プロローグ
誰が言ったか、私たちが最終的に帰れる場所は、思い出の中だけだという。追憶の海にたゆたいながら、私はあの、緑色の瞳に出会う。もどかしげに、責めるように私を見つめる、燃えるように輝くあの瞳だ。その鋭い眼差しに射すくめられ、私は白昼夢へと堕ちてゆく。そして私は還ってゆく。幸福だった昔に。
―幸福だった?いや、私の歩んできた道は、悲哀に満ちていた。
窓の外から、リュートの音が聞こえる。遠い彼方から、風に乗って物悲しい調べが流れてくる。うねる楽の音は、人生に似ている。どんな悲しみも喜びも、過ぎ去ってみれば全て陳腐だ。生きるということの内には、ただ音の起伏のような感情の起伏があるだけで、そのほかには何もない。それなのに、まるで遠くからリュートの音が届くように、追憶は私を追いかけてくる。だが楽の音も、追憶も、そこにあるが触れることは決してできない。
あの緑色の瞳もそうだ。かつては、手を伸ばせばいつでも触れることができたのに。
―手を触れることができた?私はあの緑色の瞳をした、美しい娘に手を触れたことがあっただろうか。本当は一度も、触れたことなどなかったのではないか?
セラフィーマ、美しいセラフィーマ。彼女が私の前から姿を消して、もう何年になるかすらわからない。だが私は今でも、いつでも彼女の姿を鮮明に思い描くことができる。お下げに編まれた、豊かに波打つ金色の髪。ほっそりとした体を白い木綿のブラウスに赤いスカート、黒いボディスに包み、軽やかに駆けてくるその姿。白く広い額、細い弓なりの眉、すっきりと細い、尖った鼻梁。もの問いたげに、半ば開かれた紅い唇。そしてあの目。私を射竦める、燃え上がるエメラルドのような双の瞳。