ファイル8 生命進化推進興業所に入るには?
すいません。またもや間があきました。しかも話の内容もまだ本格始まりではありません。
「何でシャッターが閉まっているのかしらね?」
部長の言葉は俺達の声を代弁していた。
ようやくたどり着いた生命進化推進興業所。しかしその研究所とも言うべき施設の出入り口である正面ロビーへと続く道はシャッターが降りており、生命進化推進興業所に入ることが出来なくなっている。
ホームページで見た閉館時間は、まだまだ後であり俺達はこの想定外の事態に困惑せざるを得なかった。
しばらくの間、どうするべきかと突っ立ちばがら、ぼんやりと考えている真心が訊ねてきた。
「ねぇ~、光君どうするのこれから?」
真心の質問にどうするべきかと考えていたら、愛ちゃんや部長まで俺を見ているのに気がついた。ちょっと意外に感じたのは、愛ちゃんはともかく部長まで俺の意見を聞こうとしている事だった。
予想外の展開に混乱しているのか、それともここまで来る道中で疲れきったので考えるのが億劫になったのか。たぶん、後者だと思うけれども・・・。
まぁ、それはともかくとしてとにかくこのまま帰るわけにはいかないので、他に生命進化推進興業所内に入ることが出来る出入り口がないか探す事を提案した。
3人とも反対することもなく生命進化推進興業所の周りを回って他に出入り口がないか探す事になった。
しかし生命進化推進興業所自体が結構大きく、固まって回ったらかなり時間の消費になるので、2人1組で、左右から回って調べる事になった。
俺と真心は左側から部長と愛ちゃんは右側から回って調べる事になった。それから生命進化推進興業所の周りを施設の壁に沿って歩いていると、
「この生命進化推進興業所ってかなり大きい研究所だよね~。ホームページにここの施設の大きさとか、広さとか載っていたけど、部長の大学の広さよりちょっと小さいぐらいらしいよ~。」
真心の言葉に適当に相槌を打ちながら、そういえば部長って大学生だったんだな。よく部室にいるから忘れてたなと内心考えていると、真心が騒ぎ出して、指を示すから何事かと示した方を見ると別の出入り口と思われるモノがあった。
俺達はそれを見ると小走りでそこに近づいたのだが、そこの出入り口にもシャッターが閉まっていた。しかもそのシャッターを開け閉めするモノと思われるタッチパネル式のコントロールパネルの表示が、エラーとなっており点いたり消えたりしている。明らかに誤作動している様子だった。
「ここもおかしくなってる。一体どうしちゃったんだろうね?」
真心の疑問は俺も同じだったが、状況的に俺達にとって悪い出来事が起きていると言う事ぐらいしか判明していないというのが現状だったので、肩をすくめてお手上げのジェスチャーで答えた。
しばらくコントロールパネルを調べてタッチパネルの部分を押したりしたが反応がなかったので、一旦離れて更に進んでみる事にした。
またしばらく施設の壁に沿って歩いていると少し先の壁が右に曲がっているのが見え、どうやら生命進化推進興業所の奥まで来たみたいだった。更にその奥には何かの建物が建ってある。
このまま曲がって歩けば右側から調べに行って、俺達と同じように何もなく壁に沿って歩いていたら部長達とかち合うだろう。
でもその前に更に奥の方に建っている建物を調べようと思い、そのまま歩いていると生命進化推進興業所の奥の曲がり角まで来た。そこで奥にあった建物の全貌が見えたが、生命進化推進興業所に比べたらいくらか小さい感じのビジネスホテルを思わせるような建物である。
そしてその建物と生命進化推進興業所の2階が通路で繋がっているのが分かった。
「ねぇ光君、あの建物は何なのかな?別施設?」
真心が訪ねてくるが俺が答えられる訳がない。「知らん」と言いながら首を傾げていると、真心が声を上げた。
「あっ、部長!愛ちゃん!」
真心の声に生命進化推進興業所の右に曲がった後ろ側の奥の方から壁に沿うように黒いふりふりのついたドレスを着た部長と桜色の着物姿の愛ちゃんがこちらに向かって歩いてきた。
愛ちゃんはいつも通りあんまり感情が出ない表情だったが、部長は何とも言えない表情をしていた。その様子を見ただけで何と無く成果の方は予想できた。
「部長、部長達は何か発見はありました?」
「・・・まぁ、全くなかったかと問われたらあったのは確かなんだけど。」
真心の質問に部長はいつもと違って少し歯切れが悪い様子で答えた。どう言う事かと訊ねたら変わりに愛ちゃんが答えてくれた。
それによると部長たちが調べた右側の方では、俺たちが見つけたような別の出入り口はなかったが、奥の方で通風孔を発見したらしい。
「といってもアミがあるので、普通だったらどうしようもないんだけれども、ちょっと調べてみたら、接続が弱くなってて、まぁバールとかの道具があったら取れるかもしれないと言う訳よ。」
部長の言葉に真心は「そーなのですかー部長」と返したが、まぁそれは確かに言うのに迷う内容だなぁ~と納得した。いくらなんでもそんな泥棒か何かのような方法で不法侵入みたいなやり方をするのもなぁ~という気持ちがあったからだ。
それに部長達の言葉通りならば、その通風孔から侵入するにはまずアミを外すための道具が必要である。どうしようかと考えていると真心が生命進化推進興業所をバックに立っている俺達の前に見えている建物について部長と愛ちゃんに質問していた。
「先輩、あれは生命進化推進興業所に勤めている職員の方の寮ですよ。」
すると愛ちゃんが答えてくれた。しかし何でそんな事を知っているのかを訊ねたら昨日、生命進化推進興業所の事をネットで調べたら載っていたらしい。ちなみにホームページにも記載されていたそうである。
しかし寮と呼ばれる建物を見ると結構金が掛かっている感じである。少なくともビジネスホテルを思わせるような外観である。それを見ながらさてどうするかと思案しようとした時、部長が言った。
「まぁついでだからあの寮も調べておきましょう。」
「えっ?あそこも調べるんですか部長?」
「そりぁまぁ、今のところ事態改善の手掛かりがないんですもの。調べるだけ調べてみるしかないでしょ。」
真心の言葉にそう言って「ほら、行くわよお前達」と1人、寮に向かって歩き出した。まぁ、ああなったうちのボスに何を言っても無駄だし、部長の言う事も確かだから俺達も肩をすくめながら部長の後に続いた。
結果的に寮に来た事でちょっと事態は進展したといえるだろう。内部に入る事自体はここの寮も生命進化推進興業所の出入り口と同じようにシャッターが下りていたので無理だったが、郵便受けが置いてある玄関前の通りには難なく入る事が出来たからである。
郵便受け自体は調べたら、多少の手紙や請求書などは入っていたが他愛無いものばかりだった。しかし郵便受けの下に道具箱が置いてあったからである。
中を調べてみると大きめのドライバーや、ペンチなどが入っていた。
「ふ~ん、これだけ色々と入っていたら通風孔のアミも取れるかもしれないわね。」
部長のその言葉に俺達は道具箱を持って、その通風孔のある場所に行ってみる事にした。多少、これからする事に後ろめたさはあったが、ここまできて何もしないで帰るよりはマシという考えがあったのは確かだった。
俺達は寮を出て、一通り寮の周りにも何かないかを調べ、何もない事を確認すると部長達が見つけた通風孔のある場所へと向かい、部長達の案内で丁度、生命進化推進興業所の右沿いの壁に沿って歩こうとしたところで、俺はあるモノを聞き取ったような気がした。
「んっ?」
「えっ?どうかしたの光君?」
俺が道具箱を持っているためか少し歩く速度が遅くなって一番後ろを歩いていて、いきない声を出したので真心が、振り向いて訊ねてきた。部長や愛ちゃんも足を止めて俺の方を見ている。
「あ、いや、今何か聞こえたんだけど・・・。」
「聞こえたって何が?」
真心にそう聞き返されて俺は首を傾げながらも、聞こえたときに感じた事を言った。
「う~ん、唸り声のような感じだった」
「唸り声ぇ?!」
部長は俺の返答に些か怪訝そうな声を上げた。
「先輩、それはどこから聞こえたんですか?」
愛ちゃんの問いに俺は首を上げて、生命進化推進興業所の屋上の辺りを見ながら、頭上から聞こえたような気がしたと答えると、皆、屋上のほうを見たがこれといって何もなかった。
「気のせいなんじゃないの光君?」
「う~んどうかなぁ?」
「馬鹿馬鹿しい。疲れて幻聴でも聞いたんじゃないの天道。」
真心の言葉に俺は首を傾げて、何ともいえない回答をすると部長が呆れた様子で一刀両断に答えてくれました。
「ほら、さっさと行くわよ。もっとシャキッとして歩きなさいな。」
部長は付き合ってられないと言わんばかりにまた歩き出し、真心や愛ちゃんも一瞬どうするか迷ったようだったが、部長に連れられるように歩き出した。俺も首を傾げながらももう一回、屋上のほうを見てまた歩き始めた。
でもこの時、聞いたモノは幻聴などではなかった。そして後に俺は思う。ひょっとしたらこれは生命進化推進興業所内を支配している圧倒的恐怖と絶望の世界が俺達に襲い掛かる開始の号砲だったのかもしれないと。そしてそれはすぐに証明される事となった。
次の話で、ホラーモノになるかな。