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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第四章

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第69話 十年前の過ち③——作戦

 エレナをゲームで手に入れた伯爵には、妻と子どもがいた。

 人望があり、よく宗会しゅうかい(=教会のようなもの)などに金を寄付し、貧しい者たちに寄り添うような活動をしていたため、人がいいことで有名だったのである。


 だがそれは、彼の一面に過ぎない。


 伯爵は社会的地位を守るために、妻と子どもの前では立派な当主であり父親を演じなければならないが、自分のゆがんだ性癖を行いたい欲望もあった。それを満たすのに闇取引オウルス・クロウに参加していたのである。


(ああいう奴らがいる限り闇取引オウルス・クロウふところはいつでも温かく、一生消えない傷を背負う者が次々と生まれてしまう……)


 もしエレナが自らの意志で娼婦しょうふとなっていたなら、ソフィアも何も言うことはない。だが、彼女はそういう仕事を望んでいたわけでも、必要としていたわけでもない。


 それにもかかわらず、ただ「美しい」とか、「珍しい」とかそういうものによって価値を付けられ、腐った男のおぞましい欲求に応えねばならないことは、ソフィアには許しがたい行為だった。


「作戦はどういうものでしたか?」


 ユーインに問われ、ソフィアは不要な部分を省きながらも、状況を説明した。


「エレナは、伯爵に特別な部屋をあてがわれていてね。そこは彼の屋敷から少し離れたところにある三階建ての細身の建物だった。彼女はその一番上にある、鍵のかかる部屋に閉じ込められていた。逃げられないようにするためにね。そこまで分かったところで、私たちは夜中に彼女の部屋に忍び入って、助け出すことを考えた。……確か、新月に近い日のことだったと思う」


「夜なのは、どうしてですか?」


「暗くて周りが見えなくなるから、こっそり忍び入るには好都合なのさ。それに騒ぎがあったとして、私たちの姿が相手に見られることもないし、通行人のことも気にしなくていい」


「通行人ですか?」


「そう。伯爵がエレナを閉じ込めていたとしても、傍目から見れば彼の罪は分からないからね。伯爵の家に忍び込んだとなれば、間違いなくこちらのほうが悪者だ。だからできれば通行人に見られないほうがいいのさ。それに状況によっては拳銃で戦い出したり、剣を振り回すなんかすることもある。そうなると巻き添えにしてしまうともないとは言えないからね。だから、通行人がいないほうがいいんだ」


「なるほど……」


 そしてソフィアは、心の中で付け加えた。


(それに夜は私にとって都合がいい。色は日中ほど分からないが、それ以外はほぼ違わず周りを見ることができる。相手はそんなことは思うまい。だから先代のグロリア侯爵は私にこの仕事を命令したのだ。だが、理由はそれだけじゃない。夜中になるとエレナを閉じ込めている建物の周辺には、伯爵の傍仕えがいなくなり、護衛もほとんどいなくなる。伯爵がわざとそうしていたんだ)


 伯爵は深夜を過ぎたころになると、別の建物に閉じ込めた女を抱きに行く。当然妻や子供、そして周囲にいる使用人に気づかれないようにするためだ。


 特に使用人に自身の性癖が知られてしまえば、妻と子に知られるのも時間の問題であるし、それをえさとして金を脅し取られる可能性もある。そのため表の顔しか知らない傍仕えには悟られないように、夜になると伯爵は人を寄せ付けない。


 そこを利用すれば脱出も楽になるし、ソフィアたちの存在が知られる確率も減る。


「そしてその日の夜、私はこっそりとエレナがいる建物に忍び込んだ」


「え……、でも鍵がかかっているんですよね?」


「鍵はもちろんかかっていたよ。だがここだけの話、大抵の貴族が使っている『ドウォールじょう』は『躯体鍵くたいかぎ』で開けられるのさ」


「『躯体鍵』って何ですか?」


「ほとんどの『ドウォールじょう』を開けられる鍵のことさ。鍵の構造の弱点を突いたものなんだ。なんでか……っていう鍵の話をしていると、話が終わらなくなるから、それはまた今度。私はそれを使ってエレナが閉じ込められている部屋を開けたんだ。彼女はおびえた様子で部屋のすみにいて、使用人になってからよほどひどい仕打ちをされていたことが感じられた」


 ソフィアはそこで言葉を区切る。

 すると脳裏には一瞬にして、そのときの記憶が鮮明によみがえった。


     ★


 エレナを助けることになった夜。


 ソフィアが明かりのない真っ暗な部屋に入ると、エレナは息を飲んで部屋の隅に寄って行った。

 いつも伯爵しか来ていないからだろう。反射的に逃げたのだろうと思った。


 ソフィアは警戒心を解くため、不用意にエレナに近づくことなく、扉の付近に立ったまま、できるだけ小さな声で言った。


「驚かせて申し訳ありません。私の名前は、『シンファ』。あなたをここから助けるために来ました。すぐには信じていただけないかもしれませんが、私はあなたの味方です」


「シンファ」というのは、ソフィアが当時使っていた偽名である。


 エレナがすぐに信じてくれるか心配だったが、声が女性だと思って安心したのか、暗闇の中で少し表情をゆるめたのが分かった。


 そして彼女は深呼吸をして心で何かを決めると、か細い声で次のようにソフィアに尋ねた。

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