第11話 よっこいしょーいちっとぉ
ちょい遅れぎみですみませんっ
(;>_<;)
その日は朝早くから賑わいを見せていた。
泊まり組だろうか。
大勢の犯罪者がそこかしこで取り調べられている。
署内に足を踏み入れた彼トオルはその騒々しさを目の当たりにしてうんざりした。
しかし、そこで足を止めるわけにもいかず。
自分がしょっぴいてきた輩を偶然空いていた個室に連行する。
途中、顔を合わせた同僚や先輩、上司に挨拶するのを忘れずに。
「ほら。入って」
優しく背中を押され室内に備え付けられている鉄パイプ製の冷たい椅子に座らせるも、その巨体は大きくはみ出していた。
モヒカン頭の小鬼は促されるも座るや否や、偉そうに腕を組み机の上に足を乗せる。
相も変わらず自分の立場を分かっていない彼に対してトオルは込み上げてくる苛立ちをぐっと堪えた。
「なぁ。なんであんなことをやったんだ。詳しく話してくれないか?」
トオルはゆっくりと彼・小鬼の正面に立ち、自身も椅子にゆっくりと腰掛ける。
机の上に両肘を付き、神妙な面持ちで掌を併せ顎を乗せた。
キリリと格好付けては体裁を取り繕うようにも見える。
甚だ、自分がイケメンであると不遜に魅せ付けるトオルは。
全く目線を合わせようとしない彼に対して、それでも紳士的に振る舞いつつも。
しかし。
突如、暗闇から野蛮な声が聞こえてきては、其の行動は彼の性格を一切解き放つのだ。
「おい。手前。警察舐めてんじゃねーぞッ」
「あ。おはようございます先輩」
決して自分は手を出していない。
小鬼は即座に、シェパードの犬種の刑事・大野下ユージによって床に突っ伏していた。
彼がこの室内のカーテン裏から現れた事に対し、トオルは最早、何の違和感も覚えなかった。
先輩ならば、完全に気配を断つのも容易であると推測されたからなのだ。
「んで? この馬鹿が何しでかしたんだ?」
「あだだだだだだッ!!」
小鬼はユージからキャメルクラッチを喰らい悲鳴をあげている。
その姿を観て、トオルは少し胸が空き、いやらしそうに微笑んだ。
「いや~、朝っぱらから路上で突っ掛かってきましてね~」
「違えだろーが! 手前がイチャついてたからムカついて……あだだだだだだッ!!」
「その前に。街路樹とか辺り構わず、こう……棘の付いた鉄パイプでへし折ってたでしょ? その破片を身に受けた女性を介抱してただけなのに……」
「るっせぇ! 俺ァなんも悪くねぇッ!! あだだだだだだッ!!」
そろそろ、背骨や腰骨に限界が近いのか。
バンバンと床を叩きギブアップの意思を伝える小鬼。
だが、1度極めた技が気に入ってしまったのかユージは決して外そうとしなかった。
やがて、嫌な音が室内に響き渡り、泡を口許から盛大に吐き出し小鬼は意識を失ってしまった。
思わず彼に同情してしまい御愁傷様とばかりにトオルは両手を併せ拝むのだ。
「成る程ね。に、してもここ数日多いな……普段ならこんなに忙しくないのに」
漸く玩具から興味をなくしたユージはゆっくりと立ち上がり背伸びをしながら軽く悪態をつく。
課長が聞いたらきっと叱るだろうな、とトオルは思いつつも、取り敢えず賛同してみた。
「ですよね~」
まだ、この異世界に来て二日目なので数日間の出来事などはまるで知らないのだが。
「ま、ナンにせよ。コイツぁ、牢屋にでもぶちこんでおけば良いんじゃね?」
果て、寝転がる意識の無い患者を足で乱雑に扱うユージ。
まさか、そのままサッカーボールに見立てて蹴り転がし続けて牢屋をゴール代わりにシュートするのでは。
そう思ったトオルは痛く同情してせめて自分が担いでやろうとする。
「よっこいしょーいちっとぉ」
かなり古いネタを口に出して小鬼を肩に担ぎ、ずるずると引き摺り扉に手を掛けた。
せめて、開けてくれないかなぁとユージを見るも、素知らぬ顔でゴルフの練習をしているのでトオルは早々に諦める。
自分で扉を開けてみては、相変わらず喧騒賑やかな事務所を後にして。
地下の牢獄へと向かったのであった。
▲-----▼
「これはこれは。トオルさん。お疲れ様ですっ」
警官と言うよりは警備員に近い服装の門番は、わんっと気さくに話し掛けてきた。
なのでトオルも僅かに息を切らせつつも、笑顔で彼に挨拶をした。
「た……頼んで……良いかな……っ」
モヒカンの彼は決して小さくない。
寧ろ2メートルはゆうに越えている。
そのうえ、屈強な肉体を誇っているので体重もそれに比例し、此処まで引き摺ってきたのに苦労するのは至極当然であろう。
ちなみに、小鬼には上位種大鬼が居るようであり、その身の丈はゆうに小鬼の5倍はあるらしい。
絶対に関わりたくないと心の中で呟きつつ。
トオルは一先ず抱えていた小鬼を床に放り、額から噴き出す汗を袖で拭う。
そして、門番から然り気無く手渡されたペットボトルに口をつけて漸く息を整えた。
「ぷはー……生き返るわー……」
死んでいた訳ではない事は重々分かってはいたものの、表現の古さに門番はくすりと苦み嗤う。
ちなみに、門番は床に倒れている小鬼に匹敵する程かなり体格が良く、その犬種はグレート・デーンだった。
白を基調とした黒い斑点が目立つ。
朗らかな笑顔でトオルを出迎えてくれた彼の胸元の名札には『法玄』とあった。
「じゃあ、ほーさん。後は頼んますっ」
「はいっ。了解しましたっ」
口を付けたペットボトルのお礼にと、トオルは然り気無く法玄の懐に賄賂を渡す。
といっても、薄汚れたモノではない。
かなり貴重な代物ではあるが。
前の世界の彼と同じ性格ならば多分喜ぶであろうと思い、トオルが内々に準備していた物。
其れは『アイドルのプロマイド写真』だった。
いつも、お世話になっていたので常に複数枚購入して机の引き出しに仕舞っておいたのだ。
果たして、この異世界の自分の机の中身は同じかどうか不安に思っていたのだが、確認したところ問題は無く。
他の書類の類いでさえ、前の世界とほぼ様子は変わっていなかったようだ。
唯一違っていたのは、写真に写っていたのが『ペンギン』だった処。
確か以前見た時は可愛らしい見た目20代前半のアイドルグループだった筈。
やはり此の世界の基準に馴染めず、トオルはがっくりと項垂れる。
最早、生涯独身の道しか残されていないのかと切なさだけが身に染み渡る。
「はぁ……でも、頑張るっ!」
なけなしの期待に想いを馳せ、トオルは地下牢獄を後にしたのであった。
数分後、引き起こされる惨劇などには全く予想だにせずに……
むむぅ。
少し間隔を空けます。
次回は11月22日は水曜日辺りを。
( ノ;_ _)ノ
いつも、ありがとうございますッ




