表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

犬の太郎

作者: 松原正一

このお話は、みなさんのおじいさんのおじいさんのまたおじいさんのころの話です。

場所は雪国の山奥のまた山奥の小さな村のお話です。


その小さな村におばあさんが一人その村を一望できる丘の家で犬の太郎と住んでいました。

おばあさんには子供がいなかったため、犬の太郎を我が子のようにかわいがっていました。

その村はとってもまずしい村でした。でもおばあさんと犬の太郎は幸せに暮らしていました。


おばあさんは畑仕事が終わると、犬の太郎といっしょに村の道に花を植えていました。

おばあさんはこの小さくて貧しい村が少しでも明るくなってくれたらと思い雪がとける春になると毎日、毎日花をうえていきました。そしてその花は夏が来ると村人の心をなぐさめるように綺麗に咲きました。


暑い夏の日でした。おばあさんと犬の太郎はいつものように村を家からながめていました。

おばあさんと犬の太郎がうめた花はおばあさんと犬の太郎にありがとうといっているようにさいていました。おばあさんがぽつりと犬の太郎にいいました。

「もう、来年の夏はみられないかもしれないねえ」

犬の太郎はそんなおばあさんの話を聞いてとても悲しくなりました。でも犬の太郎には何もできません。ただおばあさんのもとへ行き、おばあさんの顔をぺろり、ぺろりとなめることしかできませんでした。でもおばあさんもそんな犬の太郎のやさしさをわかっていました。

「太郎。ありがとう。私はもう生きることに未練はないよ。ただ心配なのはこの村とおまえのことだけなんだよ」

おばあさんは犬の太郎の頭をなでました。花がいつもと変わらなくきれいにさいていました。


ある秋の日のことです。夏には村をきれいにきかざっていた花たちも、すっかり枯れていました。

朝、犬の太郎はいつものように、ワンと一声、朝が来たことをおばあさんに教えました。いつもならおばあさんが起きてきて、犬の太郎の頭をなでてくれました。

でもその日はちがいました。犬の太郎がどんなにおばあさんをよんでも、おばあさんは家の中からでてくることはありませんでした。


おばあさんが亡くなったのでした。全ての村人は悲しみました。

この村を愛したおばあさんは村人すべてに愛されていました。でもだれよりもおばあさんを思っていたのは犬の太郎でした。犬の太郎はなきました。犬の太郎にはそれしかできませんでした。太郎のなき声はやまびこのように、村中にひびきました。


村を愛してたおばあさんがかっていたということで犬の太郎は村人に引き取られそこで生活していました。太郎はいつもそこからおばあさんと一緒に住んでいた家を眺めていました。


ある冬の日のことです。いつものように雪はこの小さく貧しい村をおおっていました。

一人の村人がいいました。

「この土地は貧しくて作物がとれない」

また一人の村人がいいました。

「もう、このままだと来年生きていけない」

ある一人の村人がいいました。

「よし、それなら、あの山のむこうにすむ山の神様に助けてもらおう」

村人たちはこれからの村のために、村の若者をあの山のむこうにすむ神様のもとに頼みに行かせることにしました。

犬の太郎はそれを聞いてほえました。

なぜなら、犬の太郎は昔、おばあさんから冬にあの山の道を通っては行けないと言われていたからでした。あの山道は冬通るとがけがくずれてしまうからです。犬の太郎は、それを村人に伝えたかったのですが、犬の太郎はほえることしかできません。


犬の太郎は必死にほえましたが村の若者たちは行ってしまいました。犬の太郎はおばあさんが愛したこの村を、村人のために何とか力になりたいと思っていました。犬の太郎はおあばさんが愛したこの村を守りたかったのです。

犬の太郎はその通ってはいけないといわれた山道に先回りしました。

そして村の若者が来ると、犬の太郎は化け犬に化けて、村の若者をおどろかせました。

村の若者はそれをみて、村に逃げ帰りました。犬の太郎が村にもどると、村の若者がいいました。

「この犬が、化け犬となってわれわれのじゃまをした」

またある若者がいいました。

「この犬が、われわれをころそうとした」

ある村人がいいました。

「そんな犬ころしてしまえ」

犬の太郎は鳴きました。でも村人たちには犬の太郎のなき声がどんなに悲しいものかわかりません。

ある村人は犬の太郎に石をぶつけました。もう一人の村人はかまを持ち、犬の太郎を切りつけました。

犬の太郎は逃げました。村人たちは太郎をおいました。


犬の太郎はきずだらけになりながり、おばあさんと一緒に暮らした家の前まで来ました。そこにはおばあさんがねむる雪のかぶった小さなお墓がありました。

犬の太郎はそこまで来るときずがひどく立てなくなりました。犬の太郎は山のむこうに住むと言われる山の神様に祈りました。

「おばあさんの愛したこの村を守ってください」と

犬の太郎は一声が吠えると、その声は小さな貧しい村中にひびきました。そして犬の太郎の声はやまびことなり、山のむこうに住む山の神様にとどきました。

山の神様はいいました。

「太郎、おまえは村人に殺されそうになってもまだ村人を守りたいと思うのか」

太郎は薄れゆく意識の中でおばあさんと一緒にすごした日々を思っていました。

そして犬の太郎はうなづき、おばあさんのところへいってしまいました。

山の神様はいいました。

「太郎、お前の望み叶えてやろう」

山の神様が手をふると、村中をおおってた雪の上におばあさんと犬の太郎が一緒に植えていた花が一斉にさきました。しかしその花はすぐに枯れてしまいました。

しかし枯れたその花は土地の栄養となり、それからその村ではたくさんの作物がとれるようになり村は豊かになりました。

村人たちは山の神様からすべてのことをききました。村人たちは犬の太郎にあやまりました。そして犬の太郎をおばあさんのお墓のとなりにうめました。

それから、この村では夏がくるとおばあさんと犬の太郎が植えた花が咲くようになりました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ