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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第五章

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第89話 無くした拳銃

 エレインはイグマンの顔を見て、きゅっと眉を寄せる。


「『あれ 』とは……?」


 「あれ」とは拳銃のことであるが、どうやらぴんと来ていないらしい。


(今朝宿を取って落ち着いたころは、エレインはまだ心ここにあらずの状態だったからな。上着を脱がせて手当をしたら、疲れたような、うつろのような状態でベッドに直行。よっぽどあの女の重い気配に当てられたんだろう。まあ、それで俺が代わりに上着を片付けていたら、拳銃が無くなっているってことに気づいたんだが……)


「まあ……、まあ、まあ。とりあえず部屋に戻ろう」


 イグマンはエレインの肩を抱くと、宿屋の受付所を出入りしている人たちをよけながら、階段を上って自分たちが泊っている部屋へ戻った。


「おかえりなさい、イグマンさま。どこまで行っていたんですか?」


 アベルが部屋に入ってきたエレインとイグマンを見て尋ねる。

 部屋の中央にあるテーブルにはお茶を入れる道具などが一式(そろ)っていて、アベルとヨハンは椅子に座り入れたばかりのハティルを飲んでいるところだった。お陰で部屋にはハティルの爽やかな香りが広がっている。


「ちょっと外にいたんだ。——エレイン、『あれ』と言って分からなかったようだからはっきりと言う。拳銃を無くしただろう?」


 するとエレインはゆっくりと目を見開き、先ほどまで眠っていたベッドに早足で向かう。枕元に置いてあった昨日着ていた黒くて丈の短い上着を持ち上げると、彼は一度動きを止めた。


 拳銃は重い。


 そのため、上着を持っただけであるかないかエレインには分かるはずである。


 だが、信じられないと思ったのだろう。

 自分の感覚が嘘であることを確かめるかのように、胸ポケットをさぐり、上着についているほかのポケットもまさぐった。

 しかし、出てこない。


 エレインは見るからに顔を青くする。


「……申し訳ありません。あの女との戦いで銃を落としたことは気づいていたのですが、そのあと色々なことがあって忘れてしまっていました。私の不覚です」


 彼は手にしていた上着を素早く羽織り、ドアに向かって走り出した。

 だが、イグマンは彼の右腕を掴んで止める。

 そのときだった。エレインが顔を引きつるようにゆがめたのである。


「痛っ……!」


 イグマンはすぐにエレインの右のそでを捲り上げた。手首の辺りが赤黒くなっている。


「お前、この怪我……!」


「大したことはありません。放してください。捜しに行ってきますから」


 エレインはそう言って、手を放させようとする。無理に引き抜かないのは、思ったよりも痛みがあるからだと思われた。イグマンはそれを見越して、彼が痛いことが分かっていながら少し強く手首を握る。


「暴れるともっと強く握るぞ。——アベル、悪いが濡れた布を用意してくれるか?」


「大丈夫ですから、放してください」


 エレインの言葉を無視して、アベルはうなずく。


「分かりました」


 アベルはベッドの傍に置いてあった自分の荷物から布を取り、水差しを持って洗面台のほうへ行くと布を濡らした。洗面台の水を使わなかったのは、念のためきれいな水を使ったほうがいいと思ったからだろう。


「イグマンさま、どうぞ」


「ありがとう」


 イグマンは布を受け取ると、エレインの痛々しい手首にそれを当てた。エレインは少しだけ顔をしかめたが、それ以上は反応を示さず、ただ「私は大丈夫ですから。とにかく、捜しに行ってきます」と繰り返した。


「エレイン、落ち着け」


「ですが!」


 珍しく慌てているエレインに、イグマンは彼の茶色い瞳を見、柔らかな声でもう一度「落ち着けって」と言った。それがいたのか、エレインの動きが止まる。だが、顔はまだ納得していない表情を浮かべていた。


「ここまでに来る道中も、セレレインの森の中も、エレインが寝ている間にヨハンと見に行ったんだよ。だが、なかったんだ」


 イグマンの説明でエレインの捜しに行こうとする勢いは消えたようだったが、佳麗かれいな顔には苦悩が広がっていた。


「それじゃあ……」


「誰かが持ち去ったということだろう」


「……申し訳ありません」


 とんでもない失態を犯したと思っているのだろう。エレインの声はひどく沈んでいる。対峙した相手が上手うわてだったとはいえ、普段自信満々の彼がここまで落ち込むことはない。

 イグマンはエレインの左手を取ると、自分で濡れた布を当てるようにさせる。そしてイグマンは空いた手で、部下の背を優しくでると首を横に振った。


「謝るのはこっちのほうだ。相手が格上であることを考慮しなかった。借馬屋で男五人が女にやられたのを聞いていたとはいえ、俺たちが同じようにやられることは考えていなかった。怪我をさせて悪かったな、エレイン。アベルも」


 イグマンがアベルのほうを見ると、彼は「私は大丈夫です。気にしておりません」と笑った。

 だが、エレインは大きく首を横に振る。


「謝るのでしたら私のほうです。後ろを付けられていたことが分かっていたのに、振り切れませんでした。もし森まで追いかけられていなかったら、このようなことにはなっていなかったと思います」


「それぞれ反省はあると思うが、まあ、これくらいにしておこう。過ぎたことを悔やんでも仕方がない。それより、エレインの拳銃の行方だ。もしかすると、女が持って行った可能性がある」

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