第9話 ……生きてて、よかった……
茶番です(爆)
見苦しいですがご容赦ください!
( ノ;_ _)ノ
ふさふさ。
ぷにぷにっ。
わささっわささっ。
柔らかな温もりと感触に頬を擽られ堪らずにやける。
夢見心地に現を抜かし、惚けるトオル。
「あっ……そんなとこ……らめぇ……」
「起きろや! ゴルァッ!!」
「おぶッ!?」
土手っ腹にぶちこまれたつま先はふたつ。
先輩達は各々の利き脚でトオルの腹に割りと本気の蹴りを入れた。
「うぇぇ……」
堪らず腹を抑えうめき声をあげるも、意識を取り戻したトオルは生きていた事に嬉しさを覚える。
そして暴力で叩き起こされたものの先輩達に感謝せざるを得ない。
「あれ……? 俺、どうやってあそこから……?」
「そりゃ、あんだけ煩かったら目も覚めるわな」
まったくだ、と頷き返すタカ。
彼は引き続き、トオルが何故あの爆発から逃れられたのか詳細を説明する。
「お前がバズーカをぶっ飛ばした時だ。ほれ、見ろよこれを……」
良く見ると、タカの頭のてっぺん辺りに痛々しいコブが出来ていた。
崩れた天井の破片を頭部にしこたま打ち付けられ目を覚ましたが、どうやら犯人はトオルだと察したタカ。
彼は怒りながら笑い、口許の端をヒクヒクさせている。
先程の手荒な起こし方は強ち間違いではなかったようだ。
寧ろ、蹴られただけで済んだのは幸いだろう。
ちなみに、ユージも頭を擦りながら忌々しげにトオルを見据えていたので一先ず土下座で勘弁してもらう。
「ったく……ま、俺らも油断してたからな……チャラにしてやんよ」
「あざーっす!!」
とりあえず、許して頂けたのでトオルはほっと胸を撫で下ろした。
だが、ふと何かを思い出し気付く。
「は……犯人は……?」
恐る恐る伺うトオルに対して、先輩達は揃ってそっぽを向いた。
ユージなどは器用にも口笛を吹いている。
漸く事態に気付いたトオルは嫌な予感がしつつも恐る恐る後ろを見てみる。
廃ビルは跡形もなく崩壊していたのだ。
「…………あちゃーーー…………」
掌でぴしゃりと顔面をはたく。
そんなトオルに対して、先輩達はもふっと優しく彼の肩に手を掛けた。
「いや、仕方ないじゃん? 正直あそこから逃げ出すので精一杯だったんだぜ?」
「そうだぞ? だから気にすんな。ヤツも立派な棺桶に入れて喜んでるだろうよ」
「はあ……」
トオルがため息をついたのはそういう事ではなく、こういった最悪の状況を避ける為に派遣されたのに成果が出せなかったからなのだが。
またもや始末書の山が待ち受けていると思い気が滅入る。
課長のキツい御叱りは先輩達に向けられるであろうが、恒例行事なので放っておこう。
とにもかくにも、終わってしまった事にとやかく言っても仕方がない。
あの窮地から生きて帰ってきただけでも十分に奇跡に近いのだ。
トオルはゆっくりと立ち上がり背伸びをした。
まだ、夕暮れには早く、そして何よりも。
「腹へったぁ~……」
若さは食欲で満たされるらしい。
トオルは自分が奢りますからと先輩達ふたりを誘い、かなり遅めの昼食へと連れていった。
期待は大きく覆されるを知らずに。
○ーーー---ーー〇
一事件起こる前の運転中の車内から現場の稍重近くに見掛けていたので記憶を頼りに向かった三人。
ささっと広い駐車場に到着次第、空腹に耐えきれずに急ぎ足で向かい入店したのは多種多様なネタに富む大衆的な飲食店。
まだ食事時ではなかったせいもあり、席を楽勝で得る事の出来た彼等三人は皿に載った廻る寿司を眺めつつ涎を垂れ流していた。
「さて、何食いますか、ねっ♪」
皆は手を揉みながら、先ずは温かい茶を啜りホッと一息をつき落ち着きを取り戻そうとした。
刹那、廻るレーンの上に取り付けられたモニターに募る思いを馳せメニューを確認するトオル。
だが、そんな彼の浅はかな行為に先輩達ふたりは軽くチョップをかまし制止させた。
「馬っ鹿! トオル、お前……最初は廻ってるヤツから食べんだろーが!」
「痛ッ……くは無いけど……いや、大野下先輩。よく見てくださいよ。この時間帯に新鮮なネタ並んでると思いま」
最後まで言いかけて、廻ってきたネタを見ては驚愕の表情を浮かべる。
シャリの上に乗せられた茶色の粒々が際立つ。
「おう! これこれ♪」
ユージとタカはすかさずその皿を手に取り、器用に箸を割り指に挟み、見た目凶悪な寿司に勢いよくかぶり付いた。
ドッグフード、ON・THE・酢飯。
衝撃の光景を目の当たりにしてドン引きするトオルを余所に先輩達ふたりはとても美味しそうに既に二皿目を頬張っている。
気になり、ふと辺りをチラ見してみると……
キャットフードが乗せられた酢飯や何かの昆虫が乗せられた酢飯やまだ新鮮なビチビチと動いている何か得体の知れない物が乗せられた酢飯等々。
カプセルに封印されているが果たして此れは衛生上如何なものかと怪訝な表情で疑うトオル。
だが、その一方でタコ・イカ・マグロなど自分が食べられそうなまともなネタもあったので一先ず空腹に耐えきれずに敢えてスルーしたのだ。
目の前に流れてきた皿をカプセルから取り外し初めての『異世界寿司』を手にする。
恐る恐る口に放り込まれたマグロの切身と酢飯は咀嚼も僅かに空っぽの胃袋へと辿り着き、自然の恵みに思わずポツリと一粒の涙が零れ落ちた。
「……生きてて、よかった……」
「大袈裟だなあ。トオル」
「しょっちゅう食べに来てんじゃん」
数皿食べ尽くした先輩達はそんな彼にまるで家族のように接してくれる。
やはり、この世界でもかけがえのない存在なのは間違いなく、更に涙が溢れてしまった彼をふたりは暖かく見守る。
しかし、そんな幸せは所詮ひとときでしかなかった。
「大野下。鷹野山。トオル。こんな所で何をやっとる……」
聞き慣れた声が寿司に舌鼓を打つ三人を恫喝してはグルルと低く唸る。
思わず姿勢は固まり、各々の顔は蒼白になり何処からともなく冷や汗が止まらない。
「か、課長ッ……こそ何でここに……」
勇気を振り絞りトオルは機嫌を伺うべく会話に努めた。
「いや、ワシは近辺の知り合いの署長との会談の帰りに立ち寄ったんだが……」
ぎらりと鋭く光る眼力はトオルではなく、ふたりの先輩方へと降り注がれる。
決して目を合わせようとしない挙動不審な態度で、だが極めて自然に流れてきた皿を手にかけるタカとユージ。
既に二人併せて計20皿を完食した彼等は満足したのか。
何も見なかった事にして、目前の課長の横を通り過ぎようとした。
「事件は解決したのか?」
「ええ。そりゃあモチのロン……」
そう答えるも。
何故か、そろりそろりと片足ずつ踏み出し店内から逃げ出そうとする彼等から一旦眼を離し課長はトオルに同じ質問をする。
「事件は解決したのか?」
少し間をあけて、彼は素直に今回の詳細を全て下呂してしまう。
課長にだけは絶対に嘘はつかないのだ。
これはトオル自らが決めたルールであり、出世術でもあったのだから。
やがて、仔細事細かく耳にした課長は店内から脱出しようとしているタカとユージを他人の迷惑省みず盛大に怒声を発したのだ。
「馬ッ鹿もーーーんッ!!」
その後、押し付けられた山のような始末書を仕上げなければならなくなったのは御愁傷様であろう。
結局あまり変わらない日常にほとほと疲れを覚えては仕事を全て片付け深夜遅くに帰路につくトオル。
壮大な疲労感に襲われ、ふかふかのベッドへと倒れこむ。
彼の長い異世界での初日は漸く終わりを告げたのであった。
やっと異世界生活一日目が終わった……
(;´Д`)ハァハァ
次回は11月13日は月曜日の更新予定でっす!
(^_^;)




