第50話 合流
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ソフィアが宿屋を出る、一時間二十分ほど前。
「馬は調達できなかった……かな」
イグマンは森の入り口で、借りた馬の背を優しく撫でながら独り言ちる。
(アベルたちを待つのを途中で切り上げて、エレインを追いかけたほうが良かったか?)
そう思いながら、イグマンは星空を見上げた。南の空には、第一級の星・シャリアが他の星と比べてもずっと明るく、青く輝いている。
エレインが森へ入ったとき、この星は丁度真下にある東側の木と同じ位置にあった。それが今は西へ十度弱傾いている。
十度は大体拳一つ分。星が一度傾くと四分進むことから、四十分近く経っていた。
(セレレインの森の分かれ道は、ここから大体四キロ辺りにあるから……エレインはそれくらいまでは辿り着いていそうだ)
馬の常足だと、大体時速六キロほどである。
速足ならばその倍は進む。
エレインはこの暗闇でも馬に速足をさせるくらいはできるはずだが、川縁などがあれば速度を落とすことを考えると、大体四キロの地点を越えた辺りくらいまでは行けたのではないかと想像する。
(さすがにそろそろ出発したいところだが……、どうもアベルたちを待っていたほうがいい気がするんだよなぁ。どうしたものか)
借馬屋で女に倒されたと言う男たち。
「女がたった一人で男五人を相手した」というのは、何も知らない者が聞いたら「嘘だろう」と一蹴しただろうし、イグマンですらあの男たちが隙だらけだったのではないかとさえ思っている。だが、闇取引を出入りする客人が、お金を出してまでわざわざ無能を雇うとも考えにくい。
(俺が追う側の客の立場なら、相手から横取りすることを考えて、自分なりに万全の態勢を整えて臨むはずだ。そう考えると、あの男たちは無能なんかじゃない。力はあったが、女に完全に実力差で負けたということになる)
彼らが実力で負けたというのであれば、イグマンとエレインだけでは勝てないかもしれない可能性もないとはいえない――ということだ。
もちろん心情としては、借馬屋で女に負けた男たちが、自分たちと同等、もしくはそれ以上の力を持っているとは考えたくはない。女に力で劣るなどあり得ないと思っているからだ。
しかし、相手を甘く見ないほうがいいことは、長年この仕事をしてきた経験上体が感じている。よって、自分とエレイン、二人だけで向かうよりも、少しでも人数が多いほうが勝算があるとイグマンは思っているのだ。
(だが、アベルたちを待っていて、あの兄弟を見失ってしまっては元も子もない……)
イグマンはそう考えて、はぁと深いため息をつく。
(エレインが慎重だというが、まあ、その通りだな。あいつに自由に意見していいと言ったら、「さっさと進んで、相手を視界に捉えたときに、どうするか考えればいいじゃないですか。そして機会を見極めて戦えばいいんですよ」とか言いそうだ。ついでに「私たちの目的は、スビリウスにあの兄弟を持ち帰ることなのですから」とかな。確かに成功すればいい。それが失敗すれば報酬も減額だからな。だが、できれば少しでも楽に手に入れたい。エレインたちにあまり怪我をさせたくないからな……)
イグマンが眉を寄せて悩んでいると、東のほうから砂を掻くような音が聞こえてきた。
もしかしてと思い、火を消していたランプの蝋燭に再び火を点ける。月のある日ならまだしも、新月の日に街灯すらないところで馬を乗る者はそうはいない。
期待をして待っていると、曲がり角を曲がった馬が二頭こちらに向かってくるのが見えた。
(アベルたちだろうか?)
イグマンが暗闇に目を凝らすと、前方の馬に乗った騎手が手に持っていたランプを自分の顔に近づけた。それを見てイグマンは、やはり予想通りだったと明るい声で部下の名を呼ぶ。
「アベル、ヨハン」
イグマンが自分の馬を引いて近づくと、アベルとヨハンも馬から下りる。そしてアベルは自分の馬の手綱をヨハンに渡すと、ランプだけ持ってイグマンのほうへ駆け寄った。




