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雪羽の場合 snow candy

今回は、現代ファンタジー。

雪の日の孤独な少女のお話です。

 しんしん…雪の降る音だと教えてくれた人がいた。あれは人の感覚では何年ぐらい、いや何十年前の話しだろうか。

 彼も私を残し目の前に降る雪のように消えてしまった。人と妖怪あやかしである私とでは、もとより生きる時間が違うのだから……当然のことのはずだ…った。


 雪女、氷柱女、雪んっ子…雪の妖怪の話しは多い。とくに女性と結びつき美しい女性の姿を持つ雪の怪異の話は片手では数え切れないほどある。私もその一人、雪女と言われる存在の一人、彼からもらった名は「雪羽ゆきはね」。雪の夜に舞う雪が羽のように見えたからと、彼は言っていた。

 その大事な大事な名を貰い、私はただの雪女から雪羽となった。


 それまでの私は妖怪と言う現象でしかなく、自我と呼べるほどのものもない黒髪の美しい少女の形をした雪の夜の恐怖の具現。

 だが彼と出会い名を貰い自我を得ることで、私は私となった。


『こんばんは、君の名前は』

 優しげな頼りなくすらみえる笑顔で、最初に彼は問うてきた。今思えば何かがこの時に変わったのだろう。

『…なまえ…』

 気がつけは私は不思議そうに応えていた。

『そうか、まだ無いのか』

呟くように言葉を月明かりの中に放ち、月明かりの中て舞っていた雪に目を向けた。一つ頷き私を見つめ告げた。

雪羽ゆきはね。雪の羽と書いて雪羽。君の名前であり、私との契約…ごめんな。私と合わないほうが君には良かったのかも知れない』


 世界に色がついた。匂いが冷たさが、音、風、光…全てが意味を持った。

『…ゆきはね…雪羽…』

 ゆっくりと自分の中に染み渡る名を繰り返し、味わうように確かめるように、今この時得た大切なものを確認した。

 そしてゆっくりとかぶりをふり、初めて彼…主たる大事な方を見、告げる。

『かもしれません。私は二度と手放すことはできないでしょう』

 どうしたのだろうか…惚けたように私を見ている。

『この名を、契約を絆を…ですが、不幸だとは思いません。だって…』


「あなたがそばにいるのですから」

 追憶の中の言葉を私は呟いていた。そして自分が涙を流しているのを自覚する。だが口元には、あの時と同じ微笑みがあった。

 彼が綺麗だと、見惚れていたと後になって照れたように告げた微笑みがあった。

 雪の中に、涙で滲む月を見ながらあお向けに倒れ込むように身を預けた。

「あなたに会いたいです。

そのかいなに抱かれて、あなたに触れたい。

あなたの声が聞きたい、ただただあなたを…」

 そこから先は誰にも聞かれることはなかった。風に消され、月が浮かぶ空に解けた。


「こんばんは、君の名前は」

何時間ほどそのままでいたのか…何時か聞いた言葉が、何時か聞いた声とそっくりな声で私にかけられた。

 驚く私は上半身を起こし涙で曇る目を向けた。

「驚かせたかな、ごめんね。

驚いたよ。御先祖さまの書き付けを見て、冗談半分で来てみれば、本当にいるんだから。

名前を聞かせてくれるかな」

「ゆきはね…雪の羽と書いて、雪羽です」

 呆然としながら私は答えた。

「…あなたは…」

「書き付け通りだね。雪羽、よろしくね。これ」

 そういいつつ古い帳面を、開けたまま渡された。目を落とす。彼の字が心がそこにあった。目を奪われる私に彼は、声をかける。

「御先祖さまが、遺したものだよ。

曰わく、ここに独りの雪女がいる。俺は戻れなかったが、これを読むことができた子孫に頼むと」

 再度涙が溢れた。だが暖かかった。困ったように涙を拭うための布を差し出しながら、彼は言う。

「ごめんね。本人じゃなくて」


 その言葉に首を振って否定する。

 彼は気づいてないのだろう、絆を持つ私だから気がついたのかもしれない。彼が彼なのだと、帰ってきたのだと。

 ならば約束を一つ果たさなければならない。

『私が帰ってきたら…』

 彼の言葉を思い出す。だから…

「お帰りなさいませ。愛しき我が主、雪羽は一日千秋の思いでお待ちしておりました。

もう一人は嫌です。私を…」

戸惑ったような今の彼に続ける。こちらを見て赤い顔で惚けている彼に。

「連れて行っていただけますか、我が君」

最高の笑顔で約束を果たそう。


『笑顔で迎えておくれ。雪羽』

蛇足、うっかりと嬉しくて力を暴走させた雪羽ちゃん。その日、何十年かぶりの大雪で大変なことになったとさ(笑)

そしてご主人さまから、最初のお叱りをいただいたが、どこか嬉しそうだったとか。


実はドジっ子雪女の話しです。雪で大変なことになっているので、すこしでも慰めになればと思いついて書いてみました(*・ω・)ノ


2014.02.11:細部を若干の修正

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