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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第三章

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第55話 戦闘

 まるで張り詰めた緊張を破る合図であったかのように、そこにいた者たちが一斉に動き出した。


 その中でエレインは、反射的にふところから自動式の拳銃を取り出す。安全装置をはずし、流れるような動作で自分の横にいるであろう女に照準しょうじゅんを合わせた。


(そこだ!)


 確実に相手がいるだろうというところで、彼はトリガーガートから指をスライドさせ引き金を引く。すると火薬の爆発音が一瞬で広がった。


(当たったか?)


 至近距離のため、撃った瞬間は腕辺りに当たったかと思った。

 だが、相手からは痛がるどころか、うめき声すら聞こえない。エレインは一発目が失敗したと判断し、もう一発撃とうと再び構えたときだった。

 拳銃を持っている右手を、硬い棒か何かで下から上に強打きょうだされてしまった。それと同時に、拳銃が手から離れてしまう。


「うっ!」


 ガッと鈍くて大きい音がしたかと思うと、右腕全体にしびれるような激痛が走る。


(っつう……!)


 エレインは右腕を抱えるようにして背を丸める。だが、顔は何とか上げて、ランプの光を頼りに暗闇の中へ飛んで行ってしまった拳銃を探した。


(銃は⁉ どこだ⁉)


 だがその間に、アベルとヨハンが持っていたランプが次々に割られてしまう。音からするに、相手は小石を投げて壊しているようだった。


(また暗闇か……)


 ランプを全て割られてしまったため、視覚を確保するための明かりがなくなってしまう。

 さらに、ランプが割れる音に拳銃の音、そしてエレインたちが暗闇に動揺した気持ちを感じ取って、彼らの馬が指示に反してそわそわし出した。


「落ち着け、落ち着けって」


「どうどう」

 

 イグマンやエレインたちが馬を落ち着かせようとするが、それに乗じて、女が馬エレインたちの間を行ったり来たりする。そのせいで、先ほどまで分かっていた仲間の位置が、ものの見事に分からなくされてしまった。


(拳銃もどこに行ったのか分からなくなってしまったし、皆がどこ辺りにいるかも把握できなくなった……。これではイグマンさまもアベルたちも拳銃を使えない……)


 エレインは思わず手綱をぎゅっと握っていた。

 ここまで相手の術中にはまるのは、スビリウスで生きてきて初めてである。


(声を出して位置を把握することもできるが、そうするとあの女に俺たちの位置を知らせることになってしまう……)


 仲間がいることを逆手さかてにとられてしまった。

 エレインだけではない。全員が仲間の位置を把握したいと思っているがそれができないでいる。少しでも声を出したら、相手に自分がどこにいるか情報を与えてしまうからだ。


(どうする……! どうしたらいい⁉)


 エレインが内心焦っていると、ふと声が聞こえた。


「一つ聞きたいことがある」


 女の声だった。さらに先ほど打って変わってふてぶてしい口調に変わっている。


(どんな余裕だ。この状況で声を出したら位置を教えることになるというのに)


 エレインと同じことを思っていた者がいたのだろう。

 誰だか分からないが、カチャッという音が聞こえる。自動式拳銃のスライドを引っ張った音だろう。

 だが、女は冷静だった。


「止めておけ。私にははっきり誰がどこにいるか分かっている。少しでも妙な動きをしたら、肩をつ」


 女の言葉で周りはしんと静まり返る。


 緊迫した気配がこの辺りを支配しているせいか、虫の声すら聞こえない。——と思った瞬間、銃の発砲する音がした。


 誰かが女を撃ったのか――と思ったが、次の言葉でそうではないことが示される。


「動くなと言っただろう」


 女の余裕のある声である。つまり、銃を構えた誰かが女に撃たれたということだ。


(誰が撃たれたんだ……?)


 誰も声を出さないということは、弾が当たらなかったということだろうか。そもそもこの暗闇の中、何故自分たちの位置を把握できるのかも疑問である。


(はったりか?)


 女があまりにゆったりとした口調で話すので、自分たちはその術中にはまっているのかもしれない。


 そう思ったエレインは、意を決して馬を少し動かしてみる。

 だが、女ははったりではなかった。次の瞬間二度目の発砲の音が聞こえ、エレインの右の耳たぶの下をかすったのである。

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