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悠人の昔語り~その1

知りたい?

ぼくのことを知りたいの?

なんか・・・・それって「モノズキ」だねえ。

でも、それってそういうものなんだろうね。

長い付き合いになるかもしれない相手に自己紹介するのは、大事、かもね。


じゃあ、あらためて。


ぼくは卯月悠人。

年齢は十二歳。

ああ、九月には十三になるよ。誕生日と星座は・・・・聞きたくない?

あ、そう。


そういうもんなんだ。


なにから話せばいいかな。

そう。


うちは、ね。

なんだか、「退魔師」とかいうちょっと胡散臭い仕事をもう先祖代々やってるらしい。新聞とか雑誌とかネットとか。そういうものにはまるっきり出てこない仕事っていうものもあるんだよね。


おとうさんは、けっこうその世界では有名なひとだったみたい。

あ、これは別に過去形ってわけじゃないよ。

卯月荘十って今、日本最高の退魔師って言われてる・・・・どうなんだろ、空子さん。

これってほんとなの?


わたしにきくな?


それはそうだよね。


お母さんはなんだか、平安時代まで遡れる「陰陽師」?そんな家で育って、で、おとうさんと「政略的」な結婚したみたい。

ああ、そうですか?

中二のガキがそこまで言うか、と?


でもこれは、父さんの帰りが遅かったりなんだか、いろいろ気に食わいないことがあったときのおかあさんのグチなんだ。


ぼくは・・・

それは大事にされてたんじゃないかと思う。


なんたって、当代最高の退魔師と陰陽師の名家の間に生まれたこどもだからね。

血統書付きってこと。


え?


中二のガキが言い過ぎではないか、と?

確かにそうだよね。反省します。でも例えとしては悪くないんじゃないかな。

決定的に違うのは、動物は別に産まれたこどもの毛色が自分と違っても大事に育てるってとこくらいじゃない?


昔のことをもう少し話すよ。


そうだな。いわゆる「ものごころついたころ」から、ぼくは退魔師としての修行をさせられてた。

やたら寒い季節に、滝に打たれてみたり。とかさ。

薄暗いとこで、ろうそくの炎をみながら呪文とかとなえたり。


小さい頃は、なんていうか、それが「当たり前」に思ってんで別になんとも思わなかったんだ。

「修行」をがんばったり、なんだかいい結果がでたりすると、両親ともとっても喜んでくれて、それがすごくうれしくて。

え?

別に泣いてないよ。


むかしばなしをしてるだけ。


なんだかそれが変わってきたのが、小学校4年くらいのころかな。


夏休みやお正月とか。

うちって、なにかにつけて親類一族が集まるわけ。


小学校にあがるころまでは、そんとき必ず親族の前で挨拶とかさせられてさ。

正直、やでやでしょうがなかったんだ。

でも年の近い従兄弟といろいろ話をしたり、泳ぎにいったり(母親の実家は海がちかかったからね)ゲームしたりは楽しかった。

特にふたつ年上の由貴美ちゃんとは仲良くて、隣通しにふとんをひいてもらって、明け方までいろんなことを話した。



だからその年の夏休み。



おかあさんの実家に泊まりでいかなくてもいいってきいたとき、うれしい反面、今年は由貴美ちゃんと会えないのかと思うと少し寂しい気がした。

で、その年の冬も。


年が明けて。


春も。


夏も。


親戚の集まりにぼくだけ、留守番を言われるようになって。

なんだか、少しおかしいな、と思うようになった。


「修行」は、相変わらず続いていたけど、おとうさんはもう一緒じゃなくて、お父さんのお弟子さんが一緒に来るようになって。


中学校になるときに、おとうさんからあらたまって言われたんだ。


「もう、修行はしなくていいから。」


って。


おかあさん?

おかあさんはいつもどおり優しく言ってくれたよ。


「中学に入ったら、いままで出来なかったことにチャレンジしようね。部活とかにもはいって、おともだちもいっぱいつくろうね。」


おかあさん。


そう言いながら泣いてた。




ぼくは、なんだか、両親にすごく悪いことをしたのが、わかって。

謝ろうと思って、でもなんにも言葉がでなかった。



ぼくにはおとうさんみたいな「退魔師」になることはできないんだって。

そのとき、はっきりわかったんだ。


両親やお弟子さんたちに「見える」ものが、ぼくにはぜんぜんわからなったし。


同じように印を組んで呪文をとなえても、なにもおこらない。


というか、そもそもなんでそんな呪文をとなえなきゃいけないのか、ぼくにはぜんぜんわからなかった。


え?


いまだって、わかってないよ、空子さん。

意地悪なこと言わないで。



中学に進学しても、なんだかぼくは悪い夢の中にいるみたいだった。

とにかく、何をしたらいいのか、ぜんぜんわからないんだから。周りのみんながわいわい話とかしてても、なにがなんだか。

おかあさんのすすめでサッカー部に入ってみたけど、練習に一回出て、それでやめた。

スポーツって・・・あれ、ぼくには無理だよ、特に団体競技。


直接、いじめとか受けてたわけじゃない。思うとそこらへんは、先生が目をひからせてくれてたんだと思う。

なにせ、ほら、「卯月」さんとこの子供だから。

でも、クラスでグループ分けがあったりするとけっこうもめたなあ・・・・引き取りてがなくってさ。

とにかく、一年間よく学校に行ってたと思う。

よく、登校拒否とかいうじゃない。

でも、家も学校以上に居心地の悪い場所になってたんだよね。


なんで笑うの、空子さん。

え?

去年のことをすごい昔話みたいにしゃべるのがおかしい?


そうかな。

そうかも。


でも、ぼくの中では、昔話なんだよ、これ。


だから空子さんにもこうやってしゃべるれわけだから。



で、そんなある日のことおとうさんがぼくをよんで言ったんだ。


「しばらく、従兄弟の由貴美をうちで預かることになったけど、由貴美ちゃんは昔の由貴美ちゃんじゃなくなってるから。

おとうさんやおかあさんが一緒じゃないときは、絶対に由貴美ちゃんに話かけたり、目をあわせたりしないこと。」



あ、


また笑ってるね、空子さん。

うん、話が下手でごめん。


たぶん、空子さんの聞きたい話は、ここからだと思う。


もう一度、きいとくけど


ほんとに聞きたい?



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