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凸凹すぎる五人組

「今回は原則四人一組とするが、こちらで班分けは指定しない。好きな面子で組めばいいだろう。五人六人の班ができるのは構わないが、三人以下は避けること」


 さすがに今回は、前回のようなお目こぼしはしないということだ。老婆の宣言を聞いて、五郎(ごろう)がげえっと言うのが聞こえてきた。


「あと、今回のポイント報酬は、一位が百、二位が十、三位が五、四位がゼロだよ。一位以外はほぼ貯金が増えないと思って、せいぜい頑張りな」


 キヒヒ、と笑う姿は本物の妖怪のようだった。そろそろ参加者も運営の性格の悪さに気づいただろ、と言いたげな笑みである。


 そして婆さんはそれに続き、とんでもない爆弾を投げ込んできた。


「ああ、そうそう。これは今まで話していなかったから、念のために言っておこうか。皆の目的、紹介のために必要なポイントだが──最低、二百ポイント。そのラインを超えない場合は、一切紹介の恩恵にはあずかれないからそのつもりでね」


 さすがにこの宣告には、会場中がどよめいた。無理もないと、(あらた)は頭の中で算盤を弾く。


 今までのゲームの点数をまとめるとこうだ。


 開始前の、各々のポイントは十。

 一回戦は一位三十、二位二十、三位十。

 二回戦は一位五十、二位十五、三位十。

 そして今回の三回戦は一位百、二位十、三位五。


 今の段階で二百ポイントを目指そうと思ったら、全て五ポイント使用で参加し、全てのゲームで一位を獲得してもなお届かないのである。確かにポイントを稼げとは言われたが、ここまで極端な下限があるとは思わなかった。


「今の時点で二百を超えようと思ったら、どこかで一回はポイントの全掛けをして、ずーっと一位に入らないと無理ってことよね」


 佳乃(よしの)がぼそりと呟く声が聞こえてくる。新の脳裏に、宗一郎(そういちろう)の顔が浮かんだ。


「そこまで読んでたのか、あいつ」

「さあね……単に危ないことが好きってだけな可能性もあるけど」


 佳乃は冷めきった目で言う。新は彼女を端に呼んで、ひそひそと話をした。


「これを聞いたら、皆ポイント全部賭けでくるかな」

「多分、あまりないわよ。だってゲームは明日もあるんだもの。何かの間違いで最下位になってしまったら、そこで終わりじゃない」

「でも、最低ラインを越えなきゃ参加した意味がないだろ」


 新が言うと、佳乃は少し感心した様子で視線を向けてきた。


「前から思ってたけど、意外と論理的なタイプね。人間、全員そうはできないものよ。今までずっと、ポイントを残すために節約志向でやってきた人がほとんどだから……いきなり全賭けしろって言われたら、強い抵抗感が生まれると思う」


 ずっと切り詰めてきた人間が、「明日から手持ちの金を全額使いきれ」と言われるようなものだと考えると、佳乃の言うこともわかる。新はうなずいた。


「ってことは、皆、婆さんが前に言ってた『ポイントを増やす新手段』ってのに頼ろうとするわけか?」

「内容次第だけど」


 ちょうど二人の話がそこへ差し掛かった時、老婆の口もその内容に触れた。


「そしてさらに、以下の行為が成立した場合、ゲームの結果とは関係なく、一律百ポイントを与えるものとする。他プレイヤーを、自らの意志でゲームから脱落させること」


 会場内は静まりかえり、老婆の話を聞き漏らすまいと皆が緊張している。老婆は顎に手を当てながら、さらに続けた。


「当然自らの意志といっても、暴力行為は一切禁止だよ。暴行の事実が判明した時点で、行った者は失格となるからね。あくまで当人納得の上でだ」


 婆さんがそれからしばらく禁止事項をくどくどと述べる中、新と佳乃はまたひそひそと話をした。


「……今回はえらく露骨に、人数を減らしにかかったな」

「前回のダウトで、運営側が期待するほど人数が減らなかったってことじゃないの」

「それでもっと……ってことか。あの婆さん、最終日は何人くらい残ると予想してるんだろうか」

「少なくとも、十人以下ってところじゃないの。そうじゃないと、画面で追うのも大変だし」

「何?」


 眉をひそめる新に、佳乃はとんでもないことを話し出した。


「このゲーム、動画サイトで配信されてるって直美(なおみ)さんが教えてくれたの。もちろん会員制で、パスワードを知らないと入れないみたいだけど」

「ああ……あいつの素振りの意味はそれか」


 あながち予測できない展開ではなかったので、新は別に驚かなかった。後で直美に、佳乃から聞いたとメッセージを入れておこう。ついでに追加で調べてほしいこともあるし。


「しかし地味なゲームを配信してるもんだよな。今のところ、卓上でちまちまやってるだけでそんなに面白くもないだろうに」

「あえて言うなら秘密の暴露くらいだけど、そんなに大したものはないみたいね。──私の過去を除いては、だけど」


 何かを察して、新は息をのんだ。


「おい、もしかして」

「私が勝ち残ったら、あのホテル火災の種明かしをしてくれる──なんて落ちが用意されているとしたら、見る人はいるでしょうね」


 佳乃はそう言って、少々自虐的に笑った。新は話をそらそうと、顔をそむける。


「しかしそう簡単にいくかね。目的があって、こんな田舎くんだりまで来て、しかもここまで残った連中だぞ」

「……少なくとも、女性陣は結構脱落するんじゃない?」


 その意味は明らかだ。確かに、宗一郎が連絡先なりデートなりちらつかせれば、結構な数の人間が脱落しかねない。


「運営にとっては便利な駒ね」

「まあ、そうだよな。神話のトリックスターと言うか、そういう役回りだよ。前にもそう言ったろ」

「いつまでも自分の思うようになると考えてたら、足元をすくわれるけどね」


 いきなりそう言い放った佳乃の横顔は、驚くほど白かった。そのまま立ち去ってしまうので、新は焦る。


「おい、それどういう……」


 追いかけて聞こうとしたところで、後ろからいきなり袖を引かれた。


「新~、俺と組んでくれ! 俺、ポーカーのルールなんて分かんねえよ」


 案の定の五郎の顔に、新は深いため息をついた。


「スマホで調べればすぐ出てくるって。俺、正直今はそれどころじゃないんだ」

「やったけどダウトと違って、複雑すぎてわかんなかったんだよ。最後くらい見捨てないでくれえー!」

「正確に言うと最後から二番目だ」

「俺、お前のそういう冷めたところは嫌いだよおおお!!」


 あまりに五郎がぎゃんぎゃん騒ぐので、とうとう新は一緒のチームになることを了承してしまった。佳乃には結局、話を聞けずじまいである。


「これで二人か。ゲームを成立させるためには、あと二人誘わないとな……」

「じゃあ、僕が一緒にやるよ」

「お前はいらねえ」


 なぜか光の速さで宗一郎が割り込んできたので、新はあわてて断った。彼の裏に並んでいる、恨みがまし気な女性たちの視線が痛い。


「お前だったら、いくらでも班組みできるだろ。あぶれ者二人にくっついてんじゃねえよ。この前の女子はどうした」


 余計なことを口走らないように五郎の口を押さえながら、新は後ずさった。


「いやあ、彼女たちと班を組むのは無理なんだよね。なんせ彼女たち、リタイアしちゃったから」

「お前がさせたの間違いだろ」


 早速毒牙を使った宗一郎に、大翔は嫌味を浴びせる。しかし彼は気にした様子もなく、チームを組もうと引き続き迫ってくる。


「あら、そちらは三人なんですの? では私と聖も混ぜてくださらない?」


 その流れに割り込んでくれたのは、鹿ノ子(かのこ)だった。(ひじり)も今回はぴったりと彼女の後ろにつき、怖い顔をますます怖くしている。確かに、下手な連中が関わるより、この三人で包囲網を作った方が安全かもしれないと新は思い直した。一か所ものすごく穴があるが、この際それは無視する。


「じゃあ、組みましょう。よろしく」


 五人でまとまって申請に行くと、第四班として登録された。なんとなくゲンの悪いものを感じながら、新は周囲を見渡す。すると佳乃が直美を誘って、班を形成しているのが見えた。


「良かった、あっちも一人じゃないな」


 つぶやく新を見て、宗一郎がまた意味ありげに笑っていた。鹿ノ子と聖はあえてそれに触れず、五郎はその危険さに気づかないまま──卓についた。


 並び順は、卓の片側左から新・五郎・宗一郎の順。新の向かいに鹿ノ子が、宗一郎の向かいに聖が陣取っている。右側のお誕生日席というポジションにいるのがディーラー。彼から見て右が聖、左が宗一郎である。さすがに今回はゲームのルールが複雑なので、ディーラーが補助でつくようだ。


「で、ポーカーって結局何をやんの?」

「結局そこからか……一言で言うなら、手元で役をそろえてそれが強い方が勝ちってやつだ。麻雀みたいなもんだよ」

「あ、それならちょっと分かるぞ。親父がやってたから」


 五郎は目を輝かせて、話の続きをねだった。


「役は上から言うとだな……」


 新はざっとまとめて説明を始めた。


 最も強い役は、ロイヤルストレートフラッシュ。同じスートの十・J・Q・K・Aが全てそろっている状態である。

 次はストレートフラッシュ。同じスートで数字五個が連続しているもの。

 三番目はフォア・カード。同じ数字が四枚手札にそろった状態。

 四番目はフルハウス。同じ数字三枚と、別の同数字二枚が同居したもの。

 五番目はフラッシュ。数字はバラバラでもいいから、同じスートが五枚そろった状態。

 六番目はストレート。スートはバラバラでも良いので、五枚のカードの数字を連続させてそろえたもの。

 七番目はスリーカード。名前のまま、スート関係なく同じ数字が手札に三枚ある状態。

 ブービーはツーペア。同じ数字二枚の組み合わせが、二つ手札にある時をいう。

 そして最下位の役が、ワンペア。同じ数字が二枚あれば成立する。


「こんなとこだ。基本的に同じ数字・同じスート・連続した数字を集めていきゃ、点数が入ると思って間違いない」


 最後にまとめると、五郎は一応うなずいていた。どのくらい理解したかは怪しいが、とりあえず基本は飲み込んだようだ。


「あ、でもさでもさ。二人が同じ手だって場合はどうすんの?」

「良い質問だね。その場合は、カードの順位が高い方が勝ちだよ」


 横からしれっと宗一郎がお株を奪う。ポーカーではAが一番強く、K・Q・Jと続く。最弱は二だ。


「つまり、同じツーペアでも、K二枚と三が二枚だったらKを持ってる人が勝ちってことだね」

「じゃあ、それも同じだったら?」

「それが起こった場合はスートの強さがものをいうのですよ。スペード、ハート、ダイヤ、クラブの順に強いので。なので、そろえる際はこの順番も考慮すると良いかと思います」


 鹿ノ子も解説に入った。皆、解説役になるのが結構好きなんだなと新は内心、少し呆れる。


「……とりあえず、なんかいっぱい揃えればいいことは分かった!」

「あ、馬鹿の頭の容量を超えた」

「まあいいじゃねえの、やってみようぜ勝負!」


 五郎が逸るので(そのせいで馬鹿にされたことにも気づいていない)、とりあえずゲーム開始となった。今回は各テーブルにちゃんとディーラーがついていて、慣れた手つきでカードをシャッフルしていく。


「そういえばポイントはどうするんだ? 俺は六十五ポイント賭けるが」


 新は現在、一日目二位、二日目一位なので合計七十ポイント。手持ちの九割以上をつぎこんだ。これなら明日の参加分は残るし、一位になれば倍率計算で二百ポイント近く残るだろう。一応、最低ラインの紹介はしてもらえる可能性が高くなる。


「俺は全部!」


 五郎が調子に乗った。いいぞそのまま自爆しろ、と新が思っていると、宗一郎が笑いながら言う。


「君、全賭けしてこの面子に勝てる自信があるの?」

「申し訳ございません」


 すると五郎はさっさと五ポイント賭けに変更してしまった。新は舌打ちしたいのをこらえる。


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