第49話 複数の問題
「屋敷に戻れない」ということは、ユーインたちを誘拐した実行犯が捕まっていないというのもあるが、それ以前に主がいない状態にあるか、もしくは屋敷そのものが大きく損傷している、あるいはその両方の問題を抱えている可能性がある。
(アレクシスは甘いからな。ジェレミア伯爵や夫人が生きているのなら、子どもたちのことを考えてどうにかして会わせようとするはず。公にはユーインたちが戻ったことを公表することはできなくとも、何かしらの方法で顔を合わせるくらいは、彼になら準備することができるだろう。『父親に会える』『母親に会える』と言っただけで、きっとユーインたちは励まされたはずだ。だが、そのことをちらとも話さないということは、簡単な状況にないということだろうな。となると、問題は厄介になる……)
屋敷を失っただけならば、伯爵に屋敷を再建する資金さえあればどうということもないが、伯爵が亡くなっていた場合は色んな問題が発生してしまう。
もし伯爵が亡くなっていた場合、次の後継者であるユーイン・ジェレミアが伯爵にならなければならないが、現時点でユーインは公には出ることができない。
セルディア王国はスビリウスという組織を市民に公表したくない状況にあるため、ユーインたちを誘拐した実行犯を捕まえるまでは、表の世界に戻ることはできないからだ。
もし実行犯を見つけない状態で「戻った」と発表すれば、犯人や助けた経緯を捏造しなければならなくなるし、スビリウスに警戒感を与えてしまうだろう。ただでさえ尻尾が掴みにくい存在なのに、さらに難しくなる。
それを避けるため、王家はスビリウスに関わることをできるだけ隠そうとするだろう。
(しかし、王はいつまでユーインたちが戻ることを待っていてくれるか。ひと月あるか、ないかくらいか。いや、それも難しいか……)
事件が起きてから二か月。ユーインとアルフィはまだ行方不明という状態。そしてジェレミア伯爵も生きているかも分からない。
曖昧な状態で何か月も放置していれば、他の貴族が黙っていないだろう。
爵位がある限り、それ相応の働きをすることが求められる。
(……となると、一番はユーインを戻らせることが先決だ。そうすれば、たとえジェレミア伯爵が亡くなっていたとしても、後継者がいる限りとりあえず潰れることは回避できる。ただ、そうならないようにするには、実行犯を早く捕まえないといけないわけだが、問題はそれだけで終わらない……)
仮に、ユーインが表舞台に戻ることができて、爵位を継承することができたとしても、今度は相続税などの負担が出てくる。信頼できる執事も生きているか分からない状況で、何も分からないユーインが無事に爵位と財産を受け継げるかも甚だ疑問である。
(アレクシスは手伝ってやりたい気持ちは山々だろうが、きっとそれも難しい。ジェレミア家は王都を挟んで東のほうにあり、グロリア家は西側だ。あまり交流もあったと聞いたことがないし、急に出てくると関係性を怪しまれてしまう)
ソフィアはそこまで考えて、小さくため息をつく。
「王家の影の護衛」になるまではこんなことを考えることなどなかったのに、王と貴族の周辺にいたせいで余計な知恵が身に着いてしまった。無駄な心労だと思うが、もしジェレミア家を襲撃した実行犯が捕まらず、ジェレミア伯爵も亡くなっていて、ユーインが伯爵になることができなければ、ユーインとアルフィはどこにも戻れるところがないことになってしまう。
(もしユーインたちが戻ることができなかったら、今度は別の意味で問題になるな。住む場所もそうだし、オブシディアンのことがあるから護衛も付ける必要がある。やるのはいいが、彼らをどこで守り、その金をどこから捻出するか。特に金が問題だろうな)
ユーインたちが伯爵家に戻れないということは、ユーインがジェレミア家のお金を使えない、もしくは財産を受け取ることができないということでもある。
万一ジェレミア家が消失した場合、その財産は国と寄付で分配されてしまうため、ユーインの手には残らない。アルフィは問題外だ。彼はジェレミア家の第二後継者という地位は持っているが、家の財産は全て後継者にのみ引き継がれるから、彼はユーインが伯爵家の長になろうがなるまいが、彼の加護なしでは生きられない。
(この状況をどう打破するか……)
ソフィアはそこまで考えて、自分は馬鹿だなと思った。
アレクシスに今回の仕事を頼まれたときは、乗り気ではなかった。
それが話を聞いて、少年たちが可哀そうだからと思い、闇取引から助け出し、追手から逃れるところまで手伝えれば十分だろうと思っていたのに、今はユーインたちの今後についてまでどうするかまで憂いている。
(罪滅ぼしか?)
口元をふっと緩め、自嘲気味に笑う。
十年前の失敗のやり直しをしているのか。
それとも、先代のグロリア侯爵の元に残っていたら、ユーインたちをこんなふうにさせなくてすんだのではないかと思うからなのか。
どちらにせよ、ソフィアは決めなければならないと思っていた。
今後も彼らと関わっていくのか否かを――。




