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姿を見せた主催者

「おいおい、大丈夫かよ」


 五郎(ごろう)まで正気に返って心配し始めた。しかし運転手はリムジンを動かし続け、それから十分少々で車が止まる。


「どうぞ、こちらがゲーム会場です」


 運転手が先に立って、扉を開けてくれる。夏の明るい日差しが車内に入り込んできて、(あらた)は顔をしかめた。


 さて、いったいどんな場所に連れてこられたのか──と緊張しながら外に出ると、そこはいかにも日本の田舎といった、緑広がる農村である。田んぼの中に家がぽつりぽつりと離れて立っているのが見え、なんとものどかだ。


「雰囲気出ねえなあ……デスゲームって、なんかこうよお、暗ーい洋館とかの方が盛り上がるじゃんか」

「確かにね。ミステリーとかなら閉ざされた村ってのもありだけど、普通に車で着いちゃったし」


 新のすぐ前にいた五郎と直美(なおみ)があからさまにげっそりしている。さらにその前を(ひじり)と歩いていた鹿ノ子(かのこ)が、一番先を行く男性に語りかけた。


「ゲームをやるためだけに、私たちはわざわざここまで連れてこられたんですか?」

「その通りでございます。ゲームの成立のために、閉鎖的な空間が必須と運営は考えまして」


 それを聞いて直美が会話に割り込んだ。


「それなら孤島とか、もっと雰囲気のあるところを……」

「申し訳ございませんが、そういったところに電気・水道・通信の設備を備えようとしますと、かからなくて良い費用が莫大に発生しますので。我々は必要な投資は惜しみませんが、無駄は嫌いです」


 男はいきなり、しょっぱい側面を隠すことなく見せてきた。新は思わず、隣に立っていた佳乃(よしの)と顔を見合わせる。


「では、ここはどういう場所なんですか?」


 一番後ろを単独で歩いていた宗一郎(そういちろう)が聞く。男は彼にも聞こえるよう、やや大き目な声で話し始めた。


「ニュースなどでたまに報道されますが……皆さま、限界集落という単語に聞き覚えはございますか?」


 確か、高齢者が半分以上を占める集落のことだと新は思い出した。若者がほぼおらず、将来的には集落の維持が難しくなると考えられている場所である。


「まあ、将来的には問題山積みなのですが、今のところは電気や通信設備、水道もございます。人が生活しているわけですからね。その割には交通の便が悪く、外部の人間も立ち入らない。だから、村民の皆様に相談して、このゲームに使う間だけ留守にしていただいたと、こういうわけなんです」


 なんでもツアーを組んで、温泉を巡っているらしい。ここの村の住人は総勢で三十三人だというから、どこかの島を買ってイチから整備するよりは、確かにだいぶ安上がりだろうと新は納得した。


「皆様が使っていただく家も、普段は村の方々が使っておられる民家です。少し内装を変えて、貴重品は持って出ていただくか、運営が預かる形にしたくらいですね。終わったらお返しする設備ですので、くれぐれも壊したり、無茶な使い方はなさいませんように」

「分かりました」


 そんな話をしながら男が一行を案内したのは、広場にぽつんと建っている古びた建物だった。禿げかかった金属看板に「公民館」の文字があるのがかろうじて読み取れる。


「あら、この建物……結構趣があるじゃありませんか」


 鹿ノ子の言うとおりだった。和と洋が組み合わさったモダンなデザインで、もっと便利な場所にあったら観光名所になりそうな建物である。周囲に見える田んぼから思い切り浮いており、どこか戸惑っているように見えた。


「なんでも、バブルの時にここまでリゾート開発の計画があったそうで。近くに温泉があるので、ここまで一つの地域で開発しようとしていたんですね。ただ、この建物一つ作ったところで計画が頓挫し、やけに立派な公民館だけが残ってしまいました」

「こんな田舎にまで……贅沢な時代があったんですね」


 宗一郎がまじまじと建物を見上げる。すると、公民館の中からきゃあ、と黄色い悲鳴が聞こえてきた。


「なに、あの人超かっこいい!」

「四日間一緒に泊まれるのかな? だとしたらすごいチャンス!」


 先についていた参加者たち(女子)が、宗一郎を見つけて完全に舞い上がっている。


「うるさいなあ……」

「あいつ、やっぱり俺の敵だわ……」


 直美と五郎は、各々違う理由であからさまに機嫌が悪くなり、猫のようにシャーシャーと唸った。やっぱりこの二人、怒った時の反応がとてもよく似ていると新は思う。


「中でお待ちください。どうやら私たちが最後の到着だったようですので、間もなく主催からゲームの説明が開始されます」

「分かりました。ありがとうございます」


 佳乃が丁寧に頭を下げたが、新は腹が立っていたので、あえて男性を無視した。


 公民館の中に入ると、受付のところで封筒の名前を確認された。それが終わると、各々四つにたたんだ紙片を渡される。


「その中には、一から十二の数字が書いてあります。四人一組で班を作っていただきますので、同じ数字の人で集まってください」


 受付──この人も男性で黒服──がてきぱきと指示してくる。全員紙片を広げて、照らし合わせてみることにした。この状況で、顔見知りが同じ班にいてくれればありがたい、と皆が考えた結果である。


 しかし、結果は無惨だった。新は「八」、五郎は「九」、直美は「六」。宗一郎は「十一」、佳乃は「十二」、鹿ノ子は「三」、聖は「一」と、全員が違う数字だったのである。


「こんなことあるんだ……」

「一組くらいは一緒になれるかと思ったけど、なかなか厳しいね。まあ、勝負で当たったらその時はよろしく」


 宗一郎が一番早く割り切って、中に入っていく。新たちも仕方なく中に入り、班員たちと合流することにした。


「八班の人、いませんか?」


 新が声をかけると、すぐに男性一人と女性二人が寄ってくる。男女半々でバランスがよさそうだし、そんなに壊滅的な見た目の人もいなかったので、とりあえずほっとした。真面目そうな眼鏡の男性は静馬(しずま)、女性二人は佐藤(さとう)横田(よこた)と名乗った。佐藤がやや派手目の顔立ちで、横田は大人しそうな感じである。でもしゃべってみると、二人とも気さくだった。


「よろしく」

「よろしくお願いしまーす」


 挨拶しながら隣にちらっと眼をやると、五郎の班はなぜか男四人という悲しすぎる編成で、お互いに死にそうな低音で言葉を交わし合っている。うっすらと運営の悪意を感じて、新はそっと手を合わせた。


 逆に宗一郎の十一班は彼以外が女性だけで、きゃあきゃあとテンション高く盛り上がっている。隣の班の佳乃が、迷惑そうに顔をしかめているのがちらっと見えた。


 そこまで確認したところで、天井付近のスピーカーから低いハウリング音が聞こえてきた。


「皆様、お集まりいただきありがとうございます。現時点をもって、全ての招待客の到着が確認されました。これより、主催よりゲームのルールと、褒章品の説明が行われます」


 その言葉を聞いて、ざわついていた会場が一気に静かになった。針を落としても音が聞こえそうな静寂の中、公民館の中にしずしずと老婆が入ってくる。


「かわいいおばあちゃんだね」


 そう囁く声が聞こえてきた。それも無理はない。出てきたのはぽっちゃりとした老女だった。おそらく身長は百五十センチもなく、背筋を伸ばしていてもこの場の誰より背が低い。ひょこひょこと歩く姿はファンタジーの妖精のようで、これもまたデスゲームにはふさわしくない姿だった。


「皆、よく集まってくれたね。今回は年寄りの道楽に付き合ってくれて、感謝するよ」


 老婆は一同を見回し、昔話を語るような穏やかな声で言った。ますますお茶でも出てきそうな雰囲気になり、新は困惑する。


「私は昔から、皆が集まって遊ぶのを見るのが好きでね。それもスマホとかじゃなく、昔ながらの道具を使った遊びがいい。ってことで、最初はカルタでもやるかと思ったんだけど、それじゃあまりに人が集まらないと言われてね」


 老婆はそう言って、ちらっと一同を見渡した。


「ってことで、トランプを使った遊びをやるよ。ただ、少し面白いようにルールを変えている場所もあるから、せいぜい楽しんでおくれ」

「トランプぅ!?」


 集まった一同の中から、五郎のでかい声が漏れ聞こえてくる。本当に腹芸が下手だなと、新は頭を抱えたくなった。


「そうだよ。何か不満かね?」

「俺はデスゲームやりにきたの! んで、勝ちまくって誰も死なせず豪華商品をゲットして、残りの人生楽しく遊んで暮らすんだ!」


 あまりに阿呆みたいな夢に、周囲から失笑が漏れる。その波に乗ったように、老婆も思い切り吹き出した。


「なんだい、面白い坊やだね。豪快に誤解してくれているようだけど、案内のどこにもそんなことは書いてないだろう? 私たちがやりたいのは、あくまで大人の知的なゲームなんだよ」

「え──!!」

「それに、何かよからぬ期待をしているみたいだから言っておくけれど。今回の賞品というのは、金とか高価なモノとか、そういう即物的なものじゃないんだよ」

「ええ──!!」

「子供か貴様」


 あまりに五郎があからさまなので、新は思わずつっこんでいた。老婆も、頬の内側を噛んでいるような顔をしている。


「ちょうどいいから、報酬について触れておこうかね。今回我々が提供するのは、『人との縁』だ」


 顎に手を当てながら老婆が言うと、会場内が少しざわついた。五郎ほどあからさまではないものの、若干失望の空気が漂う。皆、なんだかんだ言って密かに期待していたのだな、と新は思った。


「失礼。それは具体的にはどういうことですか?」


 今度は宗一郎が手をあげて質問した。今度は失笑を買うことなく、周囲の女性陣はうっとりした視線を向け、逆に男性陣が殺気立つ。


「まだ社会に出てない人間にはぴんとこないかもしれないが、いい仕事や儲け話ってのは、結局コネで決まることが多いのさ。誰だって、大事なことは信頼できる人間に頼みたいからね」

「それはそうですね」

「学生は、テストの過去問とかで言った方が分かりやすいか。それか、恋人がほしくて友達に紹介を頼んだりした経験はないかい? とにかくこの世の中、一人で黙々とやってると外的な変化は起こりにくいようにできている」


 人と人を容易につなげるSNSができてから、出会いの場は桁違いに多くなったように見える。しかしそういう場には簡単に参入できるというメリットがある半面、詐欺師や犯罪が入り込みやすいという弱点も存在してしまうと、老婆は語った。


「だから今回、優秀な成績をおさめた者には、こちらですでに厳選した人員を紹介する。仕事が欲しい、金が欲しい、自分を変えたい、恋人がほしい、友達が欲しい──まあ、ぱっと思いつくことで叶わないことはないと思ってくれていいよ。さらに、その目的に滞りがないよう、こちらでもサポートする」

「なるほど。それはなかなかない機会ですね」


 今度は宗一郎の代わりに、鹿ノ子が答える。


「社会人になると、人脈を作りたいとあちこちの集まりに顔を出す人もいますが。たいていそういう節操のないことをしていると、避けられてしまいますわ。そちらから人材を紹介していただけるなら、私は喜んで上位を目指しますよ。ねえ、聖」

「お嬢様のおっしゃる通りです。金なら自分が頑張れば稼ぐこともできますが、信頼できる人物との邂逅には、運も絡みますから」


 二人の言葉を聞いて、少しがっかりした雰囲気だった会場の様子が変わってきた。どうやら自分たちは幸運の入り口に立っているらしい、と気づいた参加者たちが、ざわついてくる。


 老婆はその様子を満足そうに見て、にんまりと口元をつり上げた。

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