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こちら異世界派出所前。  作者: caem
season1【春】やりきれない。殉職刑事が異世界進出。
11/63

第10話 詳しい話はそこからだッ

ようやく、二日目です。

(^_^;)

「ひゃっはーーーッ!! 汚物は消毒だぁぁぁッ!!」


 春の陽気に誘われて、こういう類いの犯罪者は蛆虫かボウフラのように絶えず涌き出るものだ。

 早朝の街路樹は鉄パイプで軒並みへし折られてゆく。


「にゃあああッ!!」


 砕かれ、飛び散る枝が通行人は通勤中の女性に当たり横っ腹を痛そうに擦っていた。

 可愛らしい猫の顔つきをしていたがグラマラスな女性が厳ついバイクの族に被害を受けていた。

 いくら、猫とはいえ瞬時に避けられる訳ではないようだ。

 見た目に誤魔化されることなく、一人の男性は彼女に近寄り優しく抱き寄せて介抱した。


「大丈夫ですか?」


「にゃあああ……ありがとうございますにゃあ……」


 何処と無く、うっとりして彼を見上げる猫OL。

 決していやらしい手付きではなく、寧ろ愛しそうに彼女を撫で抱き抱える。

 いわゆるお姫様だっこである。

 ふさふさとした彼女の感触に甘んじるでもなく、道端へそうっと座らせる彼は言う。


「痛いところは無い? こことか……こことか……どう?」


 足首や、明らかに打ち付けられた箇所を医師のように診察する。

 くどいようだが、決して下心は無い。

 彼女の身を案じているのだ。


 そんな光景を目の当たりにして。

 (やから)はゴテゴテに無駄で全く意味を持たない装飾が成されたバイクから降りて絡んできた。


「おい、テメエ。いちゃついてんじゃあねーぞ! ゴルァ!?」


 その切っ掛けを与えてくれたのだから、逆に感謝の意を示したい所だが。

 猫OLを介抱していた彼の後ろから喧嘩を売るという愚策。

 語学力に疎い(やから)は突然襲い掛かってきた。


 しかし、次の瞬間。

 彼はすかさず宙を舞い、目まぐるしい背景に(うつつ)を抜かし固いコンクリートの床に背中から叩き付けられたのだ。

 これ、(すなわ)ち『柔よく剛を制す』である。

 美しい放物線を描き、投げ飛ばされた(やから)は堪らず肺から無様(ぶざま)に呻き声を吐き出す。


「ごえッ!?」


「署まできてもらおうか。詳しい話はそこからだッ」


 愛用している拳銃は今手元にないが、手錠は持っていたので(やから)を現行犯として確保する。

 屈強で野蛮な肉体美だが、鬱陶しいモヒカンが際立つ彼の両腕をカチリと閉める。


 よくよく見ると、その頭部には二本の短めの角が御目見えしていた。

 お縄についた彼を改めて観察しては、やはり此処は異世界なのだと認識させる。

 まだ、二日目ではあるもののテレビやPC。

 はたまた、スマホなどから情報を得ていたので、その逮捕した(やから)の存在に気付けた。


 いわゆる、小鬼。ゴブリンなどといわれるチンピラであった。


 どうやら、この現代とほぼ変わらない風景の異世界ではファンタジーな住人達で埋め尽くされているらしい。

 しかも、犯罪者の大半は大概モンスターチックな風貌をしているのだ。

 ……どこをどう捉えて、善と悪との線引きをするかは微妙な所ではあるが。


 ややこしい事を考えながらも彼は仕事に全う(まっとう)する。

 介抱された猫OLはそんな勇者の内情は知らず身悶え「滅茶苦茶にしてッ!」とばかりにただひたすらに見詰めていた。


 二日目の朝。

 通勤中、早々に犯罪に絡まれてしまったトオルは溜め息を吐きながら己の引き(ヒキ)にうんざりする。


 まだ、慣れやしない異世界生活。

 なのに、前にいた世界と何ら変わらない不遇なのか。

 前向きに考えてみれば、早くも手柄をたてた事になるのだろうが、配属された警察署に向かうまでに既にこの有り様なのだ。


 まだ、自分を見詰めてくれている彼女が日本人でボンッキュッボンッの三拍子が揃った美人なら介抱した甲斐もあるだろう。

 然らば、連絡先を聞いてじわじわと距離を詰め、より良い関係へと発展させて行く行く(ゆくゆく)は未来のお嫁さんに迎える事も(あなが)ち期待できなくもない。

 だが、改めて視ても猫は猫なのだ。


「もし、良ければ此方に連絡してください」 


 めげないトオル。

 最早、相手が同じ人種。

 人間でなくても良いのか名刺を手渡し然り気無く片目を閉じてはチャーミングに振る舞う。

 釣られたのか、猫OLは撫で声をあげては発情期に近い衝動に刈られるのだが、彼には届いていない。



 麗らかな春の陽射しを浴びながら。

 現行犯のモヒカンの小鬼(ゴブリン)をしょっぴいて往く。


「くそう……絶対……派出所勤務でのんびりしてやるんだからなッ!!」


 決して口には出さない。

 決意を新たにいつもの勤務地『湾岸署』へと向かうトオルだったが。

 逮捕した小鬼(ゴブリン)を遠目に観ていた何者かは闇に紛れ誰にも聞こえないように囁くのだ。



「ボス……うまいこといきやしたぜ……」


「よし。引き続き動向を追え……」


「へいっ。お任せくだせえ……」 


 怪しく舌を舐め摺り、陽が上がったばかりだというのに闇に潜むは、一昔前のトランシーバーを片手にした黒装束の男。

 スナイパーライフルの照準を合わせるが引き金を弾く事はないようだった。

 携帯食料を口に咥えて汚く咀嚼しては素早く後片付けに励む。


「くっくっくっ……せいぜい、楽しませてくれよなァ……」




 またもや、厄介事になるとは露知らず。

 トオルはふとイヤな予感がして身震いしつつも、辺りをきょろきょろとして伺い。

 どうか気のせいでありますようにと青空を見上げるのであった。

次回は……11月17日は金曜日辺りを。


いつも、ありがとうございますッ

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