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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第六章 

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第92話 出発

     ☆


 アレクシスが買い物を済ませて戻ってくると、すでに時刻は午前十一時になっていた。

 道にずらりと並び、朝市として商売をしていた人たちの姿ももうない。そのため、昼は外の食事処で軽く済ませると、ソフィアたちはてきぱきと準備をして、出発の用意を済ませた。


「ユーイン、アルフィ、忘れ物はないな?」


 ソフィアが尋ねると、ユーインとアルフィがもう一度部屋の中を隅々確認し、それぞれがしっかりとうなずく。


「はい」


「大丈夫です」


「よし。じゃあ、行こうか」


 少しの間だけお世話になった部屋を出て、ソフィアたちは宿屋の外に出る。

 アレクシスが受付のフォンランに馬のことを話すと、すでに二頭の馬が用意してあり、いつでも出られるようにしてあった。体格のしっかりとした元気そうな馬である。

 ソフィアは彼に礼を言い、一頭の手綱を手にすると馬にも挨拶をしてから、ユーインを呼んだ。


「ユーインは、私と乗るよ」


 するとユーインは、はっとしてこちらを見る。どうやらソフィアがフォンランと話している間、アルフィと一緒に空をあおいでいたようだった。


(青空の下に出るのは、久しぶりなのだろうな……)


 ソフィアのほうに駆け寄ってくるユーインを見ながら、ソフィアはそんなことを思う。

 これまでも闇取引オウルス・クロウの景品になった者や、競売の商品になってきた人々を助けてきたことがあったが、彼らの多くもようやくあの世界から抜けだせたときに、朝日や青い空に心地よさを感じたり、感動したりしていた。


 ソフィアは、スビリウスにとらわれていたときのことについて、詳しいことを聞いたことはない。

 だが、外から見られないようにするために、窓があってもカーテンがかかっている部屋などに入れられていたことは容易に想像ができる。


 そのような状態にあったら、青い空の下に出れることへの感動は一入ひとしおだろうと思う。

 その一方で、不自由の身から解放された感動を十二歳程度の少年たちが感じなければいけない現実に、ソフィアは複雑な気持ちを抱かずにはいられなかった。


「すみません」


「いや、大丈夫だよ。先に乗ってくれる?」


 考えていたことは心のうちにしまい、ソフィアは笑顔を向ける。


「はい」


 ソフィアが指示をすると、ユーインが慣れた手つきでくらに座った。

 彼がしっかりと座ったのを確認すると、ソフィアもその後ろにまたがる。


「ジェームス、いいかい?」


 部屋の外に出たので、再び偽名になる。少なくともあと五日間はこの呼び名を使うことになるだろう。


「いいよ、レイグス」


 同じように偽名で返してきたアレクシスに、ソフィアはうなずくと、太ももで馬に指示を出した。馬はそれを的確に受け取り、常歩じょうほの速度で歩き出す。ソフィアの馬の後ろにアレクシスの馬が続き、四人を乗せた二頭は宿屋を出発したのだった。


 ソルドーからトレントへ行く道は、東と西に一つずつある。ちょうど泊まった宿屋の通りからすると西側のほうが近いので、ソフィアはそちらのほうへ向かって馬を勧めた。


(トレントまで、大体四十キロ強といったところかな。常歩で進むと、大体一時間で六キロちょっと行けるから、六時間くらいかかる計算だな。今の時期の日の入りは午後六時少し前。宿屋の予約を取っていないから、それを探す時間も考えると、動けるのは午後五時くらいまで。現在の時刻が大体午後一時を過ぎているから、ここから進めるのは四時間……。ぎりぎりトレントには入れないってとこかな)


 ソフィアは小さく折った真新しい町の地図を見ながら、大体の予想をつける。地図はアレクシスが先ほど買ってきたものだ。


(本当はトレントには今日着いて、そのあとの動きをゆっくりにしたほうがこっちとしては都合がいいんだよな。リョダリに連絡が付くのに半日かかる。合流地点はこっちで決めるにしても、応援が来てくれるには一日か二日くらいかかるだろうから、そう考えると知らせるのは早いに越したことはない。少し速歩も入れて早く着くようにしてみるか……?)


 そのとき、ふと前に座るユーインを見てみると、隣を歩くアレクシスのソルドーの町の話に聞き入っていた。アレクシスのことだから、二人の気をまぎらわせるようにしているのだろう。それが上手くいっているらしい。


 ソフィアは、その様子に微笑を浮かべる。


(まあ、今日はゆっくり行くとしますかね)

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