表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

真昼の旋律

作者: 真白

白い鍵盤に、そっと細い指がおかれる。

刹那、強く重い、悲しい旋律。

ベートーベンのソナタ悲愴第一楽章だ。

繊細な十六分音符の羅列、そしてなんともいえない力強さ。

私の意識は曲の中をただよう。

雨上がりの霧の中を歩いているような、ふわふわした不思議な感覚は、うっとりするほど甘い。

流れるようになめらかな指先で、軽やかなスタッカートを刻む。

私の心も躍りだす。

好きで、好きで、しかたがない。

ピアノを弾く事が、辛い現実から逃げられる唯一の時間だった。

鍵盤をたたいている時だけの、限りある魔法。

でも、私は知っていた。

魔法はいつも決まって、いいところで終わってしまうことを。


私が昼休み、音楽室でピアノを弾いて過ごすのには理由がある。

3ヶ月前、お父さんが事故をおこして人を殺した。

ハンドルをきりそこねたお父さんの車は、ブレーキを踏む事もなく、あっけなく歩道につっこんだ。

お父さんは腕の骨を折ったくらいで済んだものの、歩道を歩いていた女性は、即死だった。

それから一変した、私の毎日。

お父さん、そして家族にむけられる冷たい視線。

友達なんて、1人もいなくなった。

冷たくなった友達達は、私のことが邪魔でしかたがないようだ。

……当然のことなのかもしれない。

誰も、殺人者の子供なんて相手にしたいと思わないに決まっている。

仕方の無いことなんだ、と諦めることしかできない。

「今日も弾いてるんだ、へんなの」

突如背後から聞こえてきた、あざ笑うような笑い声。

気にするな、私。

いつもの事なんだ、気にしたら負けなんだ。

いっそう私は曲にのめりこむ。

「そんな変な曲、馬鹿じゃない」

きゃはははは、高い声が響く。

ぷつり、と何かが途切れた音がした。

……変な曲なんかじゃない。

悔しくて、ぎりりと奥歯を強く噛む。

おまえたちに、何が分かる。

何もかも消えてしまった私に、唯一残ったのがピアノだった。

鍵盤だけが、私に優しい。

私の気持ちを素直に表現できる、受け入れてくれる。

ソナタ悲愴は、まさに私だった。

「やめて」

低くつぶやいた声は、彼女たちには届かない。

ならば。

私はすう、と息を吸い込んだ。

指先に力をこめる。

響き渡る、重々しく低い、ハ短調の悲しい調べ。

虚空をただよい、ゆっくりと消える。

お前たちに、私の気持ちが分かるか。

おもいっきりフォルテッシモをたたきこむ。

その後のピアノは、優しく、それでいて鋭く。

私は弱い。

言葉では反論なんて出来ないから、いつも語るのはピアノごしだ。

ピアノは、私の体の一部。

紡ぎだす旋律は、発する言葉。

私は知らず知らすのうちに、助けを求めていたんだ。

だから、廊下まで聞こえていると分かっていて、こんなにも悲しい曲を弾く。

私とソナタ悲愴を重ねて、響かせる。

諦めたと思っていても、結局はどこかで期待していたのかもしれない。


もう、いいや。

私は指を止めた。

唖然として立ちつくしている彼女たちへ視線を向ける。

分かっているのに、諦めきれないくらい中途半端な自分は卒業する。

変な期待もやめて、自分で戦う。

「馬鹿にすんなよ」

勝てる自信なんかない。

でも、それならそれで、誰よりも美しく散ってやる。

悲愴のように、美しく。

短くなってしまった…;

二作目です。

前回に引き続き乱文すいません;

そして暗い内容ばっかりでごめんなさいっ

こういう人です(ぇ

読んでくれた優しい方々、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ