第96話 合流
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「一時はどうなるかと思いましたが、無事に追いつきましたね」
空が淡い赤い色に変わってきたころ。宿屋が並ぶ大通りから一本西に入った小道で、エレインがランプの揺らめく光を眺めながらイグマンにそう言った。
イグマンが予想した通り、兄弟たちは女護衛士たちに連れられ北のほうへ向かい、あと五キロもすればトレントの町に入る地点まで来ている。日没までまだ時間に余裕があるが、女護衛士らは早めに宿を取ったようで、すでに建物の中に入っていた。場所は、イグマンたちがいるところから死角になっている宿屋である。
馬の世話を終えたイグマンが、「まあ、何とかな」と疲れたような声で答えると、視線を大通りが見える東側の道の先に向けた。
ソルドーの宿屋から出て四時間が経つ。
空は明るいが足元は確実に暗くなっており、大通りを通る商人や旅人の姿もまばらだ。
暗闇の中を移動するのは危険であるため、できるだけこの辺りで宿屋を取り一夜を明かすのが無難だろう。
「どうかしたんですか?」
エレインがイグマンの声に敏感に反応し、不思議そうに尋ねた。
「いや……」
何でもない、と言いかけたところだった。彼らの前に二人組の男が近づいてきたのである。
「そこで何をしているの?」
気配に気づかなかったエレインたちがはっとして、イグマンを守るようにして立つ。すると、相手の一人が持っていたランプを掲げて、「イグマンさん、お久しぶりです」と言った。
イグマンに挨拶したほうは背が小さく、少年のような快活さがあり、茶色の短い髪をしている。
もう一人は彼よりも頭一つ分背が高く、すらりとした体型をしていた。短い黒髪はさらさらとしており、温顔な顔立ちをしている。
その姿に見覚えがあったイグマンは、エレインとアベルの間を割って彼らの名を呼んだ。
「リルとセレイラか……。久しぶりだな。元気にしていたか?」
「ええ。以前にお会いしたときと変わらず元気にしておりますよ」
するとイグマンが「そうか……」と呟く。それからもいくつか世間話のような話をするが、イグマンは中々彼らが何故ここにいるのかを尋ねない。
そのためエレインが会話に割って入り、代わりに訝しげな表情を浮かべながら理由を問うた。
「お前らどうしてここにいるんだ?」
すると背の低いリルのほうがにこりと笑って答える。
「もちろん、エレインたちと同じ理由だよ」
「相変わらず俺に対しては敬称なしなんだな。年上に敬意も払えないのか」
エレインから見ると、リルとセレイラは三歳年下の二十三歳である。
そのため態度を改めるように言ったが、リルは澄ました顔で「敬意を示すにふさわしい人にはちゃんとしますよ」と可愛げのないことを言った。
スビリウスは役職以外は、勤続年数が長いほうが立場も上になる。
リルとセレイラはエレインよりも一年早くスビリウスの仕事をしているので、彼に対して強気の態度なのだ。
エレインがスビリウスの仕事を遅く始めることになったのは、ぎりぎりまで育ての親であるイグマンが渋っていたからでもある。それを分かっているので、エレインは喉まで出かかっていた文句を飲み込んで、リルに改めてここにいる理由を尋ねた。
「……まあ、いい。兄弟を追いに来たのか?」
「そういうこと。それでね、提案なんだけど手を組まない?」
にこにこと笑うリルに対し、エレインは眉を寄せた。
「……は? 何を言って――」
「俺たちは兄弟の回収はどっちでもいいんだ。それよりも女と戦いたい」
「何でそんなことになるんだ」
エレインの疑問に答えたのは、セレイラのほうだった。
「追っていたときにこっちの気配に敏感に気づくくらいだし、相当強いなと思って戦ってみたいんだよ」
イグマンを始め、エレインたちもリルとセレイラと一緒に仕事をしたことはなかったが、彼らが「戦いに執着している」ことはスビリウスの間の噂で知っている。オブシディアンの本部を攻撃した際にも参加していたようで、よっぽど血なまぐさいことが好きなのだろうなとイグマンは思っていた。
「仕事は?」
重要なのは兄弟を取り戻すことだ――とエレインが暗に言うと、リルが笑って言った。
「だから、さっきも言ったでしょう? それは君たちに任せようと思ってさ。つまり手柄は渡すから暴れさせてってことなんだよ。悪い話じゃないと思うけどな。——どうです? イグマンさん」




