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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第四章

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第60話 アレクシスの言い分

 だが、身分を隠しているからといって、必ずしも個人が特定されないとは限らない。普段身に着けているものはもちろん、すり替えることができない特徴的な顔の輪郭りんかく、骨格、指の形、声など、本人だと特定できるものはいくらでもある。


 そのため、あの場所で己が誰であるかを隠し通したいと思う者は、徹底的に自分を隠すのだ。ソフィアたちがそうであったように、名前をいつわり、普段しないような恰好かっこうをし、声も極力出さない。


 しかし、「隠さなければならない立場」だとしても、ソフィアはまだいい。


 調べたところで貴族ではないため、彼女と関わっている商人に辿たどり着かなければリョダリの族長であるということまでは中々突き止められないだろう。

 それでも偽名を使っているのは、十年前に闇取引オウルス・クロウに出入りしていたことがあるのと、リョダリが王家の影の護衛をしているため、念には念を入れてのことである。


 また、純粋に闇取引オウルス・クロウの商品を欲している客であれば、「アレクシス」が何者であろうともスビリウスが調べることはない。


 だが、今回手に入れた景品は、スビリウスにとっての天敵の子。


 彼らはオブシディアンに関わる者たちを徹底的に洗い出そうとしており、もし関わっていると思われてしまえば、どんな火の粉が降って来るか分からない。


 貴族の数はかなりの多いが、それなりの手続きを踏めば、系譜けいふを用いて「アレクシス」という名前を探し出すことも可能だ。国民を全て調べるのではないし、スビリウスのことである。必要ならどんな手を使ってでも調べるだろう。


 さらに厄介やっかいなのは、アレクシスが侯爵であるということ。


 貴族の中でも上のほうの地位であり、王家派として周知されている。つまり、王の味方であるということだ。


 現在セルディア王国は、王家が国の税収のあり方について変えようとしたことで、王家派と反対派に分かれている。


 それによりリョダリの力を影の護衛として必要とするようになったわけだが、仮に王家派のアレクシスが、「闇取引オウルス・クロウに出入りしている」と知られれば、様々な面で問題が起こってしまう。


 闇取引オウルス・クロウが公になれば、王家が闇取引を見過ごしていたことを指摘されるだけでなく、「非人道的なことをしている者たちとつるんでいるような貴族を傍に置いた」などと言われることになる。


 他にも細々とした問題が噴出ふんしゅつし、さらに関係ない些細ささいなことも大きなこととして取り上げられ、現在の王家の信用が失墜しっついし、「無能」という評価を付けられた、別の王を立てる騒ぎになりかねない。


 要するに、反対派の勢力を拡大させるための情報として、売られてしまうこともあるということだ。


 特に今のスビリウスは、オブシディアンとの戦いのせいで、復興に多くの資金を要したはずである。金が手に入るなら、情報を売ることもいとわないだろう。


 この点については、先代のグロリア侯爵もそのことについては徹底的に気を付けていた。だからこそ、闇取引オウルス・クロウにおいてもできるだけ自分は後ろのほうにいて、ソフィアや彼女以外の仲間たちに指示して動かしていたのである。


 よって今回も、アレクシスが「グロリア侯爵」であることを知られないようにするために、ソフィアは徹底して偽名を呼ぶようしていた。


 またソフィアが追手に牽制けんせいをすることができたのも、相手がいくら探っても己が何者かを知られないように準備してあると確信していたからだ。


 それにもかかわらず、ここにきて彼は「偽名で呼び合うのが面倒」と平気で言う。


闇取引オウルス・クロウのことを何とかしたい」と思っているからこそ、今回の取引に参加したのだろうから、気持ちは本気なのだろうが、どこか気が抜けているのは否めない。


「落ち着かないんだよ。長年呼んできた君の名前を『レイグス』って、言わなくちゃいけないんだから」


 ソフィアの問いに、子どものような意見を言う。


「あだ名だと思えばいいだろうが」


「それは無理」


「だったら仕事だと思って割り切れ」


「そうだけど……」


 しょんぼりとするアレクシスに、ソフィアは眉をひそめた。


「何故そんなに名前にこだわるんだ。別に大したことじゃないだろう。それに偽名で呼び合うのは、君に何かあったら先代にも、奥方にも申し訳が立たないからだ。もし私が君の本名を呼んだときに、スビリウスの誰かが聞いていたら、どこの貴族かなんてすぐに割り出される。ちょっとは考えろ」


 するとアレクシスはちょっと考えてから「分かった」というと、言葉を続けた。


「さっきの『面倒だから』というのは訂正する。いや、まったく理由に無いわけじゃないけど、それが主な理由じゃない」


 訂正したからいいというものではないのだが、と思いつつ、ソフィアは「じゃあ何だ」と尋ねた。


「君の言い分は分かるよ。でも、ユーインとアルフィに、ちゃんと名前で呼んでもらいたいなと思ったんだ」

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