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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第五章

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第76話 エレインたちの朝

    ☆


 エレインは、シャッというカーテンを開ける音で目を覚ました。

 まばい光に目をしばたたかせると、窓の傍に白い長袖のシャツに、黒いズボンをいたアベルが立っている。彼がカーテンを開けたのだろう。

 ぼんやりと眺めていると、エレインが起きたことに気づいたアベルが、いつも通りの挨拶をした。


「おはよう、エレイン」


「おは、よう……」


 エレインはベッドから体を起こすと、ぼんやりと一点を見つめる。

 穏やかで暖かな朝日を浴びれば心地よくなりそうなものに、どこか嫌な気持ちが渦巻うずまいていて、「気持ちいい朝」とは思えなかった。


(何か忘れてはいけないことを、忘れているような……)


 するとカーテンを留めひもでまとめ終わったアベルが、エレインの前に立った。あどけない顔には心配するような表情が浮かんでおり、青い宝石のような美しい瞳は、エレインが大丈夫かを確認するように見つめている。


「どうした……?」


 普段はほとんど表情を変えないアベルだが、少し力を抜くような場所で仲間の前であれば、ちゃんと自分の感情を表に出す。

 つまりここは、アベルが感情を出すことのできる場所なのだとエレインは頭のすみで思いながら、自分より年下の青年の行動に小首を傾げた。


「耳は? 大丈夫?」


 アベルに聞かれて、エレインは最初何のことか分からず眉を寄せた。


 だが、アベルの右耳についていたガーゼを見て、今朝方けさがたに起きた出来事を一気に思い出した。そして、そっと自分の右の耳たぶに触れる。


 アベルと同じようにガーゼがついているのは、この宿に入ってすぐにイグマンが手当をしてくれたからだ。


 全てを思い出すと、エレインはうつむきしんみりとした声で「ああ……」とうなずいた。


「それならよかった。あとで消毒をしてガーゼを取り換えるから、お互いでやろうね」


 ほっとした声で、アベルは言う。

 エレインは耳から手を離すと、自分を気遣ってくれる年下の青年を見上げた。


「それはいいが、アベルの耳のほうは大丈夫か? 俺は耳たぶの下をかすっただけだったんだが、今朝は色々ありすぎて、自分の手当てをしてもらっているうちに寝てしまって……。気遣ってやれず、すまなかった……」


「謝ることはないよ。それに、傷はエレインとほとんど同じだから大丈夫。ひりひりとした痛みはあるけど、これまでに負ってきた怪我に比べたら全然大したことないよ。ただ――」


 アベルはそう言って間を置くと、苦笑して言葉を続けた。


「こんな手加減のされ方をしたことがないから、どちらかというと精神的にきつい……」


 それはエレインも同じである。

 しかも彼はセレレインの森に入る前から、追いかけられていた。自分では振り切れると思ったのに振り切れず、結局イグマンに頼ることになった。その上情けないが、何よりあの足にまとわりつくような重い気配を思い出すと、今も足がすくむ。


 スビリウスの下で散々危険な仕事をしてきたはずだが、こんなことは初めてでだった。


「……分かるよ」


 エレインがぽつりと呟くと、アベルがエレインが座るベッドの右隣に腰を下ろした。


「ねえ、エレイン」


「うん」


「エレインは、あの女のことをどう思った?」


「どうって……」


 あまり「あの女」の評価を口にしたくなかったが、仲間との情報共有は重要なことである。

 エレインは一度閉じた口を開いて、できるだけ何の感情もらないようにして答えた。


「『恐ろしい』と思った」


 体というのは素直なもので、女のことを口にすると体が強張こわばるのが分かる。エレインはアベルにさとられないように、見えないところで左手で拳を握った。


「そっか……」


「町から馬を走らせて、セレレインの森に入ったとき、俺は確実に逃げ切れると思ったんだ」


「うん」


「だけど、女は確実に俺の後ろをついてきた。それも一定の距離を保って。この耳を掠ったのもそうだが、何故あんな芸当ができたのか不思議で仕方がない」


「そうだよね。エレインか僕のどちらかが、皮一枚(かす)るなら偶然かなと思ったんだけど、二人とも右の耳たぶの下だもんね。あの人は相当な腕利きだよ。しあかもあの暗闇の中で撃ったんだから……」


 アベルは小さくため息をつく。

 その青息の中には、「これからどうしていくのか」を悩むような気持ちが込められているようにエレインには感じられた。そして彼も同じようなことを思っている。


(スビリウスには「兄弟を取り戻せ」と言われているが、護衛にはあの女が付いている。今朝は暗闇だったし、守るべき兄弟が傍にいなかったということも女にとって有利に働いたかもしれない。その一方で、あの暗闇で戦う度胸、耳たぶの皮を掠る程度のことができるほどの正確に撃ち抜く狙撃術、馬術も上手いと来た。つまりこちらが手を抜けば、奪還できない可能性があるということ……)


 そうなったとき、自分たちはどうなるのか。


「なあ、アベル」


「何でしょう?」


 エレインはゆっくりと息をはき出すと、今心に浮かんだことをアベルに問うた。


「今回の作戦、もしあの兄弟を取り返すことができなかったら、俺たちはどうなると思う?」

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