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me too


清美は、白いバスタブに身を沈めた。清美の体積分、たゆたゆと、お湯が溢れる。両目を閉じ、意識が遠のくのに任せた。


遊園地で気分の悪化を感じた清美は帰宅することを望んだが、勇次郎は難色を示した。


「お前、何か生臭いぞ。それで電車乗る気か? タクシーだって嫌がられるだろうな」


「貴方に関係ないじゃないですか」


完全にふてくされた清美を、勇次郎はとある外資系高級ホテルへと誘った。


「ホストさん、見て見て! 回転ドアありますよ。入ってください、一生出られなくしてあげますから!」


「わけわかんねえこと言うな。ほら、行くぞ」


勇次郎はホテルの広いロビーを堂々と通り、部屋の鍵を清美に差し出した。黄金色の装飾に目がくらみ、清美の機嫌は完全に直った。


高層に向かうエレベーターの階数は、みるみる数字を増していく。


「こういう所、初めてか」


「お偉いさんの会合で何度か。プライベートだと縁がありません」


「ここ、俺の叔父が経営してるホテルだ。プールもあるんだぜ」


身内自慢に生温かい笑顔で応える。


「 私、脱いだらすごいですよ。水着を持ってきてないのが残念でなりません」


宿泊するには予約が前提だが、勇次郎のおかげで一部屋だけ用意することができたという。


「私、シャワー浴びたら帰りますね」


部屋に行く前は意志を固持していた清美だったが、東京の夜景を一望できる部屋の好位置に、考えがぐらついている。


「こんなことしている場合ですかねぇ……」


バスタブでくつろぎながら煩悶するが、即物的な誘惑に結局、屈している自分がいた。


「おーい、入るぞー」


勇次郎が、腰にタオルを巻いただけの姿で衝立の陰から堂々と現れた。服の上からはわからなかった隆起した腕の筋肉、割れた腹筋、均整の取れた体つきは雄の魅力の塊のようだった。


清美は胸を押さえ、嫌悪感を露わにした。


「は? 何やってるんですか? 信じられない。出てってください」


「まあまあ、風呂は誰かと一緒に入った方が気持ちいいんだぜ。それに脱いだらすごいんだろ? 誘ったのは誰だったかな」


勇次郎にここまでデリカシーがないとは思わなかった。めったに怒りを表さない清美だったが、あまりに横暴が過ぎる勇次郎に我慢ならなかった。


「いいですよ。じゃあ、私が出ていきますから」


いつも以上に感情のない声でそう言うと、勢いよくバスタブを上がる。清美の色づきよく形のいいバストが露わになり、勇次郎は目を奪われる。


清美は薄笑いを浮かべ、普段眼帯で隠れていた瞳を向ける。その瞬間、鼻の下を伸ばした勇次郎が固まる。驚愕に目を見開き、瞬き一つできない。


清美は全裸のまま、勇次郎の前を横切る。まるで見せつけるようにしながらゆっくりと。


「私は先に休みます。ごゆっくり」


棒立ちのままの勇次郎を残し、清美はバスルームを後にした。


数時間が経過し、バスローブを着た清美はベッドでうとうとしていた。タブレットを抱えたまま、深い眠りに落ちそうになっている。


「おい、夜はまだまだ長いぜ」


勇次郎に頬をつつかれ、清美は数度まばたきした。広くとられた窓には、欲望の象徴のような街の明かりが反射している。


「あら、よく私の魔眼チャームに抗いましたね」


「誰に向かって言ってんだ。でも骨が折れたぜ。やるじゃねえか」


ダブルベッドは大柄な勇次郎が倒れ込んでも、まだ余裕がある。


「お前……、その目」


「醜いでしょう?」


清美は右側前髪を手でかき分ける。まるで瘡蓋のような傷が額近くまで広がり、バランスを欠いたような大きな眼球飛び出そうになっている。


「ああ、醜女だな」


「そうはっきり言われると傷つきます。これでも女子なんですよ」


清美はうつ伏せになり、わざとらしく苦情を言った。


「何かの病気か?」


「遺伝ですよ。私は、魔の者と人間のハーフなんです」


清美の母は、淫魔として有名なサキュバス。父親は人間の警察官だった。


「淫魔が子供を宿すことはめったにないことらしいです。しかも人間との子なんて。母は私を生んで亡くなりました。父も私が五歳の時に事故で。残ったのは、醜い私の傷だけ」


勇次郎は言葉をかけられず、じっと息を飲んだ。ハーフはどの種族であろうと煙たがれると知っていた。清美はどちらの世界にも受け入れられず、苦しんだに違いない。


「俺もさあ、長いこと一人なんだよね。家族のほとんどは皆、アイアンメイデンに入れられて沈められた。何でみんな俺らのこと嫌いなんだろうな」


「他者と異なっているのは本来当たり前です。きっと我々は距離感を掴めていないだけなんですよ」


清美はタブレットの電源を入れ、操作を始めた。


「私の両親は愛し合って私が生まれたと思いたい。共存できる道はあるはずです」


真摯な決意に、勇次郎が茶々を入れる。


「かーっ、理解できねえ。俺たちは敵対者でいるべきだぜ。ヒールはかっこいいって言ってたじゃねえか」


「ホストさんは、そうあればいいじゃないですか。お世辞じゃなくて本当にかっこいいですよ」


清美が控えめに笑みを浮かべると、勇次郎は惚けたように固まった。ある意味魔眼の効果である。


「それはそうと、さっきのセクハラは既に総統に報告済みです。次の人事をお楽しみに。ホストさん、暑い地方は好きですか? 私、イリオモテヤマネコが大好きなんですよ。写真とか撮ってきてくれたら嬉しいな」


勇次郎は無様なほど慌て、携帯でどこかに連絡していた。総統に釈明するのであろう。セクハラの代償はあまりに高くついた。

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