第47話 公にできない理由
(犯人を絞るため……?)
ユーインは、何でだろうと頭で問いを繰り返した。
(何かが変だ……。何だろう。難しいけど考えなくちゃ。何だろう……何が……)
そのときユーインはあることに気づき、はっとする。
自分たちを助けてくれたアレクシスとソフィアは、「スビリウス」という組織が裏で動いていることを知っていた。つまり、実行犯は分からなくても、指示をしている組織は分かるということである。
どの組織がやったのか分かっているというのに、犯人を絞らなくてはいけないという――。その点が腑に落ちなかったのだ。
「あの、ジェームスさん」
「うん?」
ユーインは思ったことをアレクシスに尋ねた。
「ジェームスさんたちが僕たちをあそこから助けてくれたということは、本当は犯人が誰であるか分かっているんですよね? それなのにどうしてすぐに捕まらないのですか?」
すると彼は「そうなんだけどね……」と気が重そうに言ってから、言葉を続けた。
「誰がやったのかが分かっていても証拠がなければ罪を問うことはできない。相手が非人道的ならばなおのこと。毅然とした態度、つまりしっかりとした姿勢でいなければ、今度は私たちの不手際を責められて、それが市民に言いふらされることになる。そうなると国は動きにくくなり、ますますスビリウスが動きやすい状況を作ってしまうことになりかねない。だからこそ、実際に出入りした人物を探さなくてはならないんだ」
「そう、だったんですね……」
ユーインは小さく呟く。
法を犯して、堂々と非人道的なことやずる賢いことをして金儲けをしている相手と対峙するには、捕まえる側がきちんと法に準じて対応しなければ、それこそ足をすくわれるということなのだ。
(人を傷つけるような人がいたら、すぐに罰することができるのだと思っていたけど、違うんだ……)
だが、逆を言えば、調査が進まなければ父や母のことをも知ることができないということである。
ユーインは、思い切ってこんなことを提案してみた。
「あの、それでしたら、僕が見たものは役に立ちませんか? アルフィと誘拐されたときのことは、気を失うまでは覚えています」
しかし、意外なことにアレクシスは首を横に振る。
「それにはまず、ユーインが無事に戻ったことを王の前で公に証明しないといけない。今君たちは、行方不明の状態になっているからね」
「王」という言葉を聞いて、ユーインはあることを思い付く。
「では、王の元へ行けば、誘拐されたときの話を聞いてもらえて、さらには別宅で生活をすることをお願いしたら住むことはできるということでしょうか?」
王にお願いすれば何とかしてもらえるのではないか。
だが、ユーインの淡い期待はアレクシスによって簡単に消えてしまう。
「残念ながら、どちらも難しい」
「何故ですか?」
絶対的権力のある王が命じれば、別宅で暮らすことくらいは許してくれるのではないかと思っていた。そこはジェレミア伯爵が持っていた家であり、のちにユーインが継ぐことになる場所なのだから。
(正当な理由であるから、誰にも文句は言われないはず。何が問題なんだろう?)
小首を傾げたユーインに、アレクシスは次のように答えた。
「このことを公にすれば、スビリウスのことも示さなければならなくなるからだよ。でも馬車の中でも話したように、国は組織のことに関しては慎重に調査をしている。『スビリウス』という組織があることは認識しているけれど、その存在は市民にはもちろん、貴族にも公開していないんだ。だからスビリウスのことを知っているのは、私たちのように潜入捜査や調査をしている人か、闇取引に客として出入りしている人たち、そして被害に遭った人たちだけということになる」
「どうして公にしてはいけないのですか? 危険な組織だということを周囲に言ったほうが、皆の安全のためにはいいと思うのですが……」
するとアレクシスは困った笑みを浮かべた。
「その通りなんだけど、組織の実態がつかめていないからこそ下手に動けなくてね。ユーインのお父上はその点、組織のことも知っていらしたようだから、私よりもずっとすごかったわけだけれど、その分相手からも警戒されやすかった。私は臆病者だから、相手と直接対決するようなことは避けて、潜入捜査をしている。その一環として闇取引へ入ってゲームや競売に参加したりしているわけなんだけど、闇取引は違法な闇取引だ。相手に私たちの正体がバレてしまったら、まず闇取引への潜入調査ができなくなる。さらに表の姿を知られてしまったら、本来の生活にも支障が出てきてしまうからね。だから、わざと公にしていないんだ。言わなければ、仮に出入りしていたことが分かったとしても、市民からの非難を避けることができるからね」




