第83話 ソフィアの提案
(長年一緒にいる使用人ですら気づかなかったのに、ソフィアには全て見透かされているな……)
アレクシスは小さく息をつく。
ソフィアには、上手くやろうとしているように見せたり、できないかもしれないと思っていながら突き進んでいることを隠したとしても、あっさりと見抜かれてしまう。それは昔から変わらない。
彼はユーインたちを見ないように気を付けながら、思っていることを白状した。
「……実を言うと、ソフィアが言った話は私も考えていたことなんだ。闇取引に関して活動するのは、本当はもう少し準備が整ってからにしたかったんだけれど、ユーインとアルフィの話を聞いていてもたたってもいられなくて……。だからといって、すぐに頼れる場所を作れるわけじゃないから、グロリア家で全て抱えるしかないと思ったんだよ。父が侯爵だったときは良かった。もちろん当時もあまり横のつながりはなかったけれど、貴族以外の出身の部下が多かったからね。彼らの伝手を頼ることもできたし、それが逃げ道を作る手立てになった。だけど、今の私には闇取引に潜入できる部下や、スビリウスと戦うための仲間がいない。本当にグロリア家を支えている使用人たちしかいないんだ。だから、さっき言ったような計画を立てるしかなかった」
するとソフィアは呆れたようにため息をつき、テーブルに頬杖をついた。
「そんなことだろうと思ったよ。アレクシスの気持ちは分かる。だが、何でも自分でやろうとするからこんなことになるんだ」
「ごめん……」
ソフィアにぴしゃりと言われたが、アレクシスは全く腹は立たなかった。
彼女が言っていることが的を射ていると言うだけではない。彼女は本来深入りしなくてもいいはずのグロリア家のことを心配して、アレクシスに敢えて尋ねたのである。
どうでもいいと思っていたなら、彼女は何も口を挟まずに黙って力尽くで「アレクシスの計画」を成功させようとしていただろう。
はっきりとした物言いはするが、そういう優しさがあるところもソフィアのいいところである。
「いい。気にしてはいない」
ソフィアはもう一度ため息をつき、頬杖から顔を離す。そして「提案なんだが」と真剣な瞳を向けてアレクシスに言った。
「何?」
「グロリア家が用意した屋敷に向かうのも難しいなら、ユーインたちとともにリョダリの地に向かうのはどうだ?」
冷静なソフィアに対し、アレクシスは驚きと心配が入り混じった表情を露わにする。
「本気?」
眉を寄せて聞き返すアレクシスに、ソフィアは変わらない口調で答えた。
「冗談でこんなことは言わない」
はっきりと言い放つ彼女に、アレクシスは言い淀んだ。
「だけど……」
(ユーインとアルフィをリョダリの地に連れて行くということは、否応なしにジェレミア伯爵家と関りを持つということだ。今は、ソフィア個人にお願いをして護衛を引き受けてもらっているけれど、あの小さな部族にユーインたちを入れたら事情を話さないわけにはいかない。そして、事情を話してしまったら、無関係ではいられなくなる。ソフィアは……昔からそれが嫌だった。だから、父が……先代のグロリア侯爵と共に闇取引に潜入捜査に入って仕事をしていたときも、独断でやっていたんだ。リョダリには迷惑を掛けないようにするために……。そして彼女はリョダリの族長になってからも、王家派の貴族とも一線を引いてきた。一番良好な関係だったグロリア侯爵家とのやり取りが「訪問」から「手紙」に重きが置かれるようになったのも、それを示すためのものだったはず。どうして……)
アレクシスが瞳を揺らし、ソフィアのことを心配そうに見つめる。だが、見られているほうは不愉快だったのか、ふいっと視線を逸らして素っ気なく言った。
「言いたいことがあるのだろう。遠慮せずに言ってくれ」
ソフィアに言われ、彼は少し迷ったのち、思っていたことを言葉を選びながら口にした。
「いや、その……、リョダリはあまりセルディア王国の人間と関わらないようにしているだろう? だから、いいのかなって。それによそ者をあまり入れないのにユーインたちは貴族の子だし、君たちの家族がどう考えるのか気になって……」
心配事は色々ある。
だが、それを吹き飛ばすように「今更だ。アレクシスや君の家族が時折出入りしているだろうに」とソフィアは言った。
「そうだけど、それとこれとは話が別じゃないのかな……」
「まあ、確かに、闇取引のことは、私もあまり関わりたくはない」
「すまない……」
アレクシスの詫びに、ソフィアは首を横に振った。
「謝ってほしいわけじゃない。頭のどこかで、思っていたことなんだ。いつかはこうなる日は遅かれ早かれ来るんじゃないかってね」




