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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第五章

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第85話 追手の利用

「いいの? 十年前のこともあるのに……」


 辛い記憶があるからこそ、闇取引オウルス・クロウへの潜入も渋っていたのだ。


 昨日の今日で何か変わるとは思えないのだが、ソフィアはユーインを見るとふふっと笑った。これまで黙って話を聞きながらクプタを食べていたユーインとアルフィは、きょとんとした表情を浮かべる。


「それはユーインたちを見て吹っ切れた。もう引きずる時期は過ぎたなって」


「本当に? 無理をしているわけじゃない?」


 アレクシスは心配で質問を重ねる。

 だが、ソフィアの心は決まっていたようで、「うん」とうなずいた。


「無理はしていないよ。だから大丈夫」


「それならいいけど……。でも、リョダリはどうする? 説得できるのか?」


 ソフィアが協力的になるのはいいが、リョダリはそうはいかないだろう。

 そう思っていると彼女は肩をすくめ、あっけらかんと言った。


「どうなるかはまだ分からないけど、少なくともはフィリウスは反対しないよ。だから一族で見るかどうは別としても、我が家にはユーインたちを置いておける」


 アレクシスは久しぶりに聞いた友人の名前に、表情をゆるめた。


 フィリウスとは、ソフィアの夫の名である。

 ソフィアを始めリョダリの者たちは血気盛んな印象だが、彼はそうではない。

 体つきもアレクシスよりも拳一個分背が高いが、特に筋肉質というわけでなく、普段は無精ぶしょうひげを生やした、子どもに優しくやわらかい雰囲気をまとった人だ。


 そのため他のリョダリの男たちと並ぶとなよなよとしているので、何故ソフィアと結婚したのか、リョダリを頼る商人たちはもちろん、部族の中にも不思議に思っている者たちは多い。


「フィリウスさんがいるのは助かる……」


「それと、もう一つ」


 ソフィアは人差し指を出して、今度は意地悪そうな表情を浮かべる。

 何か嫌な予感がするなと思いながら、アレクシスはその考えを尋ねた。


「な、何……?」


「追ってきているのは、スビリウスの連中だろう?」


「うん」


「リョダリの土地の近くまで引き付けて、とっ捕まえようと思うんだ」


 その瞬間アレクシスはぎょっとした。


「……今、『とっ捕まえる』って言った?」


 確認するように尋ねる。聞き間違いでありますようにと思ったが、ソフィアは短く肯定した。


「言った」


 わざわざ自分のほうから危険を冒すようなことをする必要はない。

 そういう意味でアレクシスは「冗談でしょ」と半笑いする。しかし、ソフィアは反論した。


「本気だ。いいか、アレクシス。追手をくには、最後の終着地を見せないようにしなければならない。それは分かっているだろう?」


 戦うことに慣れているリョダリの地へ行けばユーインたちの安全は確保される。さらに欲を言えば逃げる場所は明確にしないほうが、より安全であるとソフィアは言っているのだ。


「うん、分かっているよ」


「問題は、手こずる相手かもしれないという点だ。夜明け前に私が対峙した四人は、スビリウスが雇ったりすぐりの者たちであると考えたほうがいい。それに今朝は四人だったが、もしかすると他にもいるかもしれない」


「そうなのか?」


 心配そうに尋ねるアレクシスに、ソフィアは「仮定だ」と言ってから言葉を続けた。


「今のところはあの四人だけだ。だが、途中で増えないとも限らないだろう。そうなったとき私一人が逃げ切るなら何とかなるが、ユーインとアルフィを連れてとなるとリョダリの地に逃げ込んだことを隠すのは難しくなる。もちろん、私たちが住む土地にユーインとアルフィが入ったことを相手に知られたとして、何かしら攻撃があったとしてもこっちは対処できる自信はあるが、できるなら知られないほうがいい。面倒だからね。そうならないようにするには追手を殺すか捕まえるしかないが、私は無駄な殺生が嫌いだ」


「知っているよ」


「だから、捕まえようと思う」


 ソフィアの主張に、アレクシスは眉を寄せた。


「でも、捕まえてどうするの?」


 すると彼女は、さも当たり前のように答える。


「役に立つところがあるじゃないか。『ユーインたちを連れ去った者たち』にすればいい」


 アレクシスははっとした。

 今、ユーインたちは「誰に連れ去れたのか」ということが問題の種になっているが、スビリウスが放った追手を捕まえて「実行犯」にすることができれば、関係のない犯罪者を「実行犯」として仕立て上げるよりも安全だ。


 その上、「実行犯」として公表すれば、「スビリウス」のことはまだ公にはできなくとも、「実行犯」を動かした後ろの組織のことも市民に知らしめることができる。


「なるほど……」


「実行犯ではないかもしれないが、スビリウスの連中であることは確かなんだ。何か取引する材料でも出せば、追手の奴らに言うことを聞かせることもできるし、スビリウスの内部情報を手に入れることもできるかもしれない」


 アレクシスはうなずこうとしたが、ふと気になったことがあり、あごでて考える仕草をした。


「どうかしたか?」


 返事をしない彼に、ソフィアが尋ねる。


「そう上手くいくかな……と思ってね。追手の奴らを捕まえたとしても、こっちの話を聞くとは限らないじゃないか」


「まあね。だが、捕まえたほうが何かしらの役に立つと私は思うね」


「上手く捕まえたとしても、スビリウスを守るために自害するかもよ?」


 闇取引オウルス・クロウを常に成功させているということは、組織の上下関係が統制されているということである。どのようにして従事している者たちを操っているのかは分からないが、上の命令に忠実に動いているということだろう。そう考えると、捕まえた途端に途端にスビリウスのことを知られないような行動をするのではないかとアレクシスは思ったのである。


 すると、ソフィアは笑みを浮かべながら目を細め、冷たい視線を寄こした。こういう顔をすると、ソフィアはやはり戦いに慣れた人なのだということをアレクシスは実感する。

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