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抑えきれない衝動は翌日に二人で話すことを決めた。気は急いているが、それでも我慢した方だし、我慢できた方だと思う。前の俺だったら帰宅途中にそうしていた。そしてそれは破滅へ向かう道だった。
俺たちは、ネタを書いているときにたまに使う喫茶店に居た。ビルの三階にあるこの喫茶店からはブラインドがかけられた別のビルの一室が見える。
きっとここに居る客からの視線が気になって、ブラインドを閉めることになっているのだろう。わざわざそんな面倒なことをしなければならなくなった気持ちに同情しつつも、そんなことを気にしている場合ではない俺がいた。
色褪せたステンドグラスが天井付近に飾られていた。赤や青などの色があった痕跡はあるが、全部が茶色に変わってしまっていて、この場所の年季を感じさせる。
これぐらいの長い間、芸人として生きていくことができれば、それは俺たちの人生は成功だと言っても良いと思う。例え、それの生計を立てているのが漫才ではなくて、バラエティであったとしても、ウーバーであったとしても、アルバイトであったとしても、それは一つの成功のような気がした。
どうせ、後になったらあらゆることを忘れるのだ。芸人として辛かったことも、成功できなくて悔しい思いも、ゲムに浮かされていることによって空間から離脱しそうになっていたことも、全てを忘れることになる。
無意識に溶け込むであろうそれらを、俺はどのようにして受け取るのだろうか。もしかしたら今よりも未来の方が明るいのかもしれない。そういうことを思えるだけの心にはなってきた。明日に希望を見出だせるようになってきた。
喫茶店はガヤガヤとしている。それなりに繁盛しているこの店では色んな人が会話をしており、それをなんとなく小耳に挟みながら、俺たちは話すこともなく、黙っていた。当然、黙るためにここに居るわけではない。
黙ってコーヒーとカフェラテを飲んでいた。俺がコーヒーで林がカフェラテだ。どうやら、林は体質的にコーヒーがあまり得意ではないらしく、いつもカフェラテを頼んでいる。ミルクとコーヒーが混ざって、肌色のようになっている。
別にコーヒーが入っていないものを頼めばいいはずなのに、それはせずにカフェラテを飲んでいるのだ。どういうことなのかは俺には分からない。
ただ単純に苦手であるだけなのを体質と言い訳してる。そんなことで人間の気持ちが計れるわけもないので、俺にはどうでもよかった。
流れている沈黙はやがて違和感になっていく。俺ですらこの空間の重みに耐えられなくなっていた。話を始めなければならないということが分かった。
俺が呼んだから俺が話を切り出すべきなのだろう。が、それにしても林は緊張しすぎている様子だ。どうしてそこまで気にしなければならないのか。もしかして、解散の話を持ち出されると思っているのか。
頭の中で飛躍が始まる。こうなってしまったら、もう止めるしかない。飛躍が始まると、俺はゲムによって浮かされてしまうことを肯定しているみたいになってしまう。それを促しているようだ。
ゲムではなくて、俺自身が俺を浮かしてしまう。そうなってしまわないように、俺は思うことも、思いたいこともたくさんあったが、それでも口を開くことにした。その前に、一口コーヒーを口に含んだ。
「悪いな。呼んで」
「気にしないでよ。松野さん」
「今日は大丈夫だったの? 仕事とかは?」
「ウーバーやろうかなって思ってただけだから」
「そう。とりあえず、今日の分は俺が奢るよ」
「悪いね。ありがとう」
「アンドウの二人からアドバイスを貰ったじゃん?」
「そうだね」
「アレさ。ちゃんと受け止めようと思ってるんだけど、どう思う?」
「え?」
「しゃべくり漫才にこだわる必要も、こだわっている理由も善く善く考えればあんまりないような気がしてさ。それに、林は動きがあった方が面白いし、それでいいかなって思えてきたんだけど、どう?」
「そっか。そうだよな」
「俺はそうしようと思っている。林はどう思う?」
松野健の眼には覚悟のようなものがあった。いわゆる目が据わっているような状態でもあって、それを察知した林は(俺には意見を求めていない)、と、本能的にすぐに分かった。言いたいことがあっても、言えない。
とはいえ、宗像とよく会話をしていた林はそれをすぐに飲み込むことができない。宗像含め、芸人仲間が、自分たちのしゃべくり漫才を評価してくれていることを普通に理解していた林はそれをすぐには飲み込めない。
松野はいつまでも返事を待つつもりだった。もうすでにやるべきことは決まっているので、その道を進むことを決めていた。もはや前のようなネタを書く気持ちもなくなっていた。できなくなっていた。
人の気持ちが分からない松野は長い沈黙の中にいる林の気持ちが根本的な部分で全く分からない。だから、いつまで経っても返事をしてこないことを少しだけ不思議に思いながら、それを受け入れていた。
ゆっくりとコーヒーを飲む。その姿はどこか威圧的で、やはり林は自分の本音を隠そうとしてしまうが、どうしても心の奥底で色んな人たちの思いが浮かんでくる。
普通の人間である林豊は他人の気持ちが分かるのだった。だから、何もせずにここでしゃべくり漫才を終わらせるという選択を取ることは難しかった。
それと同時に、しゃべくり漫才にこだわっていた松野健からその言葉が出てきた意味も分かった気になっていた。そこには覚悟があるはずだから、ちゃんと向き合わなければならないとも思っていた。
中途半端なところで迷っていた林はカフェラテを飲んだ。そして、松野に「何か頼もう」、と、関係ないことを言った。このままでは解散になるかもしれないと思ったからだ。二人とも、解散のことを気にしていた。
ここを瀬戸際だと考えているのはどちらもそうだった。二人とも、先輩芸人が揉めて解散するところをそれなりに見てきた。
奢ることになっている松野は何も頼まず、林が頼んだサンドウィッチを少しだけ貰うことにした。この店のサンドウィッチは小さなものが四個入っているので、それで良かった。満腹になりにきたわけではない。
松野健はサンドウィッチを注文した林のことを不思議だと思う。この場において何かを食べようとすることが不思議だった。が、そもそも自分には人の気持ちが分からないという認識がある松野はそれをすぐに考えなくなる。
どうせ分からないから考えても無駄だと思っていた。実際、松野健にとってそれは無駄だったが、だからといって何も考えないということが正しいわけでもない。
他人の気持ちを考えるということに慣れなければならないのに、それを放棄してしまうのはあまりにもゲム的だった。自分の考えに固執している彼は、ゲム的になっていた。浮かされているのだった。
完全にゲムに支配されていると言っても過言ではない。だからこそ、コーヒーを飲む動作ですら圧があり、とてもではないが、普通に同席していられるようなものではなかった。それでも一緒にいる相方。
食事が来るまでの間は返事をするつもりがない林。明らかに違和感がある状態なのに、それを受け入れてしまっている松野健。普通に考えればおかしなことが起こっている。それを察知することはない。
林は返事をしたがっていない。ということは、しゃべくり漫才に未練があると考えるのが普通だ。中々受け入れがたいことを言われていると考えるのが普通だ。
が、松野はそれをしない。そういう風に考えることはなく、自分の中で決まっている事実のようなそれを林に押し付けるだけだった。考えを変えるということもなく、そうするだけだった。
厄介なのは、別にそこに覚悟があるわけでもないということだ。単に、自分にとって一番良さそうな選択をしているというだけであって、それが一番でないと分かったらすぐに変えてしまえるほどの選択でしかなかった。想いがあるわけではない。
俺たちの元にサンドウィッチがやってきた。ハムとレタスとチーズが挟まった、ベーシックなサンドウィッチだ。食べようと思っていたが、実際に目の前に来ると食欲が無くなった。その理由は簡単だ。
非常にシンプルなそれからはマスタードが見えた。俺はマスタードの香りが苦手なので、それを食べるのを止めることにした。ここのサンドウィッチを頼むのは初めてだった。
「それ、食べていいよ。マスタード苦手だから」
「そう。分かった」
一言告げると、コーヒーを飲む。このままではこのカップの中身が無くなってしまいそうだ。そうなる前に話が終わった方が出費が少なくなってありがたい。
どうやらいつもよりもハイペースで飲んでいるらしい。特別喉が渇いている感覚があったわけではないので、純粋に緊張している、もしくは、疲れているということなのだろう。これを見るまでそれに気付かなかった。
俺は自分のことも分からない。だから、自分が緊張している、だとか、疲れている、だとかをこういった客観的な指標を理解しなければならない。
コーヒーが減っているということは俺も異常な状態にあるということだ。それならば、何かしらの形で心を落ち着けなければいけないわけだが、それをするためにコーヒーを飲んでいるわけだから、結局のところはなんにも問題なんてないような気がした。例のごとく、そういう気がしているだけだろう。
自分が無自覚的に感じていた疲労感を無自覚的に取ろうとしていた俺がいる。無意識というのがキチンと機能してくれているのはありがたい。そこまで考えなければならなくなると、俺はもうどこにも行けなくなる。
ただでさえゲムに支配されることで疲れるのだ。自分ではなくて、ゲムによって動かされることは非常に疲れることなのに、それに加えて自分の無意識までもがダメになったらどうすればいい。
そんなことになったら俺はもうアルバイトすらできなくなる。そんな自分になったらどうにも生きていけそうにないと思うが、それはそれで何かしらの形で生きていくことになる。人生なんてそういうものだ。
別に福祉に頼ることを悪いことだとも思っていない。本当に生活に困ってしまったら、生活保護でもなんでも受ければいいのだ。そう考えれば崖でもなんでもない。
本当は、俺は安全な場所に居るのだが、自分で崖まで歩いていっている。そして、そこで、奇妙にも「危ない、危ない」、と、馬鹿みたいな演技をしているのだ。
お笑い芸人ならばそれでもいいかもしれないが、誰も見ていない以上は好くない。俺は自分の滑稽さすらもネタにすることができるようになるのか。自分のダメな部分を笑いにすることができるようになるのか。
そもそも笑えないような特性というわけでもないだろう。今の俺は馬鹿みたいな俺のことを笑うことができる。それを他の人間にまで広げることはできるのだろうか。みんなにも笑ってもらった方が気持ちは楽だ。
できなかったとしたら、自分が自分だけと向き合わなければならないということになる。そんなことになったら面倒だ。他人にも自分を背負わせてしまいたい。
「あのさ。やっぱりしゃべくり漫才でやらないか?」
「え? どういうことだ?」
「松野さん。俺、もうちょっとだけこのままでやりたいよ。もしも、ボケとツッコミを変えるとネタが思い付かないっていうなら戻してもいいからさ。俺は前みたいにしゃべくり漫才で、もっと日常会話みたいな形で漫才師として成功したいよ」
「そうか」
俺はいきなりそんなことを言われて驚いた。林はサンドウィッチを食べていた。だから、食べ終わるまでは何も言われないと思って自分の世界に入っていたが、大事な話をされてしまった。
それに、その内容は俺が言ったことに反対する言葉だった。林がそんなことを言ってくるとは思っていなかった、わけでもないが、きっと賛同してくれると思っていた。いつも賛同してくれていたからだ。
どうしてそんなことを思うようになったのか。てっきり林は俺に付き合っている、俺のくだらないこだわりに付き合っているだけなのかと思っていたが、実際はそうではないのかもしれない。
俺が思っていた以上に俺が作ったネタを愛してくれていたのか。そうだとしたら嬉しいが、そうだとしたら困ってしまう。そんなことを言われたらどうすればいいのか分からなくなる。
俺は、アンドウの二人からのアドバイスを聞いた結果、こうして、しゃべくり漫才を辞めようと提案したのだ。それが、林のアドバイスを聞くならばこのまま続けることになってしまう。
どちらのアドバイスを聞けばいいのかなんて明白だ。芸人としての才能はどちらにもあるが、さすがに林の才能がアンドウの才能を勝っているとは思えない。
となると、やはり、ここは多少無理を押したとしても、しゃべくり漫才を辞める道を選んだ方が特に決まっている。林をなんとか説得する必要があるのか。
二つ同時に不意を食らった俺は驚いていた。サンドウィッチを食べていた林が話しかけてきた衝撃。その内容が俺が思っていた返事ではなかったという驚き。
どうすればいいのか分からない。そんな俺は空返事になってしまう。どこか宙ぶらりんな返事をしていただけの俺はまた口を開いた。
「でも、アンドウの二人はその方がいいって」
「俺たちのことだろ? 俺たちで考えようぜ」
「そうだけどさ」
「きっとそんな真剣には考えてくれてないよ」
「そうか?」
「そうだよ。だから、俺たちは俺たちのやり方でいいじゃん。だって、そもそもあの二人は俺たちのことなんてなんにも知らないんだぞ? それなのに、どうしてそんなに信じないといけないのか俺には分からない。俺たちで選んだ方がいいよ」
「でも、俺も俺なりに考えたんだ」
「もしも前みたいなネタが書けなくなったっていうなら、それはもう」
「それはもう?」
「解散した方がいいかもしれないな。俺はしゃべくり漫才で、『順風』っていう名前をみんなに広めたい」
「そうなのか」
なんだ。俺以外の人もこだわりを持っていたりするんたな。俺はとにかく意外だった。「解散」というワードを出してまで、しゃべくり漫才にこだわっている林が奇妙に思えた。今まで話してきた人間とは違う風に見えた。
どう考えてもそこまでしなければいけないこだわりではない。解散をしてしまったら、事実上の転職だ。他の誰かと漫才をするだけの気持ちは残っていない。
林の才能に気付く前だったらそういう可能性も残されていたかもしれないが、今となってはここから逃げるなんてことは考えられない。自分でも恐ろしいほどに林のことを信じていた。
恐らく、俺が前までのこだわりを捨てられた理由もそれだ。新しいこだわりができたことによって、前までのしゃべくり漫才というこだわりがどうでもよくなっていたのだ。そう考えた方が良さそうだ。
「そうなったら俺は芸人を辞めるよ。林はどうするんだ?」
「……松野さんが辞めるなら俺も辞めるよ。他の人のところじゃ、今みたいなネタはできないだろうしさ」
「そっか。なら、続けるか」
「え? 続けてくれるの?」
「林がそこまでこだわっているとは思ってなかったから。そこまで言ってくれるなら、俺もこのままでやってみることにするよ。別にネタなんて書こうと思えば書けるしな」
「書こうと思えば?」
「俺は林のボケを見てワクワクしたんだ。だから、書こうと思えばいくらでも書けるよ」
「そうなのか。そうだったのか」
「アンドウの二人には申し訳ないけど、このまま頑張ってみるか」
「そうしようか。松野さん」
松野健と林豊の話し合いは丸く収まった。本来ならばもっと揉めてもおかしくなかったが、思った以上にネタが愛されていたことを知って勝手に自信が甦る松野。
彼にも感情はあるので、自分のことを肯定されるととても嬉しくなる。その肯定感で、ここに来るまでに決めていた『しゃべくり漫才を辞める』という結論を納めることができた。自分勝手な結論を引っ込めた。
本当はネタなどもう思い浮かばないのだった。それでも、その期待に応えたいという一心で、「ネタなんて書こうと思えば書ける」、と、強がった。
これで二人の方向性が完全に定まった。それによって向かうべき場所が明確になったのだ。どこへ向かうのかなんて誰に言われなくても分かるようになった。
ゲムに解放されるということは、そういうことだ。あくまでも人の意見は人の意見でしかない。が、ということは、人の意見は人の意見であるということだ。
他人の意見に耳を傾けることができなくなっても、人間としてはダメになる一方だ。しかし、他人の意見しか自分の指針が無くなるのも人間としてダメになる道だ。どちらを選んでもダメなのだ。
結局のところ、大事なのはその意見をそれなりに受け止めるということだ。それだけが真実であると考えるのではなくて、それも考慮した上で自分の意見を最優先に動くということ。それなりに受け止める。
自分の意見を最優先にした結果、松野健は、相方である林豊のネタへの愛情を信じることにした。意見ではなくて、愛情を信じているのだ。愛してもらったことに感謝を返したいと思っているのだ。
ネタの方向性が定まったらやることは一つだけだ。YouTubeに自分たちのネタを投稿するということだ。そうすることによって、ようやくしっかりとした形を世の中に残すことができる。
形が残ることでそれが期待されるようになる。その期待に応えるために、同じようなものを提供し続ける必要がある。同じようではあるが、よりクオリティが高いものを提供しなければならなくなる。
そういう壁を乗り越える必要がある。ファンからの期待に応えなければならない。それができなくなった瞬間が、本当の意味での終わりなのだ。その終わりがまた新しい始まりを生むのかどうかは本人たち次第。
話が終わったことで安心をした林は美味しそうにサンドウィッチを食べる。それを見て羨ましいと思った松野は、四個あったサンドウィッチの内一つを食べてみることにした。「食べてみたい」と言った。
意外な提案に、意外そうな表情をする林。しかしながら、すぐにその提案を受け入れ、最後に残っていたサンドウィッチを松野に食べてもらうことにする。
松野健は、サンドウィッチを食べてみるも、そのマスタードの味はどうしても苦手だった。が、きっとこれからも何度かマスタードを食べ、いつかはその味を克服するのだろう。そうなるはずだ。
林は「美味しい?」、と、松野に聞く。無表情でそれを食べていた彼は「美味しい」、と、返した。そして、少しだけニコッと笑った。
ゲムに浮かされていたらこんなことはできなかった。苦手なマスタードが入ったサンドウィッチを食べようとすることも、それを食べて(不味い)と思ったのに、「美味しい」と嘘をつくことも、ゲムに浮かされている状態ではできないことだ。
いつの間にかゲムによる問題が解決しそうになっている。そのきっかけがなんだったのかは非常に曖昧で、本人ですら覚えていないことではあるが、とても大きな問題が解決に向かおうとしている。
ようやく成功への道を歩き始めた松野健の道はまだまだ続いている。道というのは常に死ぬまで続いているものなのだから、それは間違いなくその通りなのだが、それでも、成功という一つのゴールへ向かう道を歩き始めたのは確かだ。
どこまで行けるのかは本人たちには分かっていない。誰にも分かっていない。が、それでも、前は歩いていなかった道を歩いているのは確かだ。
サンドウィッチを完食した二人は喫茶店を出た。そして、すぐに別れることになる。二人とも本音のようなものをさらけ出したことで恥ずかしくなっていた。
別れる直前、照れている二人を太陽が、薄暮とも言えるような薄い、低い空にある太陽が照らす。影は長く延び、世界は見慣れない色になって、世界を黒とオレンジに染める。濃い黒があちこちに広がる。
二人とも、違う道を歩きながら、それを(美しい)と思っていた。綺麗なものに触れると、自分という存在すらも洗われるような気がする。そういうようなことを、誰もが考えるようなことを二人も考えていた。
お笑い芸人として、一本の筋が通ったような感覚があった。それを軸にして、どんな問題があったとしても、そのまま進み続ける。どれだけの犠牲を払ったとしても、覚悟を元に前へと進んでいく。
先に行ければそれでなんでも良かった松野健はしっかりと前に進んでいた。しかも、それは悪い形ではなくて、とても良い形で進んでいるのだった。
どこにも問題などない、ひたすらに光が照らしている眩しい道。その眩しさによって目が潰されそうになっても、それでも、前に進む。
逆に、世界の闇の中で絶望しそうになっても、それでも先へ進む。進まなければならないし、進むと決めたから前に進むのだ。どこまでも純粋に世界を歩く。
純粋であるものは美しい。だから、二人はずっと心を洗われながら世界を歩く。そこに何か障害があったとしても、何も関係がないみたいに、未来、明日へ向かう。
暮れる空を見て、明日の空のことを思う。明日が晴天だろうが、曇天だろうが、なんであろうが進むのだ。それしかすることがないから、進むしかないのだ。




