序幕
感想、評価大歓迎です。ドッロプアウトした場合もどのあたりか記入していただければ今後の作品作りの参考になります。モラルの範囲内での辛口コメント期待しています。
剣王伝
人の歴史は戦いの歴史。互いに利益を求め、民族間、国家間でさまざまな戦いが繰り広げられた。その中には人智を超えた異形との戦いもふくまれる。かつての英雄は剣と勇気を携え幾多の魔物と戦いそれを駆逐し、大陸を救った。人々の平穏を守った彼を時の王は剣舞に優れた英雄として剣王と讃え栄誉を授けた。
それから後、戦が続く国家を身を挺して守りぬき、自ら善戦で獅子奮迅の活躍をした王宮の騎士団長をかつての英雄にあやかり剣王2世とし労を労った。
さらに数年後3代目の剣王が現れるとその称号は稀代の英雄から大陸一の強者へと意味を変え。国における通例になりつつあった。次第に自分も次の剣王に続けと武を誇り競う者が現れ国は4年に一度、舞踏祭を開かれることに。そしてその覇者に剣王の永光と、宝石で装飾された大剣が授けられることとなった。その歴史は長く続き。まもなく第52代剣王の座を巡る剣舞大会が開かれる。
王国歴323年
「なあ、やめにしないかルルド。おれはいいよ」
シュゥヴァは散々考え抜いた結論をようやく告げた。
「何言ってんだシュゥヴァ、これはおやじ様のお達しだぜ。申し込みもとっくに済ませちまってる。いまさらなしにはできんよ」
「そうかもしれないが」
「そうは言ってもだ、気負うことはない。ただの腕比べだと思えば」
「その腕比べに俺は興味が無いんだ」
「せっかく鍛えた腕をここで見せなくてどうする。戦もないんだ。もったいないだろ」
「おれはただなんとなしにはじめて」
「ああ、あの可愛かったシュゥヴァちゃんはどこへやらついこないだまでは楽しそうに稽古に励んでいたのに年頃かい。嫌だね」
「おまえとは2つしか違わないじゃないかルルド。それに稽古は今でもかかさずやってる」
「舞踏祭に出るのが嫌だって、強情だねえ・・・」
「おまえたち支度は済んだか」
二人がいる宿部屋の扉がそれと同じ大きさの屈強な漢によって開かれた、シュゥヴァの父カルヴァだ。
カルヴァは寝台に腰を落とす二人を見るとこう漏らした。
「なんだ、まだじゃないか。なにをしていたんだ。いいからとっとと鎧を着ろ。その年で一人じゃ着られないなんて言わないよな」
「父さん、俺・・・」
「なんだ?」
言いよどむシュゥヴァ、すかさずそこでルルドが
「いやいや、おやじ様なんでもないです。すぐに降りますからおやじ様は下でお待ちくださいすぐ行きますんで」
カルヴァは何も言わず部屋を出る。
「ルルド、なんで止めたんだ」
「シュゥヴァ、いまさら言いっこなしだぜ。そんなに嫌なら緒戦で負けちまいな。おやじ様が出ろって言ってんだ、でりゃいいんだよ」
そう言ってる間にルルドは全身に鎧を身につけ終えていた。
「そんじゃな、先下行ってるぞ。あまりおやじ様を待たせるなよ」
木戸がギーと音を立て閉まる。部屋に残されたシュゥヴァは未だに頭を垂れ悩んでいたが、コレ以上待たせるわけにもいかずここは考えるのをやめた。いまだ煮え切らない思いを抱えつつ階段を駆け下りる。
大通りを歩いていると昨日より人通りが多く活気にあふれているのに気づく。
「ん~いい匂いだ。こりゃたまらん」
「昨日はこんなにじゃ」
「朝方到着した商人がほとんどだろう。入る金より出る金の心配とは商魂たくましいのかどうか。おい、飯はあとだ、試合中に吐きたいのか」
「へいへいおやじさま。はぁ、もうすぐ昼時、朝は豆スープだけ。これじゃ出るもんも出ませんよ」
「そういうな勝てば祝杯の席で酒も呑ませてやる」
ルルドは大の酒好き、すごい時は一樽飲み干すほど酒に目がない。
「ほんとですね、おやじさま。嘘はなしですよ」
「おれが嘘をいつ言ったという」
「ほどほどにしときなよルルド。ほっとくと店中の酒飲んじゃうんだから」
「大丈夫だって。ああムクムクとやる気がみなぎってきた」
「現金なやつだ」
ゴンとシュゥヴァの肩が通行人とぶつかる。
「ごめんなさい」
頭から布を被った女はそれだけいうと歩幅大きく去ってしまった。
「べっぴんさんだったか」
「そんなによくみてないよ」
「後れるな」
数歩先をすでに行くカルヴァを二人は早足で追った。
闘技場前にはすでに長蛇の列が出来上がっていた。どれも祭りに参加する武闘者だ。鎧で全身を多い獲物を携えている。
「うへぇ、いるわいるわ強そうなのが。おれ急に不安になってきたぜ」
「そんなことでどうする。体格の優劣は技で覆せといつも教えているだろう」
「そうはいってもおやじさま、なあシュゥヴァ」
「う、うん」
よそ見をしていたシュゥヴァは少し反応が遅れた。二人の方へ向き直る。
「けど、父さんより強そうなのはそういないよ」
「そうなのか?俺にはどいつも怪物にしか。やっぱり俺と代わりましょうよおやじさま」
カルヴァにすがりつくルルド。
「言っただろう、おれは出ない。今回はおまえらの仕上がりを見定めるのが目的だ」
「そんなあ」
「お前の目からどう映るシュゥヴァ」
「うん、あの赤マントなんかなかなかじゃないかな」
辺りを見渡した後シュゥヴァは告げた。
「あん?どこがだいシュゥヴァ。あんな派手な羽織してさ。あの長い髪も気に入らねえ。あんなひょろ、おれでものせるぜ」
順当に受付を済ませると選手たちが集まる広大な控室に通された。ひとりまたひとり入ってくるたびに選手たちの目が入り口に集まる。
「殺気立ってるね」
「それもそうだろう、それではおれは観戦席に行くとしよう。ふたりとも特別なことは考えなくてイイ。稽古の成果を出せばいいのだ。結果が伴わなくとも構わん。ただし、己の全てを出しきれ、そして諦めるな」
そう言い残すとカルヴァは控室を後にした。残された二人は邪魔にならぬよう部屋の隅に移動する。
「ああ、どういうわけか今から足が振るえちまう。おまえさんさっきまで嫌がってた割にはおとなしいな。ここへ来てダダをこねるんじゃないのか」
異様に落ち着き払ったシュゥヴァに疑問をぶつける。シュゥヴァのまとう気は清流のように穏やかだ。
「これも仕方ないと思うことにするよ。父さんがおれたちに期待してるのも伝わってきちゃうからね」
そこで一度区切ると穏やかな笑みを受けベル。
「ルルドもそんなに硬くなっちゃダメだよ。おまえだってうちの中じゃ優秀な方だし。だから父さんも連れてきたんじゃないか。他所に出しても恥ずかしくない証拠だよ」
「あはは、なんでおれシュゥヴァに励まされてんだろ」
苦笑いを浮かべるルルド。期待をかけられることに慣れてないルルドは戸惑いを隠せない。
そこで
「なんだともういっぺん言ってみな、こんやろう!!」
怒声が部屋の静けさを打ち砕いた。
部屋の中央で二人の男が言い争っていた。
「オレの何処がひよわだって。図体ばかりでかいやつにいわれるいわれはねえ」
「そんなポキっとオレちまいそうなナリしてよく出てこれたな小枝ちゃんよお」
「体躯の差は剣に関係ねえ」
「バカ言っちゃいけねえ、つええ奴ってのは体もつええつくりなのさ。みろよナニを勘違いしたかおまえさんのような奴が他にも何人も」
そうあざ笑い大男は幾人かの人間を指さした。その中にはシュゥヴァが先挙げたマントの男、他にも数人。そしてシュゥヴァも含まれていた。
「他のやつと一緒にするんじゃねえ。おれはこれでも村一番の剣術家だ。他の武術会にも顔を出すほどのな」
「でるだけなら只だよな?村一番だと?ここにはそんな奴ゴロゴロいるさ」
「黙って聞いてればアンタラ好き勝手言ってんな!」
その言い合いに割り込んだのはシュゥヴァと友に静観を決めていたはずのルルドだった。
「オレを指差すのならともかくおやじさまの血を引いたシュゥヴァをけなされちゃだまっていられねえ」
「ルルド!?」
人が変わったようにズカズカと二人の間に割って入るルルド。シュゥヴァが袖を引いても振り払ってしまう。
「外野は黙ってみてな」
「外野じゃねえからキレてんだ」
「おうおう、威勢のいい兄ちゃんだな。いっそここで前哨戦はじめちまったらどうだ」
無責任なガヤの声が飛ぶ。
「それもおもしれえかもな。おれはかまわねえぜ」
「そうだな試合開始まで待てん。貴様の顔見ているだけで手元が狂いそうだ」
「いいぜ、なめられたままじゃ下がれねえ」
そういいつつも冷や汗を流すルルド、鞘に手を伸ばす。
その肩をシュゥヴァが優しく叩いた。
「いいよ、ルルド。オレと父さんのために怒らないで。おれはいいから」
シュゥヴァの呼び止めにフッとルルドの気が弱まった。
「おいそこの、折角盛り上がってきたところなんだ。水をさすんじゃねえよ」
ヤジの方へ目を向ける。選手の中には試合前から酒をあおっているものも目にとまる。
「そうだぜ、おれの高まった闘志。そっちの腰抜けみたいにゃ沈まんねえぞ」
「そうだね、大事な人を悪く言われるのは気持ちよくない。ルルドが俺達のことを思ってくれてるのがよくわかるよ」
シュゥヴァのまとう清流の気が流れを帰る。
「アレっ!?」
さっと選手たちの間を何かが突き抜けた。かすかなどよめきの中、渦中の男二人に異変が起きる。
「なんだこりゃ」
男の顔を伝う雫。頭から降り注がれる液体。
「誰だ!!おれの酒とったやつぁ!!」
二人の間に立つように両の手に酒瓶を持つ異国装束の男。皆の目が男に集まる。
「なんだてめえは」
「まあまあ落ち着きなさいってば。これで少しは頭が冷えたんじゃなかろうか」
半笑いの笑みを浮かべ男はおどける。
「なめてんのか、いや殺されてえのか?」
「殺す?誰が誰を」
「貴様割って入るからには覚悟はあるんだろうな」
「はて、なんの覚悟でしょう」
男の言動はさらに二人の怒りを煽る。
「勘違いしなさんね、自分は仲裁に来たんじゃありやせん。救いに来たんですよおみゃあら二人を」
意地悪な笑みを浮かべる。
「試合前に血を見てしまうと自分、興奮がとまらなくなりますかんね、おみゃあらの血をね」
「ああ、ちぃ流すのはこっちの細枝二本だろうが」
「貴様の間違いだろ、でかいの」
「いやいや流すのはおみゃあらですよ。そっちのあの人、後ろの人のためならおみゃあら粉微塵にしかねない。掃除もたいへんだ」
男二人はシュゥヴァに目を向けると同時に笑い出した。
「兄ちゃん冗談が上手いぜ。よりによってこいつにやられる?後ろの腰抜けじゃなくて?」
「粉微塵といったな。よくて私と同程度、それ以上などありえん」
「それ以上言わないでやってくださいよ。後ろの兄さんけなされるたびに気が膨れ上がってんですから」
「闘気がそんなわかりやすく量れるかよ。まあいいさ、なあ兄ちゃんそこまでいうならアンタが変わってくれんだろ」
「自分ですか?そうですね、おみゃあ気づいてます。さっきバカにした連中に自分も入ってるんですよ」
「そうかいそうかい、ならちょうどいい。なんだかんだおめえも切れちまったクチだろ」
「ええまあ、気持ちよくはないですけど。わからない人にはわかりませんから」
「あ?何の話だ?兄ちゃん獲物は?見たところ丸腰だが」
男は壁に立てかけた大剣を取りに動く。
「自分のはコレですよ」
羽織を翻し顔を見せる腰に掛けられた装備。
「はあ?棒きれ?アンタ剣の大会に棒きれ2本で出る気だったのか。ははこりゃ面白い。見たところ着てるもんからもよっぽどの遠くから来たようだ。何処の田舎かしらないがただの祭りと勘違しちまったらしい。ここは怪我の一つでオウチに帰んな。そんでみやげ話にオレの強さを語るんだな!!」
男は正中に剣を振り下ろした。巨大な剣は空気を震わし床を叩き割る。そう男を捉えることなく。すぐに気づいた大男だが田舎男は横に回りこみ二本の棒についた引っ掛かりのようなものを握り手甲で防ぐように構えた。棒は腕の形に沿うように伸びている。
「みょうちくりんな構えだな。その棒そんな使い方すんのか。けどよそんなハッタリでびびるわきゃあねえよな」
大剣を振るう大男の動きは鈍い。一撃一撃、貰えば致命傷の攻撃。大男もバカではなく動きは緩慢だが手首の切り返しと一撃の鋭さは光るものがあった。それでも遅いことには変わりない。民族衣装の男は悠々と避け続ける。
「あん?やるきあんのかにいちゃん?ねえならやられちまいな」
ヤジが飛ぶ。
「やるき?ないですよはじめから。でも暇つぶしにはいいかな、と」
ヤジの方に視線を映しながらも避け続ける。
「イラつくや郎だ。完全にこっちを見下しやがって、いい気になってるようだが仕掛けてこなきゃ俺は倒れねえぜ」
大男もなかなかの体力だ。さっきから大剣を振り回しているのにそれほど息が揚がっていない。
「彼には大剣がいいんだろうけど」
「だな、剣術というにはお粗末だ」
すでに蚊帳の外にあるシュゥヴァとルルドは冷静に二人の取り組みを観察する。もう一人の男も居心地悪くやりとりを見守る。
「粘りますな」
「あぁ、それはこっちのセリフだ」
「いやいや、自分、おみゃあのことただの肉の塊と思ってたんですがね。その腕なら猛牛も一撃で仕留められそうだ」
「おう、そのとおりよ。牛だろうがクマだろうが俺の剣の前じゃかわいいもんさ。真っ赤にちぃ吹き出して火が散るようだぜ」
「ほうほうそれはそれは」
男は会話を交えながら大男の死角に何度も回りこみ腕と足で殴打を加える。
「へへっ、やっぱり剣術家じゃなく武術家だったか。だがなそんなちからの乗ってねえ攻撃なんざクマや牛を相手するよりヌルイわ!!」
横薙ぎ一閃が男を襲う。刹那、目を見開き大開脚でしゃがんで避ける。風圧が他の選手の髪を揺らす。
「そろそろですかな」
男はつぶやいた。同じタイミングでシュゥヴァはルルドの肩を叩き部屋の隅へ移動する。
「さあさあ、どうしたぁ!!」
男が上段で構えいざ振り下ろそうとした時、グァーと控室の大扉が開いた。一斉に視線を向ける選手たち。
部屋に入るなり室内の異変に気づく係員。
「なにをしている貴様ら。まさか私闘ではあるまいな。本会場内での私闘は即刻失格、追放処分だぞ」
途端顔を曇らせる大男。
「違いやすよぉ、このお人があまりにいい体なもんで素振りを皆に披露してもらってたところです。それかもしや試合前の素振りもしちゃぁいけねえと?」
「いや、そうではないが」
言いよどむ係員。
「本当だな?」
問いかけに対し皆、口裏を合わせたように黙りこむ。
係員もソレ以上は追求しなかった。
「対戦表が掲示された、それぞれ広場まで足を運び確認するように。以上だ」
要件だけ伝えると去っていく。
選手たちは係員が去ると同時にゾロゾロと移動をはじめる。
大男の横を颯爽と通り過ぎる異国装束の男。
「てめぇ、覚えとけよ」
ドスを利かせた恨みが飛ぶ。
「自分、頭の出来そこまで良くないんで忘れない内に頼みますよ」
そして倣うようにシュゥヴァとルルドも広場へ向かう。
「おれはわかんなかったのにな、何が違うんでい」
「それよりも対戦表だよ。緒戦からルルドとはやりたくないな」
「それはこっちだって同じだ。門下同士で潰し合ったら親父さま嘆くぜきっと」
「そうだね遠征もただじゃないから」
ざわつく広場、それぞれ掲示された複数の紙から自分の名を探すのに夢中だ。
「なぁ、あったか」
「ないね」
「あった!!」
「さすがだねルルド」
「数少ない俺の取り柄ってやつさ」
「大したもんだよ、人混みの後ろから見分けるなんて。で、どうなの」
「うんとぉ、俺が4つめ。んでおまえが・・・1つ目。ついてないなシュゥヴァ」
「そっかぁ、仕方ないとはいえ不安だな」
「なにいってんさ、おみゃあなら何番でもかわりゃあせん。ちなみに自分は5つ目。にいさんの次ですね」
突然二人の会話に割って入ったのは一連の異国装束の男。予期せぬ声に驚くふたり。
「おどかすなよ。アンタさっきからなんなんだ」
「なんだっていわれても自分はカランってもんですが、それが?」
「それがじゃねえよ。名前聞いてんじゃないんだよ」
ドスドス。そんなことを言っていると隣からシュゥヴァに肘でこづかれる。ことの意味に気づいたルルドは突然居住まいをただした。
「おれ、ワタクシはァウロ村の剣士カルヴァが門下ルルドともう、いいます、です」
続いて
「同じくカルヴァが門下にして一子シュゥヴァ」
礼儀正しく挨拶を交わした。
「おや、どうしたんだい。おみゃあら?笑えばいいのかい?」
挨拶を終えると露骨に態度を崩すルルド。代わりにシュゥヴァが説明する。
「父から礼には礼をと厳しく教えこまれているので、名前を聞いた以上返さないわけには」
「ほゃぁ、立派なお師さんだね。さぞ名のある剣士さんなんだろうがあいにくと。ほら、田舎もんですから」
「いや。まあ、昔は武勲を鳴らしたそうですが詳しいことは俺も。仕官していた時期があるらしいと聞いただけで」
「そういうアンタはホントになんだんだ。さっきはシュゥヴァのことわかったようなこと言っといてさ」
「だから何と言われても、日の出る方から着たカランですってば自分」
「日出の方は文化が違うと商人に聞いたことあるけど」
「そうなの?へぇ、ふぅん」
ルルドはそういうと品定めするように上から下めでカランの衣装と顔をじっくり見る。
「礼がないよ、ルルド」
「おっと、いけねえ」
「一応感謝します。余計な争いをせずに済みました」
「ん?んぁあ、さっきのね。その含む言い方おみゃあも素直じゃないね。ホントは暴れたかったのかや?」
「そういうわけじゃないけど、身内が侮辱されたんだ自分の手で晴らしたいとは思った」
「いんや、ダメだ。おみゃあさん、自分が言ったみたいにあいつらバラバラにしちまうかんな」
「何言ってんだ。シュゥヴァは腕がたつのはホントだがそこまで凶暴じゃねえよ」
横目でルルドの顔を見つめるカラン。含み笑い一つ。
「折角の武闘大会なんだ、試合でやり返すのが健全、健全。あたるかどうかは神次第だや」
「オイッ!!俺の相手のカランってやつぁどいつだ!!」
ざわつきのなか頭一つ大きな声が飛び出る。
「カランは自分だみゃ」
すっと手を挙げるカラン。人混みを描き分け一人の男がのっそりと近づいてくる。
「おまえがから、ん!?」
その男は先ほど騒ぎを起こした件の大男。カランを認識するとみるみるうちに顔色をかえる。怒りと喜びが入り混じった複雑な色を。
「てめぇか、おれには天が味方してるみてぃだ。早速このみょうちくりんに借りを返せるたぁ!」
「借りなんて気にせんとぉ。けど自分もよかったわぁ、忘れる前にお返しができそうで。こうみえて奥歯にモノ挟まると気になるタチでして」
ヒラヒラと手を扇ぐ。
「そうかい、なら楊枝のかわりにおれの剣をくれてやる」
「親切な人だぁ、そんなぁ、お礼はおみゃあの負けでいいかや?」
視線で闘志をぶつけあう二人。どちらも不敵な笑みを浮かべる。大男はそのまま広場を立ち去る。三人はもう一度掲示に歩み寄る。
「あの男、ゴォンってえのか。筋肉バカにしては剣の扱いに慣れてやがる。技と呼ぶにはお粗末だが」
「言ってやんねって。ご本人は自信たっぷりだき」
「アンタ、ただもんじゃないのはさきのでわかったが、あの戦いぶりじゃ負けなくても勝ちもねえぞ」
「ご心配どうもです」
「大丈夫だよ、彼、カランも策がないわけじゃないと思うよ。これは剣王を選ぶ大会なんだから」
「そういうことですな。ここは楽しみに待っといてくださいね。とまあ、自分も舐めてかかるつもりないんで体慣らしてきま」
ひらひらと手をフリ去っていくカラン。
カランが去った後今一度掲示をみるシュゥヴァ。自分の対戦相手を見る。
「どんなひとなんだ。相手は」
人でひしめく観客席。神妙な面持ちでカルヴァも始まりを待つ。四年に一度の祭典、会場は超満員だ。一際高い特別席から王族たちが見下ろす。椅子に鎮座する国王。国王が傍らの体躯の大きい官に紙包みを手渡す。その紙を紐解いて官は盛大に息を吸いこみ読み上げる。
「これより第53代剣王位をかけた英雄剣舞会を執り行う。国王よりの言葉代読ス。よくぞ集まった屈強なる戦士たちよ。そして歴史の証人たる観客たちよ。由緒ある剣王位、その栄光を手にするため極めたる武をもって力の限りを尽くせ。勝ち残った一人だけが最強の称号と栄誉。そしてその証である宝剣を手にするであろう。そなたらの活躍を心から期待する」
途中息継ぎを挟みながら官は会場に響き渡る声で開会の宣言を代読した。宣言を聞き終え観客の熱気は更に高まっていく。国王の言葉に心がひとつになったかのように。そしていよいよ幕を開ける剣王剣舞会が。
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