ナレ死を避けたらヤベェ奴らが爆誕した
アニメやドラマなどで「ナレーションにより死を語られる」ことをナレ死と呼ぶ。あんなに強かった人があっさり亡くなられたことを示したり、労力を割くべきシーンではないと片付けられたり。
そして私は十八歳でナレ死する王女に転生した。
「ふざけんな、ふざけんなよ。ドラマチックに死ぬことすらできないのかよ。ナレ死とかふざけんな」
この話は架空の軍記物語にファンタジーハーレムが加わったもので、主人公は行く先々でゲストヒロインとスケベなことをしながら巨悪と戦う。
私は悪役を成立させるため、宰相に暗殺される役どころだ。ふざけるなよ。主人公に十種類のムネ肉を提供するためナレ死する人の気持ちを考えたことがあるか???
「ぜってぇ生き残ってやる…」
強い決意を八歳のまな板に秘めた。
何故に私が暗殺されるかというと、私が隣国の王子と婚約しているからだ。宰相は私の後釜に娘を据えて、隣国をじわじわ乗っ取るつもり。汚いなさすが宰相きたない。
宰相の邪魔をしたいけれど、私はただの王女であるため人事に口は出せない。ひとまず護衛を増やして宰相を威嚇するか…と思った時にあることを思い出す。
「そういえば、この時期ってまだ奴が見出されていないのでは?」
作中最強の敵として君臨した暗殺者、クラウ。孤児院にいたところ身体能力が見込まれて宰相に引き取られてアサシン教育を受けたはず。
今なら間に合う!先に確保せねば!!!私の従者に欲しいと駄々をこねよう!
・・・
あれから十年の時が流れた…これがナレーションだ覚えておけ。
ナレ死まであと少し、私はどうしてこうなったと考えながらお茶を飲んでいた。
「ご主人さま!今日はとーっても美味しいクッキーが手に入りましたよぉ。あーんしてくださいっ」
「ちょっとクラウ!火傷しちゃうから気をつけて持って!ご主人さまもフーフーして食べてね?」
「ご主人様、紅茶のおかわりは如何ですか?」
ここでイカれたメンバーを紹介するぜ!
ドジっ子のクラウ!「はわわ」と「ふええ」が口癖のむちむちムネ肉の持ち主だ!洗濯はからっきしだが掃除(意味深)が得意だぜ!
オカン属性のピエラ!スイーツ巡りが趣味でぱつぱつモモ肉がセクシーだ!掃除で逆に散らかすが、料理(意味深)のスペシャリストだ!
有能秘書のドーク!少女趣味のどちどちボンジリなメガネっ子だ!キッチンは爆破させるが洗濯(意味深)で右に出る者はいないぜ!
全員が身長180cmオーバー、体重100kg超えのムキムキ、低音イケボ男子であることを除けば理想的なメイド軍団だ!!!
(なんでコイツらメイド服なんだろ。よくサイズがあったな?メイド服から膨張した筋肉がまろび出てるんだけど)
世界って不思議だにゃあ…。
子供の頃に孤児院に行ったら、どれがクラウか解らなかったので怪しいやつ全員引き取ったのよね。そしたら全員怪しい才能に目覚めたのよね。どういう確率だよ、こえー孤児院だな。
「クラウは汚れが気になるのでお掃除したいですぅ!」
「良いのがいたら捕まえて料理してやんなきゃね!」
「ご主人さまに良い報告をお持ちしなさい」
どうしてこうなったかね。漫画のクラウは線の細い美青年って感じだったんだが。私が調子乗って三人に食べさせすぎたのが敗因だったよね…。食べれば良い筋肉がつくじゃんって。まさかこんなにデッッッてなると思わないじゃん。
この口調とキャラクターに進化した理由は知らない。なんで揃って萌えキャラ路線狙ってるの???
「それじゃあ…オナシャス…」
クラウとピエラは揃ってごつくしいカーテシーを披露しながら、各々の獲物を持って飛び出していった。
ドークは未だ優雅に紅茶を淹れている。こいつキッチンは爆破させるくせに紅茶の腕は一級品なんだよな…。盛り上がったムネ肉の谷間にナイフ仕込んでるのは目を瞑ろう。
「おや、羽虫が」
「がっ…!」
ノールックでムネ肉からナイフを取り出して投げるドーク。天井裏から怪しい男が落ちてきたのを私はなんとも言えない気持ちで見ていた。私ってば暗殺者に狙われすぎィ…。
「活きの良い豚肉が手に入りましたね。ピエラにお料理してもらいましょう。ローストポークなど如何ですか?」
それ根性焼…いや…なんでもない。
「あの人達も懲りないなぁ。嫌だなぁ」
私の婚約者はもともと宰相の娘と繋がっていたらしい。政治的にも社交的にも肉体的にも。気持ち悪いね、ヴェッ!!
だから私の暗殺は最優先事項なのだ。何故なら宰相の娘が妊娠しちゃったから。ちなみに私はまだ王子との婚約を解消していない。
「野蛮極まりない方々ですね。このまま彼女が出産すれば、当然父親は誰なのかという話になってしまう。王子の名を出せば王家への叛意ありとして処断され、出さなければ身持ちの悪い娘となるため王子に嫁がせられなくなる」
「ということまで陛下に把握されてるって気付いていないのが一番可哀想…」
うちの優秀な冥土達は暗殺者を捕らえて吐かせて報告書を用意した。掃除、料理、洗濯だね。そして私と陛下にきっちり報告したのだ。
宰相は己がもう解任されているとは知らずに今日も仕事のようなことをさせられている。道化師すぎて可哀想だけど、こいつと王子にダメージを与えるために娘の出産を待っている状態なのだ…。
「ご主人さま!クラウがきっちり掃除してきましたよぉ!今、ピエラが残った豚さんを料理しているところですぅ!」
「クラウ、お洋服をちゃんと洗おうか…。メイド服は黒だからいいけどエプロンは白いからソースが目立っているよ…」
「はわわ!ごめんなさぁい!」
こんなに濃ゆいメイドが三人もいて、なんで暗殺者を送ってくるのかって?知ってるか、目撃者がいなければ存在って認知されないんだよ?ナレ死すらできないね…。
「ご主人さまのお誕生日パーティーは盛大に祝わなければなりませんね。今年はあの豚がエスコートしますが、来年には違う方になりますので我慢してください」
「まあ、それは今更だからいいんだけどさ」
この濃ゆいメイド三人がいて、私と婚約したいという猛者はいるのだろうか?
「ご主人さま!ローストポークがすぐできそうだよ!追加でなにか作ろうか?」
「ピエラに任せるけど、焼きごては目立たないようにしまおうね」
ナレ死は回避したと思うから、そろそろ普通の幸せを求めたいところだけど。こんなにデッッッなメイドが三人もいたら無理かなと遠い目になる。
ひとまず争いが起きないので主人公にはムネ肉を諦めてもろて。私はムネ肉とモモ肉とボンジリに囲まれているけれど、許してもろて。
「世界が平和になるのなら、私の結婚なんて二の次かぁ…」
数ヶ月後、無事に婚約解消した私はメイド三人が探し当てた優良物件と婚約することを知らない。




