味いぜぇ……。 」



 網走(あばしり)帰りのヤクザを装い、彼は白煙に身を染め喫煙に、ほど酔う。

 一息で根本まで吸われた一本を御座(おざ)なりに指先で弾き飛ばし棄てる。

 決して(ゆる)されざる行為ではない。

 ()してや、此処は警察署内である。


 だが、彼は()れが当たり前かのように振る舞い、更にその限度は留まる事を知らず。


「おう。兄ちゃんよ……」


 残された命も。

 余命僅かな番犬成りしは、大切な門番の上司。

 グレート・デーンの犬に見えるもかけがえの無い存在の『法玄』を庇いつつ、トオルは大鬼(オーガ)に心境を読まれないように懸命に装いつつ答える。


「はいっ。何でしょうっ!」


 二の句は、まさかの『焼きそばパン買ってこいや』ではなかろうかと(いぶか)しむも。

 有り体(ありてい)に、次に告げられた言葉に正直、トオルは()の身を引かざるを得なかった。



長官(ボス)の首ぃ、取ってこいや。あと……俺様をこのくっさい豚小屋にぶちこんだ野郎ども……ふたりを連れてこい!!」


 嫌な予想は的中。


 だが、トオルはそんな偉ぶる大鬼(オーガ)の言いなりに従うしかなく。

 法玄を背中に抱えつつも、そそくさとその場を後にしては、己の不運を嘆くのであった。



次回は。

11月27日は月曜日辺りの予定。

くれぐれも、です!


(´゜з゜)~♪

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