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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第二章

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第40話 曖昧

 エレインはちょっと考えてから、次のように言った。


「彼らの言っていることが虚偽きょぎで、女が男にやられるなんてあり得ない……と思っているということですか?」


「それもある。——だが、そうじゃない」


「どういうことです?」


 エレインが言ったように、女に男五人が全員やられたという事実は確かに受け入れがたい。

 だが、イグマンが気になっているのはそのことではなかった。

 女に男五人がやられたという話を聞いて、ある人物像が彼の頭の中で浮かび上がっていたのである。


「……こんなことが、前にもあったような気がするんだ」


 エレインは上司の言ったことに対して、目をしばたたかせた。


「さっきは心当たりがないって言ったじゃないですか」


 むっとするエレインに対し、イグマンがやんわりと答えた。


「それは俺が直接見た話じゃないから、確信を持てなくてそう言ったんだよ」


「分かりました。それなら、一応理由を聞きましょうか」


「一応って何だよ、一応って……」


 イグマンはエレインの態度にため息をつきつつ、当時のことを思い出しながら語った。


「……まだスビリウスが定期的に闇取引オウルス・クロウを運営していたころの話だ。あのころも、ゲームが終わったあとに景品を追いかける客が多くて、貴族に雇われた連中が追っかけて、追われる者はもちろん、応戦された追う者が怪我をすることは結構当たり前だったんだ。そんな中で、ある女護衛士が付いている者だけは、いつも無傷で夜明けまで切り抜けていたらしい」


「女の護衛士が、無傷?」


「まあ、『無傷』というのは誇張こちょう表現だろうけど、彼女が守っていた景品は、一度も横取りされたことはなかったと言われている。——で、その女護衛士の強さが、今回の女に似ているような気がしたんだよ」


「ということは、その女護衛士と今回の女が同一人物かもしれないってことですか? それいつの話で、どなたに聞いたんです?」


 相手が分かれば対策がしやすい。そう思ったであろうエレインが矢継ぎ早の質問をする。イグマンは一つずつゆっくりと答えた。


「うーん……十年くらい前だったと思う。話は調査員をしていた奴から聞いたんだ。女が護衛をしているなんて、そうそうないから印象に残っていたんだと思う。ただ、あるときからぱったり、その女護衛士は姿を現さなくなったという話だ」


「……その人ではないんじゃないですか?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


曖昧あいまいですね」


 エレインが役に立たない話にがっかりしため息混じりに言うと、イグマンはちょっと困ったふうに笑った。


「だから、心当たりはないと言っただろう。根拠があるわけじゃなくて、ただなんとなく思い出しただけなんだから」


「まあ、そうですけど」


 エレインに素っ気なく言われたが、イグマンは今回の追跡に、どうしてもいつも以上に気を遣わねばならないという感覚がぬぐえないでいた。


 何故このような気持ちになるのかが分からない。


 もしかするとただ単に女護衛士の話が頭にあったのかもしれないが、長年の勘がそうさせているのかもしれないという考えもある。どちらにせよ、慎重に動くことに越したことはない。


「——ということでだ。エレイン」


「何です?」


「先に行って兄弟を追ってくれ」


 上司の指示に、エレインはきょとんとした表情を浮かべた。


「私だけですか?」


「できるだろう?」


「もちろんできますが、イグマンさまは?」


「アベルたちを少し待とうと思うんだ」


「心配なんですか? 大丈夫ですよ、アベルたちなら」


 エレインの言う通り、向かった方角も伝えてあるし、森のことも言ってあるから間違いなく追ってこれるとは思う。

 しかし、イグマンには別の意図があった。


「念のためな。それに早く合流できるならしたほうがいい。できるだけ多い人数で追ったほうが確実だ」


 エレインは少し納得していない様子だったが、特に言い返すこともなく「分かりました」と指示を受け入れた。


「それから、この森には分かれ道がある。兄弟たちがどちらの道を行ったのかを確認して、近くの木にでも布を付けて印にしておいてくれ。それから森を出るところまで行っても俺たちが来なかったら、兄弟たちがどこへ向かったのかある程度追って方向だけつかんだら戻ってこい」


「はい」


「ただ、アベルとヨハンが来るのが遅かったら、俺一人でエレインを追う」


「分かりました」


 そしてエレインは馬上にひらりと乗ると、イグマンを見下ろした。


「では、先に行ってまいります」


「頼んだぞ」


 エレインは上司のその言葉を背に、真っ暗な森の中を一つの明かりを頼りに走り出すのだった。

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