表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇夜の護衛  作者: 彩霞
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/85

第73話 十年前の過ち⑦——窓の外

「え、え? あの、これってどういう……」


 戸惑うエレナに、ソフィアは荒い息を抑えながら努めて明るい声で言った。


「このまま、下ります……」


「え⁉」


 彼女が驚くのも当然のことだ。

 だが、どうしてこの選択肢をしたのか、成功率はどれくらいなのかなどを話している暇はない。


(下りたらすぐに敷地の外に出て、待機している仲間に助けてもらわないと……)


 ぼんやりする頭で、ソフィアは何とか考える。


「とにかく……、しっかり、捕まって。私の手に、力が入りづらくなって、いるので、申し訳ないのですが、あなたの力をかしてください。ここは高いですが、大丈夫。何とかなります……」


 ソフィアは震える唇で言った。そして窓辺に足を掛け、顔だけ下をのぞく。

 この建物は表面がごつごつとした石を切り出し、それを積み重ねるようにしているため、出っぱっている石がある。それを利用し少しずつ手を引っかける位置を変えていけば、急激に落ちることにはならないだろう。


(最悪、一気に落ちたとしても、私の足の骨が折れるくらいで済むはず。まあ、意識が朦朧もうろうとしている状態で、しかも人を抱えてこの高さから下りたことがないから、何とも言えないが……)


 しかしやらねば殺されるし、エレナを残していけば彼女が酷い目にうことは目に見えて分かっている。

 ソフィアはエレナの腰の辺りを右腕でぎゅっと抱きしめると、「行きますよ」とささやいた。すると彼女もソフィアの背に回した手に力を込めると、ソフィアの右肩の辺りに寄りかかっていた頭を縦に動かした。「分かった」ということだろう。


(よし、行こう……)


 ソフィアは心の中で呟き覚悟を決めると、エレナの柔らかな髪の毛を頬に感じながら、窓辺から飛び出した。


     ★


「殺し屋の男?」


 ユーインが聞き返したので、ソフィアはうなずいた。


「そうだ。そして色んな得物えもの……、つまり武器のことだね。拳銃、剣、投げて使う薄い刃なんかを持っていたんだ。私はそれらの攻撃を避けたんだが、奴はエレナのほうにまで危害を加えようとしてね。守ろうとしたら、私は右の脇腹をざっくりやられてしまった」


 まずい状況に、ユーインが息を呑んだ。ソフィアは静かに話を続ける。


「しかも毒が塗られていたせいで、体も上手く動けなくなった」


「それで、どうしたんですか?」


 ソフィアはゆっくりと息をはきだすと、目をせて己のやるべきことを言葉にした。


「私の仕事はエレナを助けることだからね。何としても彼女をあの場所から連れ出さなくちゃいけなかった。それで、私は窓から飛び降りることを決めたんだ」


「ですが、三階ですよね?」


 ちらりとユーインを見ると、「あり得ない」という表情が浮かんでいた。

 確かにあり得ない。

 だが、リョダリという名の一族は、その体がセルディア王国の市民とは違うのである。「セレイアヌ」の外見が、この国の人たちと違うように。


「そうだ。しかしリョダリなら、それくらいは縄も使わずに難なく下りることはできる。体の作りが違うみたいなんだ。しかしそれは一人の場合であって、体もボロボロだし、エレナを担いでだから上手くいくかは分からなかった」


「それなら、どうして……」


 心配そうに尋ねる彼に、ソフィアは自嘲気味じちょうぎみに笑った。


「情けないことに、それ以上の最善策が思いつかなかったんだよ。頭と体がまともだったら、もっとマシな考えが浮かんだだろうし、ねばって戦うこともできたと思うが、それができなかった」


「あの、ソフィアさんたちは……無事に下に行くことができたんですか?」


 遠慮がちの問いに、ソフィアは「そうだね……」と呟き、一度目をつむり、再び開いてから答えた。


「下に行くことはできたよ。でも、エレナは私と一緒に窓から下りる寸前で、男の攻撃を受けてしまったんだ」


     ★


 ソフィアが窓から飛び出した瞬間だった。背中に何かが当たったような感覚がある。

 しかしそれを気にしている暇はなく、彼女は飛び降りた後に五度ほど外壁の凹凸おうとつを左手でつかんで、何とか下の草むらまで下りることができた。


「エレナさん大丈夫ですか?」


 ソフィアはすぐに建物の陰に移動して、エレナに尋ねた。彼女は強張こわばった笑みを浮かべてうなずく。無事に下りられるか心配だっただけに、恐怖から解放されて、表情が硬くなっているのだと思った。


「え、ええ……何とか」


「よかった」


「ですが、何かが刺さったようで、痛いです……」


 ほっとしたのも束の間、そう言った彼女の左手には、薄くて小さい刃が深々とさっていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ