違和感
俺が浴場から戻って部屋で一息ついていると、美玲が部屋に入ってきた。
ベッドに座っている俺の横にくっついて腰を下ろす。
美玲も風呂上りなのか、浴衣姿で髪の毛が湿っている。色っぽい姿に見惚れていると目が合ったので、ドキッとしたのを誤魔化そうと質問した。
「一維君は?」
「うん、酔って部屋で寝てるよ」
「そっか……」
少しの沈黙を挟んで、上気した顔で美玲が俺に抱き着き、のしかかってきた。俺は身を任せて横になった。
「亮、しようよ」
はだけた浴衣から谷間が見えている。美玲はそのまま俺に覆いかぶさって唇を合せた。
美玲は俺の口をこじ開けて中に入り込んでくると、濃密に絡みあった。
甘く柔らかな感触に、頭の芯まで蕩けてしまいそうだ。
ふいに俺は、かすかな違和感を覚えた。
「美玲じゃなくて朱莉だよな?」
俺の言葉に彼女はピタリと動きを止めた。唇を離すと、俺の目をまじまじと見つめる。
「何で分かったの? 見た目は完全にコピーしてるはずなのに」
見た目だけじゃない。声も感触も温もりも匂いも、本物の美玲と同じだった。でも何かが引っかかったんだ……。
「なんとなく」
「嘘。確信してたよね。でないと、こんなことしてるときに朱莉なんて言えるわけないもの」
「……しいて言うなら、後ろめたさとでもいうのか、わずかに遠慮しているような感じがあった」
「ふーん、ちゃんと美玲さんと私を見分けられたんだ、えらいね」
朱莉は美玲の姿のまま、悲しげな目をして無理に微笑んでいる。
「なんでこんなことを?」
俺が問いかけたのと同時に、部屋に美玲が入ってきた。抱き合っている俺たちを見て声をあげる。
「亮! また朱莉ちゃんとヤってるの!? 許さないって言って……、え……、私がいる?」
美玲にバレてしまった。
俺はどうやってこの場を誤魔化すか考えを巡らせたが、美玲の姿をした朱莉は、慌てる様子もなく静かに呟いた。
「あれ? もうこっちに来ちゃったんだ。やっぱりレイーシャの予測は正しかったのね」
朱莉は俺から離れて、美玲の姿から元のレイーシャの姿、普段の朱莉の姿に変わった。
それを見た美玲は目を丸くして、唖然としている。
「あ、私が……朱莉ちゃんになった?」
朱莉は申し訳なさそうに眉を下げると、混乱している美玲に話しかけた。
「美玲さん、今までだましていてごめんね。私、未来から来たロボットなの」
「ロボット?」
美玲は朱莉が何を言っているのか、全く理解できない様子だった。
「あなたたち二人が、うまく仲良くなれるようにサポートだけするつもりだったんだけど、亮のことが好きすぎて我慢できなくなっちゃった」
朱莉は舌をペロリと出して、片手を頭に持って行く。
「朱莉、一体どうしたんだ?」
「私も亮が大好きだからって、今言ったでしょ?」
朱莉は今にも泣き出してしまいそうな、悲しげな顔をしている。
「朱莉?」
俺が朱莉の顔色を伺うように声を掛けると、朱莉は涙を零しながら大きな声を出した。
「私を朱莉なんて呼ばないで!」
「何を言って……?」
俺が戸惑っていると、朱莉は再び美玲の姿になって言う。
「私は未来の蓮本美玲。この時間軸にレイーシャを送った本人だよ」
「何を言っているのか分からないよ? 未来の俺が後悔して、過ちを犯さないためにレイーシャをこの時間軸に送ってくれたんだろ?」
「それは嘘。私があなたと一緒にいたいがために吐いたの」
朱莉は遠い目をして語り出した。
「後悔していたのは亮じゃなくて私。全部話すよ、素直に好きと伝えることもできない、臆病な女の思い出話を」




